第9講:プラーナーヤーマ(呼吸法)の実踐 – 誰にでもある、内なる豊かさの源泉

ヨガを学ぶ

もし、あなたが今すぐ手に入れることのできる、最も確実で、誰にも奪われることのない「豊かさ」の源泉があるとしたら、それは一体何だと思いますか。それは、高価な宝石でも、広大な土地でもありません。その答えは、あまりにも身近で、あまりにも当たり前であるために、私たちがほとんど意識することのないもの。すなわち、あなた自身の「呼吸」です。

ヨガの実践において、アーサナ(ポーズ)と並んで、あるいはそれ以上に重要な位置を占めるのが、「プラーナーヤーマ」と呼ばれる呼吸法です。このサンスクリット語を分解してみると、その深い意味が明らかになります。「プラーナ(prāṇa)」とは、単なる「呼吸」や「空気」を意味するだけではありません。それは、宇宙に遍満する生命エネルギーそのものを指す、壮大な概念です。そして、「アーヤーマ(āyāma)」は、「制御」「拡張」「引き伸ばすこと」を意味します。つまり、プラーナーヤーマとは、「生命エネルギーを意図的にコントロールし、その流れを拡張する技法」なのです。

この定義からも分かるように、プラーナーヤーマは、単なる健康のための深呼吸エクササイズとは一線を画します。それは、私たちの存在の最も根源的なレベルに働きかける、心身変容のための強力なツールです。

まず、最も分かりやすいレベルで、呼吸と心の状態が密接に連動していることを考えてみましょう。あなたが驚いたり、恐怖を感じたりしたとき、呼吸は一瞬止まるか、浅く速くなります。逆に、心からリラックスしているときや、眠りに落ちるとき、呼吸は自然と深く、ゆっくりとしたリズムになります。この関係は、自律神経系の働きによって科学的にも説明できます。興奮や緊張を司る交感神経が優位になると呼吸は浅くなり、リラックスや休息を司る副交感神経が優位になると呼吸は深くなるのです。

通常、私たちはこの反応を、心(感情)が身体(呼吸)に影響を与える一方向的なものだと考えています。しかし、プラーナーヤーマの叡智は、この関係が双方向的であることを見抜いていました。つまり、意識的に呼吸のパターンを変えることによって、逆に心の状態や自律神経系の働きに影響を与えることができる、ということです。これが、プラーナーヤーマが持つ、驚くべき力です。

さて、この視点から、私たちが生きる消費社会を眺めてみましょう。私たちの日常は、絶え間ない刺激と情報に満ちています。スマートフォンの通知、次々と更新されるニュースフィード、街に溢れる広告。これらの外部からの刺激は、私たちの神経系を常に微細な興奮状態(交感神経優位)に保ちます。その結果、私たちの呼吸は、無意識のうちに、慢性的に浅く、速く、不規則になっているのではないでしょうか。

この「浅い呼吸」は、単に身体に十分な酸素が供給されないという問題に留まりません。それは、私たちの心の状態そのものを規定してしまいます。浅い呼吸は、脳に「今は危険な状態だ」「警戒を怠るな」というサインを送り続け、漠然とした不安感や焦燥感、そして集中力の欠如を生み出すのです。私たちが感じる「満たされなさ」や「渇き」の根底には、この慢性的な呼吸不全、つまりプラーナの欠乏状態があるのかもしれません。

消費社会は、この欠乏感をさらに利用します。「何か新しいものを買えば、この不安は埋まるはずだ」「もっと刺激的な体験をすれば、この退屈は紛れるはずだ」と、私たちの意識を常に外側へと向けさせます。私たちは、豊かさを求めて、お金を稼ぎ、モノを買い、情報を集めます。しかし、それらは決して、私たちの存在の根源的な渇きを癒すことはありません。思い出してください。今まで買ってきた数えきれない新しいものたちを。その幸福は今も持続していますか。不安は無くなり、その後は発生しなくなったでしょうか。

プラーナーヤーマは、この悪循環を断ち切るための、最も直接的なアプローチを提示します。それは、「豊かさは、外側に探し求めるものではなく、すでにあなたの内側に存在している」という、コペルニクス的な転回を促すのです。

呼吸は、その最も象徴的な例です。呼吸をするために、私たちはお金を支払う必要はありません。特別な資格も、才能も不要です。それは、この世に生を受けた全ての生命に、無条件で、平等に与えられています。私たちは、ただの一度も呼吸を「所有」したことはありません。吸う息は宇宙からの贈り物であり、吐く息は宇宙への返礼です。私たちは、この呼吸の絶え間ない流れの中に、生かされている存在なのです。

この事実に、身体感覚を通して深く気づくこと。それが、ヨガ哲学における「サントーシャ(知足)」、つまり「足るを知る」という智慧の本質です。

私たちは、常に「足りない」ものに目を向けがちです。しかし、プラーナーヤーマの実践を通して、ただ一息の吸う息が、どれほど身体の隅々の細胞に生命力を行き渡らせ、ただ一息の吐く息が、どれほど心身の緊張を解き放ってくれるかを実感したとき。私たちは、外側に何も加えなくとも、この瞬間、すでに完璧に満たされている、という深い安堵感に包まれるでしょう。

プラーナーヤーマの実践は、シンプルでありながら、奥深いものです。例えば、ただ座って、自分の自然な呼吸を観察することから始められます。吸う息と吐く息の長さを意識的にそろえてみる(サマ・ヴリッティ)。あるいは、片鼻ずつ交互に呼吸する(ナーディー・ショーダナ)。

これらの実践を通して、私たちは、普段は自動的に行われている呼吸という生命活動に、意識の光を当てていきます。それは、自分自身の存在の最も深いリズムに耳を澄ます、静かで親密な時間です。その充足感へ身を浸していくのが瞑想です。

消費社会が、私たちに「もっと、もっと」と外側への渇望を煽るのに対し、プラーナーヤーマは、「すでに、ここに」と内なる充足を教えてくれます。それは、記号やイメージといった、借り物の豊かさではありません。誰にも奪うことのできない、あなた自身の生命そのものが持つ、根源的な豊かさです。この内なる源泉に繋がったとき、私たちは初めて、消費社会の喧騒の中で、真の心の平穏を見出すことができるのです。

 

ヨガの基本情報まとめの目次は以下よりご覧いただけます。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。