第18講:日常という名のヨガマット – 満員電車でできる心のトレーニング

ヨガを学ぶ

私たちはこれまで、ヨガスタジオや自宅の静かな空間に敷かれた、四角い「ヨガマット」の上で、いかにして消費社会の喧騒から距離を置き、内なる平和とつながりを取り戻すかを探求してきました。しかし、私たちの人生の大部分は、その安全で快適なマットの外側で繰り広げられます。満員電車、渋滞の道路、終わりの見えない会議、鳴り響く電話。これら、ストレスフルで、混沌とした「日常」という名の現実の中で、マットの上で得た気づきや平穏を、私たちはどのようにして活かしていくことができるのでしょうか。

もし、ヨガがマットの上だけで終わってしまうのであれば、それは単なる趣味や、現実逃避のためのシェルターに過ぎないでしょう。しかし、ヨガの真の目的は、マットの上での実践を、日常生活のあらゆる瞬間にまで拡張し、人生そのものを一つの壮大な「ヨガ」として生きていくことにあります。つまり、「日常こそが、私たちの本当のヨガマットである」という視点への転換です。

この視点に立つとき、これまで私たちを悩ませてきたストレスフルな状況の数々が、実は、私たちの心の筋肉を鍛えるための、絶好の「トレーニングジム」へと、その意味を反転させます。満員電車で他人の肘が当たったときの苛立ち、理不尽な上司の言葉に対する怒り、将来への漠然とした不安。これらはもはや、ただ避けるべき不快な出来事ではありません。それらは、マットの上で練習した「心の使い方」を、実戦で試すための、貴重な機会なのです。

では、具体的に、私たちは日常という名のヨガマットの上で、どのようなトレーニングを積むことができるのでしょうか。ここに、いくつかのシンプルで、しかし効果的な実践を紹介します。

 

1. 呼吸という、持ち運び可能な聖域

私たちの最大の味方は、いつでも、どこにでもある「呼吸」です。

満員電車の中で、息苦しさと圧迫感に心が乱れそうになったとき。その場で、そっと自分の呼吸に意識を向けてみてください。誰にも気づかれる必要はありません。ただ、吸う息が身体に入り、吐く息が出ていく、その自然な流れを観察するだけです。特に、吐く息を少しだけ長く、ゆっくりと行ってみましょう。副交感神経が優位になり、高ぶった神経が静かに鎮まっていくのを感じるはずです。

重要な会議の前や、腹の立つメールを読んでしまった直後にも、この「一呼吸置く」という実践は、絶大な効果を発揮します。衝動的な反応(Reaction)の代わりに、意識的な応答(Response)をするための、貴重な「間」を生み出してくれるのです。呼吸は、どんな喧騒の中にあっても、私たちがいつでも立ち返ることのできる、持ち運び可能な「聖域(Sanctuary)」なのです。

 

2. 感覚をアンカーにするマインドフルネス

私たちの心は、刺激的な出来事があると、すぐに「思考の物語」に囚われてしまいます。「あの人はなんて失礼なんだ」「このプロジェクトはきっと失敗する」。この物語は、私たちの感情をさらに煽り、私たちを現実から遠ざけてしまいます。

この思考の暴走を食い止めるための強力なテクニックが、身体の「感覚」をアンカー(錨)にすることです。

例えば、渋滞にはまってイライラしているとき。その「イライラ」という感情の物語に没入する代わりに、意識を、ハンドルを握っている手の感触、シートにお尻が触れている感覚、足の裏の感覚へと向けてみてください。感覚は、常に「今、ここ」にしか存在しません。思考が作り出す過去や未来のドラマから、私たちを現在の、客観的な現実へと引き戻してくれるのです。

これは、日常生活のあらゆる場面で応用できます。食器を洗うときの、水の温度や、お皿のすべすべした感触。歩いているときの、足の裏が地面に触れる感覚。お茶を飲むときの、カップの温かさ。これらの感覚に意識を向ける瞬間瞬間が、心を現在に繋ぎ止めるための、小さなマインドフルネスの実践となります。

 

3. 困難な状況をアーサナとして捉える

ヨガのアーサナ(ポーズ)では、私たちはしばしば、身体的な困難さや不快さに直面します。身体が硬くて思うように伸びない、バランスがとれずにぐらつく。しかし、その困難さから逃げ出すのではなく、私たちは呼吸とともに、その不快さの中に留まることを学びます。そして、その不快さの中で、どこか力を抜ける場所はないか、どうすればもっと安定し、快適になれるのかを探求します。

この態度は、日常生活の困難な状況にも、そのまま応用することができます。

例えば、苦手な人との会話。その状況を、一つの「困難なアーサナ」として捉えてみるのです。逃げ出したいという衝動や、相手への反発といった心の反応に気づきながらも、ただそこに留まる。そして、自分の呼吸を深く保ち、身体のどこかに不必要な力みが入っていないかを探る。肩の力を抜き、表情を和らげ、相手の言葉を、ただ判断せずに聴く。

このように、困難な状況を「耐える」べき苦痛としてではなく、「探求」すべきアーサナとして捉え直すとき、私たちはその状況の被害者から、その中で主体的に自分の在り方を選択できる、実践者へと変わることができるのです。

 

4. 日常の動作に「丁寧さ」という意識を注ぐ

ヨガの実践は、私たちに、自分の身体の動き一つひとつに、意識的で、丁寧であることを教えてくれます。マットの上に足を置くとき、腕を上げるとき、私たちはその動きのプロセスそのものを味わいます。

この「丁寧さ」の意識を、日常の何気ない動作にも注いでみましょう。

ドアを開けるとき、その取っ手の冷たさを感じ、静かに開閉する。椅子に座るとき、どさっと腰掛けるのではなく、ゆっくりと体重を預ける。パソコンのキーボードを叩くとき、指先がキーに触れる感覚を意識する。

これらの小さな実践は、私たちの日常を、無意識で自動的な反応の連続から、意識的で、質の高い瞬間の連なりへと変容させてくれます。それは、日常のあらゆる行為を、一つの美しい儀式へと高めていく、静かなプロセスです。

日常という名のヨガマットは、スタジオのマットよりもずっと複雑で、予測不可能です。しかし、だからこそ、それは私たちの精神性を鍛え、成長させるための、この上ない舞台なのです。

マットの上で培った平穏は、試されるためにあります。日常の喧騒の中でこそ、ヨガの智慧は真価を発揮します。満員電車も、終わらない会議も、すべてはあなたの心を磨くための、ありがたい砥石となるのです。

 

ヨガの基本情報まとめの目次は以下よりご覧いただけます。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。