15.アーサナは「快適で安定した坐法」である – パタンジャリの叡智

自己啓発

現代において「ヨガ」という言葉を聞いた時、多くの人が思い浮かべるのは、しなやかな身体で美しいポーズをとる姿かもしれません。雑誌の表紙やSNSの投稿は、しばしばアーサナ(ポーズ)のアクロバティックな側面を強調し、それがまるでヨガのゴールであるかのような印象を与えます。しかし、ヨガの根本経典である『ヨーガ・スートラ』に立ち返る時、私たちはアーサナの本来の目的が、現代のイメージとは少し異なる、より深く、静かな場所にあることに気づかされます。

今から二千年以上前に編纂されたとされるこの経典の中で、聖者パタンジャリはアーサナについて、たった一つのシンプルな定義を与えています。第二章第四十六節、「sthira-sukham āsanam(スティラ・スカム・アーサナム)」。これは、「アーサナとは、安定的(スティラ)で、快適(スカ)なものでなければならない」と訳されます。そしてここでいう「アーサナ」とは、本来、瞑想のための「坐法」を指していました。

この一節が持つ意味は、極めて深遠です。なぜ、アーサナは「安定的」で「快適」でなければならないのでしょうか。その答えは、ヨガが目指す最終的なゴール、すなわち「心の作用を止滅すること(チッタ・ヴリッティ・ニローダハ)」にあります。もし、瞑想中に座っている身体がぐらぐらと不安定であったり、膝や腰に痛みを感じていたりすれば、私たちの意識は絶えずその身体の不快感に引きずられてしまいます。心がざわついていれば、身体もまた緊張し、落ち着かなくなります。身体と心は、表裏一体の不可分な存在なのです。したがって、アーサナとは、心を内側へ、そしてより深い意識の状態へと導くための準備段階であり、その乗り物が安定し快適でなければ、先の旅に進むことはできない、というわけです。

では、私たちが日々実践している戦士のポーズやダウンドッグといった、坐法以外の無数のアーサナは、この定義とどう関係するのでしょうか。それらは、この「快適で安定した坐法」を長時間維持できる心身を養うための、優れた準備体操であり、身体的な訓練として発展してきたものと解釈することができます。私たちの多くは、デスクワークやストレスフルな生活によって、身体のあちこちが凝り固まり、歪んでいます。そのまま瞑想のために座っても、すぐに痛みや痺れに襲われてしまうでしょう。多様なアーサナは、そうした身体の滞りを解消し、必要な筋力を養い、柔軟性を高めることで、最終的にただ静かに座るための「器」を整える役割を担っているのです。

このパタンジャリの叡智を、私たちの日々の実践に持ち帰ってみましょう。それは、アーサナの「完成形」を追い求めることから、「自分にとってのスティラ・スカムを探求する」ことへの、意識のシフトを促します。ポーズの見栄えや、隣の人のように深く曲げられるかどうかは、本質的な問題ではありません。問うべきは、内側への問いかけです。「このポーズの中で、私の呼吸は穏やかで、深く流れているだろうか?」「私の心は、焦りや競争心から自由で、静けさを保てているだろうか?」「身体に不必要な力みはなく、安定と快適さが共存しているだろうか?」これらが、そのアーサナがあなたにとって「正しい」ものであるか否かを測る、真の指標となるのです。

アーサナは、誰かに見せるためのパフォーマンスでも、他者と優劣を競うためのスポーツでもありません。それは、あなたという存在が、あなた自身の内なる広大な宇宙へと深く旅をするための、神聖な乗り物(ヴィークル)なのです。この原点に立ち返る時、アーサナの実践は、単なるエクササイズを超えた、動く瞑想となります。そして、その「快適で安定した在り方」そのものが、引き寄せの法則で語られる「心地よい波動」を放ち、あなたの人生に調和と豊かさをもたらす、強力な土台となるのです。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。