「時間がない」というパラダイムシフト

自己啓発

ヨガを推奨しております。
それは、ヨガが単に身体を柔らかくする体操ではなく、私たちが信じ込んでいる「現実」という名の幻想から目を覚ますための、壮大な実験だからです。

現代社会において、私たちが最も口にする言い訳。
そして、最も私たちを苦しめている呪文。
それは「時間がない」という言葉ではないでしょうか。

朝起きてから夜眠るまで、私たちは何かに追われています。
時計の針に急かされ、スケジュールの隙間を埋めることに躍起になり、それでも「まだ足りない」「もっと効率的にやらなければ」と焦燥感を抱き続ける。
まるで、時間という凶暴な獣に、後ろから常に噛みつかれているかのように。

しかし、ここで一度立ち止まり、ヨガの深淵な視点から問いかけてみたいのです。
本当に、時間は「ない」のでしょうか?
それとも、そもそも時間という概念そのものが、私たちが作り出した一つの「パラダイム(枠組み)」に過ぎないとしたら?

今日は、この「時間」という最大の幻想について、少し静かに、しかし根本的なパラダイムシフトを起こすようなお話をしたいと思います。

 

現代社会が生んだ「直線時間」という病

私たちが生きている社会は、時間を「過去から未来へと一直線に流れる川」のようなものとして捉えています。
そして、「時は金なり(Time is Money)」という資本主義の教えの下、時間は消費し、管理し、節約すべき「資源」となりました。

このパラダイムの中にいる限り、私たちは決して満たされることはありません。
なぜなら、過ぎ去った過去は「喪失」であり、まだ来ぬ未来は「不安」の源泉だからです。
「あの時こうしていればよかった」という後悔。
「老後のお金はどうしよう」という心配。
現在というこの瞬間は、常に未来のための準備期間、あるいは過去の結果を精算するための場所へと貶められてしまいます。

私たちは「今」を生きていません。
脳内にある「時間の概念」の中を生きているのです。
これが、現代人が抱える慢性的な焦燥感の正体です。

 

ヨガが教える「永遠の今」

しかし、古代のヨギたちは、全く異なる時間の感覚を持っていました。
彼らは瞑想の深まりの中で、ある真実に到達しました。
それは、「過去も未来も存在しない。あるのは『永遠の今』だけだ」という真実です。

考えてみてください。
あなたが過去を思い出すとき、それは「いつ」行われていますか? 今、この瞬間です。
あなたが未来を想像するとき、それは「いつ」行われていますか? 今、この瞬間です。
すべては「今、ここ」というスクリーンに映し出された映像に過ぎません。

ヨガの実践、特に瞑想は、この一直線の時間軸から垂直に抜け出す行為です。
呼吸に意識を集中し、思考(=時間の概念)が静まったとき、そこには過去も未来もありません。
ただ、圧倒的な「存在」があるだけです。
その状態に入ったとき、私たちは「時間がない」のではなく、「時間を超えている」ことに気づきます。
時間に追われる被害者から、時間を内包する創造主へと、意識のシフトが起こるのです。

 

パラダイムシフト:時間を「管理」するのをやめ、「味わう」

では、具体的にどうすればこのパラダイムシフトを日常に持ち込めるのでしょうか。
それは、時間を「管理」しようとするのをやめ、「味わう」ことにシフトすることです。

「時間がない」と焦るとき、私たちの意識は「次のこと」に向いています。
ご飯を食べながら、仕事のことを考える。
歩きながら、スマホを見る。
これは「今」を不在にしています。
時間を殺しているのと同じです。

逆に、目の前の一瞬一瞬に完全に意識を注ぐこと。
お茶を飲むなら、その香り、温度、喉を通る感覚を全身で味わう。
パソコンのキーボードを叩くなら、その指先の感覚に意識を置く。
これをヨガでは「マインドフルネス(サティ)」と呼びます。

不思議なことに、一つひとつの行為を丁寧に味わい尽くすと、時間は濃密になり、主観的には長く感じられるようになります。
「忙しい」という感覚が消え、「充実している」という感覚に変わります。
時間は物理的な長さ(クロノス)ではなく、質的な深さ(カイロス)なのです。

 

スピリチュアルな視点:魂に時間は関係ない

もう少しスピリチュアルな視点をお話ししましょう。
私たちの本質である魂(アートマン)には、年齢も寿命もありません。
それは永遠不滅の存在です。
「時間がない」と焦っているのは、死を恐れるエゴ(自我)だけです。
エゴは「生きているうちに何かを成し遂げなければ」「証を残さなければ」と騒ぎ立てます。

しかし、魂の視点から見れば、何かを達成することよりも、どのような「在り方(State of Being)」でいたかの方が重要です。
焦りや不安の中で100の仕事をこなすよりも、愛と静寂の中でたった1つの花に水をやる方が、魂にとっては価値があるかもしれません。

「人生には限りがある」というのは、肉体の視点での真実です。
しかし、「私たちは永遠の旅の途中である」というのは、魂の視点での真実です。
この二つの視点を統合したとき、私たちは「急ぐ必要はないが、一瞬もおろそかにはできない」という、深い納得感のある生き方にたどり着きます。

 

終わりに:タイムレスな場所

「時間がない」と感じたら、それは「外側の時間」に合わせすぎているサインです。
そんな時は、一度すべての時計を外して、内側のリズムに戻る必要があります。

「縁側」という場所は、ある意味でタイムマシンです。
ここには、せわしない都会の時間とは違う、ゆっくりとした植物の時間、雲の流れの時間が流れています。
あるいは、時間が止まっていると言ってもいいかもしれません。

ただ座り、呼吸をする。
すると、自分の中にあった「焦り」という氷が溶けていくのが分かります。
そして気づくのです。
「なんだ、時間はたっぷりあるじゃないか」と。
いや、「時間なんて、そもそも関係なかったんだ」と。

このパラダイムシフトこそが、ヨガが現代人に贈る最高のギフトです。
時間に追われる人生から、時間を遊ぶ人生へ。
その鍵は、あなたの呼吸の中に、すでに用意されています。

ではまた。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。