一生懸命に練習はする(アビヤーサ)。しかし、その結果には執着しない(ヴァイラーギャ)

自己啓発

ヨガを推奨しております。
それは、ヨガが単なる健康体操ではなく、私たちがこの複雑な世界を軽やかに生きていくための「心の羅針盤」を与えてくれるからです。

ヨガの根本経典『ヨガ・スートラ』には、心の波立ちを鎮め、真の静寂へと至るための二つの翼が記されています。
それが、「アビヤーサ(修習)」と「ヴァイラーギャ(離欲)」です。
この二つは、車の両輪のようなものです。どちらか片方だけでは、ヨガという道は前に進みません。

今日は、この相反するようにも見える二つの教えが、なぜ現代を生きる私たちにとってこれほどまでに重要なのか、静かにお話ししてみたいと思います。

 

アビヤーサ:情熱を持って、繰り返すこと

まず、「アビヤーサ(Abhyasa)」です。
これは「修習」「練習」「不断の努力」と訳されます。
何かを成し遂げようとするならば、情熱を持って、長い時間をかけ、途切れることなく繰り返し練習すること。
これは、ヨガのアーサナ(ポーズ)に限った話ではありません。仕事でも、芸術でも、人間関係でも、あるいは日々の暮らしを丁寧に営むことでも同じです。

現代社会では「タイパ(タイムパフォーマンス)」や「効率」が重視されがちです。
「すぐに結果が出る」「3日で変わる」といった言葉が溢れています。
しかし、本質的な変容というのは、インスタントラーメンのようにはいきません。
雨垂れが石を穿つように、地道な積み重ねの先にしか見えない景色があります。

ヨガマットの上で、昨日できなかったことが今日すぐにできるようにはなりません。
それでも、今日またマットの上に立ち、呼吸を整え、身体と向き合う。
その「継続する意志」そのものが、私たちの精神的な背骨を強くしてくれます。
アビヤーサとは、自分自身への誠実な約束のようなものです。
「私は、私の人生を投げ出さない」という、静かな決意なのです。

 

ヴァイラーギャ:結果を手放す勇気

しかし、ここで問題が起きます。
一生懸命になればなるほど、私たちは「結果」を欲しがってしまうのです。
「これだけ頑張ったのだから、痩せるべきだ」
「これだけ練習したのだから、難しいポーズができるようになるべきだ」
「これだけ尽くしたのだから、愛されるべきだ」

この「結果への期待」や「見返りを求める心」が、私たちを苦しめます。
期待通りにならなかった時、私たちは落胆し、怒り、自分を責めます。
あるいは、結果が出ても「もっと、もっと」と渇望し、決して満たされることがありません。

ここで必要になるのが、もう一つの翼、「ヴァイラーギャ(Vairagya)」です。
これは「離欲」「無執着」「手放すこと」と訳されます。
一生懸命に行為(カルマ)はするけれど、その結果(果実)には執着しないこと。
結果はコントロールできない領域(神の領域、あるいは自然の摂理)にあると知り、委ねること。

これは「諦め」や「無関心」とは違います。
むしろ、結果を気にしないからこそ、純粋に行為そのものに没頭できるという、究極の集中状態です。
弓道家が的(まと)に当てることへの執着を手放した時、矢は自然と的を射抜くといいます。
それと同じです。
「うまくいかなくてもいい」「評価されなくてもいい」
そう思えた瞬間、私たちの心から力みが消え、本来のパフォーマンスが発揮されるのです。

 

現代社会の落とし穴:成果主義という病

現代社会は、強烈な「アビヤーサ(努力)」偏重社会です。
努力すれば夢は叶う、頑張れば報われる。
もちろんそれは美しい真実の一面ですが、同時に「結果が出ないのは努力不足だ」という自己責任論の温床にもなっています。

SNSを開けば、誰かの成功やキラキラした日常が流れてきます。
私たちは無意識に、数字(フォロワー数、年収、体重、いいねの数)という「結果」で自分の価値を測らされています。
結果が出なければ、プロセスには価値がない。
そう思い込まされているのです。
これでは、心は常に枯渇し、焦燥感に追われ続けることになります。

だからこそ、今、「ヴァイラーギャ」の精神が必要です。
成果主義という病から、自分自身を解放してあげるのです。
「ただ、やる」。それだけで十分尊いのだと。
結果はオマケであり、天からのギフトのようなもの。
もらえたらラッキー、もらえなくても、精一杯やったという充実感は誰にも奪えない。
その軽やかさが、私たちを救います。

 

二つの翼で、自由に飛ぶ

アビヤーサ(情熱的な実践)と、ヴァイラーギャ(結果への無執着)。
この二つのバランスが取れた時、ヨガの実践は「苦行」から「喜び」へと変わります。
そして、人生そのものも「戦い」から「遊び(リーラ)」へと変わっていきます。

ポーズができてもできなくても、マットの上に立った自分を褒める。
仕事が評価されてもされなくても、誠実に働いた自分を認める。
そうやって、瞬間瞬間のプロセスそのものを愛すること。
それが「今、ここ」を生きるということです。

全力でアクセルを踏みながら(アビヤーサ)、同時にブレーキへの足も準備しておく(ヴァイラーギャ)のではなく、
全力で漕ぎ出しながら、川の流れに身を任せるような感覚でしょうか。
自力と他力(自然の力)のダンスです。

ただ座る時間。
それは何かを得るためではなく、ただ座るために座る時間です。
そこには成功も失敗もありません。
ただ、静かな呼吸と、満ち足りた「今」があるだけです。

熱く、かつ涼やかに。
そんなヨガ的な生き方を、一緒に練習していきませんか。

ではまた。

 

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。