158.恐れと向き合う – 恐れは未来の幻想に過ぎない

自己啓発

私たちの人生において、行動に最も強力なブレーキをかける感情があるとすれば、それは間違いなく「恐れ」でしょう。新しい挑戦を前にして足がすくむ。自分の意見を言うのが怖い。人に嫌われることを恐れて、自分を偽ってしまう。私たちは、この目に見えない鎖に縛られ、どれだけ多くの可能性の扉を、自ら閉ざしてきてしまったことでしょうか。

しかし、この巨大な怪物のように思える恐れの正体を、ヨガ的な観点から冷静に見つめてみると、その意外な脆弱さに気づかされます。恐れという感情は、実は「今、この瞬間」には存在しないのです。それは常に、過去の痛ましい記憶に基づいて、未来に起こるかもしれないネガティブな出来事を予測するという、私たちの想像力の産物です。つまり、恐れとは、あなたの心が作り出した「未来についての物語」、まだ現実にはなっていない「幻想」に他なりません。

ヨガ哲学において、あらゆる苦悩の根源にはアヴィディヤー(無明)、すなわち「真実を知らないこと」があるとされますが、その無明から生まれる根源的な執着の一つが、アビニヴェーシャ、すなわち「生存へのしがみつき、死への恐怖」です。私たちが日常で感じる様々な恐れ―失敗への恐れ、拒絶への恐れ、孤独への恐れ―は、すべてこの根源的なアビニヴェーシャの変奏曲と言うことができます。

ヨガの実践が、この恐れという幻想から私たちを解放する上で極めて有効なのは、その教えのすべてが、意識を「今、ここ」という現実のアンカーに繋ぎ止めることを目的としているからです。呼吸に意識を向けるプラーナーヤーマ、身体の感覚に集中するアーサナ、そして思考の連鎖を断ち切る瞑想。これらはすべて、過去の後悔と未来の不安という時間の牢獄から私たちを救い出し、「今、この瞬間」という唯一の実在へと連れ戻すための稽古なのです。

ここで少しだけ、現代物理学の示唆を借りるならば、未来は確定したものではなく、無数の可能性が「波」として重なり合った状態であると考えることができます。私たちの意識が「恐れ」という思考に焦点を合わせる時、私たちは、その恐ろしい現実が実現する可能性の波を、自ら選択し、観測している(現実化しようとしている)のかもしれません。逆に言えば、意識の焦点を「信頼」や「希望」といった別の可能性に向けることで、私たちは全く異なる未来の波を選択し、引き寄せることができるのです。

では、具体的に恐れという感情が襲ってきた時、私たちはどうすればよいのでしょうか。まず行うべきは、身体と思考を「今」に引き戻すことです。ゆっくりと深い呼吸を数回行い、足の裏が地面に触れている感覚、お尻が椅子に触れている重さを感じます。そして、自分自身に問いかけるのです。「今、この瞬間、私は本当に危険な状態にあるだろうか?」と。ほとんどの場合、答えは「ノー」でしょう。あなたの身体は安全な場所にあり、脅威はあなたの頭の中にしか存在しないことに気づくはずです。

次に有効なのは、恐れている内容を具体的に、そして客観的に書き出してみることです。「もしプレゼンで失敗したら、みんなに笑われ、評価が下がり、会社にいられなくなるかもしれない」といった具合に。そして、その最悪のシナリオが、実際に起こる確率を冷静に考えてみるのです。多くの場合、その確率は極めて低く、私たちの心が恐怖を過剰に膨らませていたことがわかります。

恐れと向き合うことは、ヨガでいうところの「タパス(苦行・鍛錬)」の一環でもあります。それは、自分の快適な領域(コンフォートゾーン)の、ほんの少しだけ外側にある、かすかな恐れを感じる行為にあえて挑戦してみることです。いつもは発言しない会議で、勇気を出して一言だけ意見を言ってみる。その小さな成功体験の積み重ねが、恐れは乗り越えられるものだという自信を育み、あなたの行動範囲を着実に広げていくのです。

恐れは、あなたをその場に縫い付けるための壁ではありません。それは、あなたが魂の成長を遂げるために、飛び越えることを待っているハードルのようなものです。その正体が、あなたの心が作り出した影に過ぎないと見抜いた時、あなたは自由になります。そして、恐れがあった場所に、新しい可能性を創造するための、広大なスペースが生まれるのです。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。