関わらないことを決めるという、積極的な選択 DAY6

自己啓発

ーエネルギーという名の有限な器ー

私たちの内には、生命活動の源となるエネルギー、ヨガの言葉でいう「プラーナ」が、常に流れています。このエネルギーは、私たちの思考、感情、行動のすべてを支える、かけがえのない資本です。しかし、このエネルギーもまた、私たちの時間や注意と同様に、有限です。私たちは、朝になると一定量のエネルギーが満たされた器を持って一日を始め、夜にはその器が空になる、という風に生きているのかもしれません。

問題は、この貴重なエネルギーを、私たちは一体何に注いでいるのか、ということです。多くの場合、私たちは無意識のうちに、自分にとって本質的ではない事柄、コントロールできない問題、不毛な論争に、このエネルギーを大量に漏出させてしまっています。SNS上で繰り広げられる見知らぬ人々の対立、自分にはどうすることもできない国際情勢への過度な憂慮、他人のゴシップ。これらは、私たちのエネルギーの器に空いた、見えない穴のようなものです。

今日、私たちが行うのは、このエネルギーの漏れを塞ぐための、極めて意識的で、勇気を要する実践です。それは、「関わらないことを決める」という、積極的な選択です。これは、無関心や冷淡さとは全く異なります。むしろ、自分にとって本当に大切な人や物事に、有限なエネルギーを集中投下するために、それ以外の事柄から戦略的に撤退する、という愛と知恵に満ちた営みなのです。

 

関心の輪と影響の輪

思想家スティーブン・R・コヴィーは、その著書『7つの習慣』の中で、私たちの関心事のすべてが含まれる「関心の輪」と、その中で私たちが直接的に影響を及ぼすことができる事柄が含まれる「影響の輪」という、二つの概念を提示しました。

多くの人は、「関心の輪」には含まれるが「影響の輪」の外側にある事柄、例えば、政治家のスキャンダルや、遠い国の災害、著名人の言動などに、多くの時間と精神的エネルギーを費やしてしまいます。これらの事柄に心を悩ませ、憤り、嘆いても、状況が好転することはほとんどありません。結果として、私たちは無力感やフラストレーションを募らせ、本当に変化を起こせるはずの「影響の輪」の内側にある事柄(自身の健康、家族との関係、仕事の質など)に注ぐべきエネルギーを枯渇させてしまうのです。

コヴィーは、主体的な人間は、自らのエネルギーを「影響の輪」に集中させると言います。そうすることで、「影響の輪」は徐々に拡大し、より多くの事柄に対して、ポジティブな影響を与えられるようになるのです。

「関わらないことを決める」という実践は、まさにこの「関心の輪」を意識的に縮小させ、「影響の輪」へとエネルギーを再集中させるための訓練です。それは、世界中のすべての問題に対して責任を負おうとする、ある種の傲慢さから降りることでもあります。私たちは万能の神ではありません。自分にできることと、できないことの境界線を、静かに、そして謙虚に受け入れる。この分別こそが、賢明な生き方の土台となるのです。

 

「正しさ」をめぐる不毛な戦いから降りる

現代のインターネット空間は、様々な「正しさ」を掲げた旗が林立する、終わりのない戦場と化しています。政治的信条、社会問題、ライフスタイル。あらゆるテーマにおいて、人々は自らの正義を主張し、異なる意見を持つ他者を論破しようと、膨大なエネルギーを費やしています。

しかし、この種の戦いに、真の勝者は存在するのでしょうか。多くの場合、こうした議論は、互いの立場を硬化させ、感情的な溝を深めるだけで、建設的な結論に至ることはありません。私たちは、議論に勝つことと、問題を解決することを混同してしまいがちです。

古代ギリシャのストア派の哲学者エピクテトスは、「我々を悩ますのは、物事そのものではなく、物事に関する我々の意見である」と喝破しました。SNS上で私たちの感情を揺さぶるのは、出来事そのものよりも、それに対する他者の意見や解釈です。私たちは、その意見の渦に自ら飛び込み、自分のエネルギーを消耗させる必要は、本来どこにもないのです。

「関わらない」と決めることは、問題から目を背けることではありません。それは、不毛な論争という土俵から自ら降り、別の形で、より建設的に問題に関わる道を探す、という賢明な選択です. 例えば、SNSで環境問題について誰かを論破しようとする代わりに、自分の生活の中で静かにゴミを減らす実践をする。その方が、遥かに現実的な変化を生み出すかもしれません。

 

実践:エネルギー監査と境界線の設定

今日の旅は、自分自身のエネルギーが、どこで、どのように使われているかを客観的に見つめる「エネルギー監査」から始まります。

  1. 書き出す:昨日一日を振り返り、あなたが時間と思考を費やした事柄を、可能な限り書き出してみてください。仕事のプロジェクト、家族との会話、読んだニュース記事、SNSで見た投稿、友人とのLINEのやりとりなど。

  2. 分類する:書き出した項目の一つ一つを吟味し、それがあなたの「影響の輪」の内側にあるか、外側にあるかを分類します。自分自身の行動や選択によって、直接的な変化をもたらすことができるものでしょうか。それとも、ただ心を悩ませるだけで、あなたにはコントロールできないものでしょうか。

  3. 漏れを特定する:「影響の輪」の外側にあるにもかかわらず、多くのエネルギーを注いでしまっている項目が、あなたのエネルギーの「漏れ」です。その存在を、良い悪いの判断なく、ただ客観的に認識します。

この監査を通じて、自分のエネルギーの使い方のパターンが見えてきたら、次は、意識的に境界線を設定する実践に移ります。

  • 情報源を選ぶ:世の中のすべてのニュースを追う必要はありません。信頼できる情報源を少数に絞り、決まった時間にだけ確認するようにします。

  • 議論に参加しない:SNSなどで、自分が消耗するだけだと感じる議論を見かけたときは、コメントを書きたい衝動をぐっとこらえ、そっとその場を離れる勇気を持ちます。あなたの意見は、すべての場所で表明される必要はないのです。

  • 断る勇気:自分のエネルギーを奪うと感じる誘いや依頼に対しては、「ノー」と言う許可を自分に与えます。それは、自分自身の時間とエネルギーを尊重する、最も基本的な自己愛の表現です。

この実践は、他者から「冷たい人だ」と思われるかもしれないという恐れを伴うかもしれません。しかし、あなたが自分のエネルギーを満たし、穏やかでいることこそが、結果的にあなたの周りの大切な人々にとって、最大の贈り物となるのです。エネルギーの器を満たし、その溢れた分で、世界に貢献する。それこそが、持続可能で、本当に意味のある関わり方ではないでしょうか。

 

→目次:28日間の瞑想的生活【ヨガと瞑想】

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。