現代的なヨガの進化と多様性:アシュタンガ、アイアンガー、クンダリーニ、ビクラム… 古代叡智の現代的開花
現代社会において、ヨガは、フィットネス、健康法、リラクゼーション、あるいはスピリチュアルな実践として、世界中で多様な形で実践されています。しかし、このグローバルなヨガブームの影には、古代インドから脈々と受け継がれてきた伝統と、20世紀以降の革新的な進化の物語があります。
今回は、現代ヨガの多様性を形作った重要な要素である、アシュタンガ・ヨガ、アイアンガー・ヨガ、クンダリーニ・ヨガ、ビクラム・ヨガといった代表的な流派に焦点を当て、その歴史的背景、特徴、そして、現代社会におけるヨガの進化について解説していきます。問題点に関しても最後にまとめています。
1. 近代ヨガの父:クリシュナマチャリアの功績 – 伝統と革新の融合
現代ヨガの多様性を語る上で、欠かせない人物が、ティルマライ・クリシュナマチャリア (1888-1989) です。彼は、20世紀前半に活躍したインドのヨガマスターであり、古代のヨガの経典を研究し、現代人のニーズに合わせてヨガを再解釈し、体系化した、「近代ヨガの父」と称される人物です。
クリシュナマチャリアは、ヨガのアーサナ(ポーズ)を体系化し、ヴィンヤサ(呼吸と動きの同期)の概念を強調しました。また、個々の生徒の体質や能力に合わせた指導法を重視し、ヨガをより accessible なものにしました。
彼の教えは、後のヨガの普及に大きな影響を与え、多くの弟子たちによって、世界中に広められていきます。
2. アシュタンガ・ヨガ:ダイナミックなフロー – パタビ・ジョイスの革新
パタビ・ジョイス (1915-2009) は、クリシュナマチャリアの弟子の一人であり、アシュタンガ・ヨガを創始しました。アシュタンガ・ヨガは、サンスクリット語で「八支分のヨガ」を意味し、『ヨーガ・スートラ』で説かれる八支則に基づいたヨガスタイルです。
アシュタンガ・ヨガの特徴は、以下の通りです。
-
ヴィンヤサ: 呼吸と動きを同期させること。
-
トリスターナ: 姿勢(アーサナ)、呼吸法(プラーナーヤーマ)、凝視点(ドリシュティ)の三つの要素。
-
決められたシークエンス: プライマリーシリーズ、インターミディエイトシリーズ、アドバンスドシリーズといった、決められた順番でポーズを行う。
アシュタンガ・ヨガは、力強く、ダイナミックなフローが特徴で、身体的な鍛錬効果が高いヨガスタイルとして、世界中で人気を博しています。
3. アイアンガー・ヨガ:正確なアライメント – B.K.S. アイアンガーの精密さ
B.K.S. アイアンガー (1918-2014) も、クリシュナマチャリアの弟子の一人であり、アイアンガー・ヨガを創始しました。
アイアンガー・ヨガの特徴は、以下の通りです。
-
正確なアライメント: 身体の各部位を正しい位置に配置することで、ポーズの効果を最大限に引き出す。
-
プロップス(補助具)の使用: ブロック、ベルト、ブランケットなどを用いることで、初心者でも安全にポーズを行うことができる。
-
ポーズの保持時間: ポーズを長時間保持することで、身体の深部に働きかける。
アイアンガー・ヨガは、身体の歪みを矯正し、柔軟性、筋力、バランス感覚を高める効果が高いヨガスタイルとして、世界中で高く評価されています。
4. クンダリーニ・ヨガ:潜在能力の覚醒 – ヨギ・バジャンが西洋にもたらした秘伝
クンダリーニ・ヨガは、身体に眠る潜在的なエネルギー(クンダリーニ)を覚醒させることを目的とした、スピリチュアルなヨガスタイルです。
クンダリーニ・ヨガの特徴は、以下の通りです。
-
マントラ: 特定の響きを持つ、神聖な言葉を唱える。
-
呼吸法: 独特の呼吸法を用いる。
-
クリヤ: ポーズ、呼吸法、マントラを組み合わせた、一連の動作。
-
瞑想: 深い瞑想状態を目指す。
クンダリーニ・ヨガは、1969年に、ヨギ・バジャンによって、西洋に紹介されました。それまで、秘伝とされてきたクンダリーニ・ヨガは、西洋社会で大きな反響を呼び、多くの実践者を生み出しました。
5. ビクラム・ヨガ:高温多湿の環境 – ビクラム・ チョードリー
ビクラム・ヨガは、高温多湿の環境で行うヨガスタイルです。室温40度、湿度40%に設定されたスタジオで行われ、26のポーズと2つの呼吸法を、決められた順番で行います。
ビクラム・ヨガは、1970年代に、ビクラム・ チョードリーによって創始されました。大量の汗をかくことで、身体の毒素を排出するデトックス効果や、筋肉の柔軟性を高める効果があるとされています。
その後、ビクラム・ チョードリーアメリカで訴訟を起こされ敗訴し、海外へと逃亡しております。
現代ヨガ:多様性と進化 – 自己探求とウェルビーイング
現代のヨガは、古代の伝統を受け継ぎながらも、時代に合わせて進化を続けています。アシュタンガ・ヨガ、アイアンガー・ヨガ、クンダリーニ・ヨガ、ビクラム・ヨガなど、様々な流派が生まれ、それぞれ独自の特徴と魅力を持っています。
現代ヨガは、単なる身体的な実践ではなく、心身の健康、ストレス軽減、自己探求、そして、精神的な成長など、多様なニーズに応えることができる、包括的な実践体系へと発展しています。
古代インドで生まれたヨガの叡智は、現代社会においても、私たちに、より健やかで、調和のとれた、そして、充実した人生を送るためのヒントを与え続けています。
追記:ヨガの問題提起
ここで重要なのは、特定の流派全体を批判したり、否定したりすることが目的ではないということです。それぞれの流派には、素晴らしい指導者や、ヨガを通して心身の健康や精神的な成長を体験している実践者も多く存在します。(ビクラム・ヨガ指導者でも素晴らしい人を知っております)
重要なのは、ヨガを学ぶ者、指導する者、それぞれが、これらの問題点について認識し、批判的な視点を持って、ヨガ本来の目的を見失わないようにすることです。
以下に、各流派における問題点として、一般的に指摘されている点をまとめますが、あくまでも参考情報として捉え、特定の流派や指導者を攻撃する意図がないことをご理解ください。
1. アシュタンガ・ヨガ
-
身体的なリスク: ダイナミックな動きと、決められたシークエンスを重視するあまり、身体の柔軟性や筋力が十分でない人が無理をしてしまい、怪我のリスクが高まる可能性があります。
-
競争意識の助長: ポーズの完成度や、練習の頻度、あるいは、上級者向けのポーズに挑戦することなどが、ステータスシンボルと化し、競争意識や優越感を煽るような環境が生まれてしまう可能性があります。
2. アイアンガー・ヨガ
-
柔軟性よりもアライメント重視: 正確なアライメント(骨格の配置)を重視するあまり、身体の柔軟性が十分でない人が、ポーズを無理やり矯正しようとして、怪我のリスクが高まる可能性があります。
-
権威主義的な指導: 創始者であるB.K.S. アイアンガーの影響力が強く、一部では、彼の教えを絶対視するような、権威主義的な指導が行われているという指摘もあります。
3. クンダリーニ・ヨガ
-
精神的なリスク: エネルギーの覚醒や精神的な体験を重視するあまり、精神的に不安定な人や、心の準備ができていない人が、練習によって、精神的な混乱やトラウマを引き起こす可能性があります。
-
カルト的な側面: 一部のグループでは、指導者への絶対的な服従や、閉鎖的なコミュニティ形成など、カルト的な側面が見られるという指摘もあります。
4. ビクラム・ヨガ
-
高温多湿な環境でのリスク: 高温多湿な環境で行うため、脱水症状や熱中症のリスクが高まります。特に、循環器系に問題を抱えている人や、高齢者は注意が必要です。
-
商業主義: フランチャイズ展開によるビジネスモデルが確立されており、一部では、利益追求を優先し、ヨガ本来の精神性を軽視する傾向が見られるという指摘もあります。
5. ヨガコミュニティ全体における問題点
-
商業主義: ヨガブームの過熱に伴い、ヨガスタジオやヨガ関連商品の市場が拡大し、一部では、利益追求を優先し、ヨガ本来の精神性を軽視する傾向が見られます。
-
権威主義: カリスマ性のある指導者や、特定の流派の権威が強まり、批判的な思考や多様な意見が排除されるような環境が生まれてしまう可能性があります。
-
文化の盗用: 西洋社会におけるヨガの普及に伴い、ヨガの起源や文化的な背景を尊重せず、商業的な目的で、安易に利用する「文化の盗用」が問題視されています。
これらの問題点は、ヨガが抱える影の部分であり、決して看過すべきものではありません。しかし、これらの問題点を克服し、ヨガ本来の目的である、心身の健康、精神的な成長、そして、自己実現を追求していくためには、ヨガコミュニティ全体で、オープンな議論と、建設的な取り組みを進めていくことが必要です。
ヨガを学ぶ者、指導する者、それぞれが、批判的な思考を持ち、倫理観を大切にし、そして、常にヨガの原点に立ち返ることで、ヨガは、より健全で、持続可能な形で、発展していくことができるでしょう。
■注意書き
このブログ記事は、特定の流派や指導者を批判する意図はなく、ヨガコミュニティ全体が抱える問題点について、客観的な視点から解説することを目的としています。
ヨガは、多様性と包容性を大切にする、素晴らしい実践です。しかし、その多様性ゆえに、様々な課題も抱えています。これらの課題を克服し、ヨガが、より多くの人々に、真の幸福と心の平和をもたらすことができるよう、私たちは、共に学び、成長していく必要があるでしょう。
ヨガの基本情報まとめの目次は以下よりご覧いただけます。