DAY 1 | 最初の一つ:ミニマリストとしての、静かな産声

自己啓発

「世界を変える、ささやかな一歩」

私たちの生は、しばしば、壮大な計画や、高い理想を掲げることから始まります。「明日から生まれ変わる」「今年こそは、すべてを片付ける」。その決意は、初日の出のように力強く、私たちの心を高揚させます。しかし、その光は、あまりに強すぎるがゆえに、現実という名の分厚い雲に遮られ、すぐに輝きを失ってしまうことが少なくありません。私たちは、目標のあまりの大きさに圧倒され、結局、最初の一歩さえ踏み出せずに、昨日と同じ今日を繰り返してしまうのです。

この28日間にわたる「ミニマリストゲーム」という旅は、そのような英雄的な決意表明とは、対極の地点から始まります。今日、あなたにお願いすることは、家全体を片付けることでも、人生を劇的に変えることでもありません。ただ、たった一つ。あなたの人生から、もはや不要となったモノを、たった一つだけ、選び出し、手放すこと。

それは、あまりにささやかで、取るに足らない行為に見えるかもしれません。しかし、古代中国の賢人、老子が「千里の道も一歩から始まる」と看破したように、すべての偉大な変容は、常に、意識的で、具体的な、最初の小さな一歩から始まるのです。今日、あなたが手放すその「一つ」は、単なる物体ではありません。それは、あなたが「ミニマリスト」として、新しい自分を生きるという、静かで、しかし揺るぎない決意を込めた、最初の産声なのです。

 

なぜ「一つ」から始めるのか:完璧主義という名の重力

私たちが行動を起こせない最大の理由の一つに、「完璧主義」という心の習性があります。私たちは、物事を始めるにあたって、理想的な結果や、完璧なプロセスを思い描いてしまいます。「やるからには、徹底的にやりたい」「中途半端になるくらいなら、やらない方がましだ」。この思考は、一見すると、質の高さを求める誠実な態度のようにも見えます。しかし、その実態は、失敗を恐れるあまり、私たちを行動不能に陥らせる、強力な精神的な重力なのです。

この重力に抗うための、最も賢明な方法は、抵抗することではありません。むしろ、その重力がほとんど働かないほど、小さく、軽く、抵抗のしようがない一歩を踏み出すことです。それが、「たった一つ」を手放す、という行為の意味です。

「一つだけなら、できるかもしれない」。この感覚が、行動への心理的な障壁を、魔法のように取り払ってくれます。このゲームの初日に、最も大切なのは、大きな成果を出すことではありません。行動を起こし、「自分にもできた」という、小さな、しかし確かな成功体験を、自分の中に灯すこと。この最初の小さな火種こそが、明日以降の、より大きな炎へと燃え広がっていくための、かけがえのない原動力となるのです。

 

手放すという行為の、深遠なる意味

モノを手放すという行為を、深く見つめてみましょう。それは、単に所有物の数を減らすという、物理的な現象に留まりません。それは、あなたとモノとの間に結ばれていた「関係性」を、あなた自身の意志によって、断ち切るという、極めて主体的な宣言です。

私たちは、自分がモノを「所有している」と考えています。しかし、ヨガ哲学の視点から見れば、その関係性は、しばしば逆転しています。私たちがモノに執着するとき、それは、私たちがモノを所有しているのではなく、むしろ、モノが私たちの心を所有し、束縛している状態なのです。そのモノを見るたびに、「片付けなければ」という罪悪感や、「高かったのにもったいない」という後悔といった、心の波紋(チッタ・ヴリッティ)が立ち、私たちの内なる静寂はかき乱されます。

今日、あなたがたった一つのモノを手放すとき、あなたはそのモノとの関係性における、主導権を取り戻します。それは、モノに支配される客体から、自らの環境を主体的に選択し、創造する存在への、静かな移行の儀式です。この一つの小さな行為を通して、あなたは、自分の人生を、自分自身の手に取り戻すための、最初の一歩を踏み出すのです。

 

ウォーミングアップとしての、最初の選択

では、その記念すべき「最初の一つ」として、何を選べば良いのでしょうか。この問いに、正解はありません。しかし、このゲームを円滑に始めるための、ささやかなヒントはあります。それは、「感情的な抵抗が、最も少ないもの」を選ぶ、ということです。

例えば、
・明らかに壊れていて、もはや機能しないもの。
・使い切ったペンの芯や、空になった容器。
・ポストに投函されていた、不要なチラシ。

これらは、もはやモノとしての価値や、あなたとの感情的な繋がりを、ほとんど失っています。言い換えれば、「いる/いらない」の判断に、思考や感情をほとんど必要としない、純粋な「ゴミ」です。

なぜ、このようなモノから始めるのが良いのでしょうか。それは、この初日が、あなたの「決断力」を慣らすための、ウォーミングアップだからです。私たちは、これから先の旅で、より複雑で、感情的な葛藤を伴う、難しい決断に直面していくことになります。その時に備えて、まずは、最も簡単な決断を、迷いなく実行する。この成功体験が、あなたの決断する力への、信頼を育むのです。

さあ、あなたの周りを見渡し、その「最初の一つ」を探してみてください。焦る必要はありません。深く呼吸をし、心を落ち着けて。それは、きっと、すぐに見つかるはずです。見つけたら、それを手に取り、少しだけ、その重みを感じてみてください。そして、静かに、ゴミ箱へ、あるいはリサイクルのための箱へと、それを移します。

おめでとうございます。今、あなたは、ミニマリストとしての、静かな産声を上げました。世界は何も変わっていないように見えるかもしれません。しかし、あなたの内なる世界では、確かに、何かが動き始めたのです。この小さな、しかし決定的な一歩を、自分自身で、心から祝福してあげましょう。この感覚を、忘れないでください。ここから、すべてが始まっていくのですから。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。