私たちはしばしば、お金や物質的な富を人生で最も価値ある資源だと考えがちです。しかし、少し立ち止まって深く思索すれば、真に有限で、取り戻すことのできない、究極的に貴重な資源は「時間」であることに気づかされます。お金は失っても再び稼ぐことができるかもしれませんが、過ぎ去った一秒は、宇宙のいかなる力をもってしても取り戻すことはできません。私たちの生命とは、煎じ詰めれば、与えられた時間の総体に他ならないのです。
この自明でありながら忘れられがちな真理は、ヨガ哲学のまさに冒頭で、力強く宣言されています。「アタ・ヨーガ・アヌシャーサナム(いよいよ、今、ヨガの教えが始まる)」。この「アタ(今、ここ)」という言葉に、ヨガの叡智のすべてが凝縮されていると言っても過言ではありません。私たちの意識は、過去への後悔や未来への不安という、もはや存在しない、あるいはまだ存在しない時間軸の上を彷徨いがちです。しかし、私たちが本当に生きることができるのは、「今、この瞬間」だけです。時間の使い方をマスターするとは、この「今」という一点に、いかに意識を集中させ、その質を高めるかという技術に他なりません。
東洋の思想は、この儚くも尊い一瞬一瞬の連なりを深く見つめてきました。仏教の「諸行無常」は、すべてが移ろいゆくからこそ、二度と訪れないこの瞬間がいかに価値あるものであるかを教えてくれます。茶道における「一期一会」の精神は、この出会い、この一服のお茶が、生涯で一度きりのものであるという覚悟をもって、その瞬間に全身全霊で関わることを求めます。私たちの人生は、このような尊い瞬間の集合体なのです。
では、私たちはこの貴重な資源を、一体何に使っているのでしょうか。一度、正直に自分の時間の使い方を客観視してみることをお勧めします。一日のうち、どれだけの時間を、自分の本質的な成長や幸福、つまり「ダルマ(使命)」に繋がる活動に使っているでしょうか。どれだけの時間を、愛する人々との関係を育むために費やしているでしょうか。そして、どれだけの時間を、目的もなくスマートフォンを眺めたり、他者との比較に心をすり減らしたり、無意味なゴシップに興じたりすることに浪費しているでしょうか。時間の使い方は、その人の価値観と人生の優先順位を、最も雄弁に物語る鏡なのです。
引き寄せの法則の観点から見ると、時間の使い方と豊かさ意識は、密接に結びついています。「時間がない」という口癖は、「私には時間が足りない」という欠乏の波動を宇宙に発信し続けます。その結果、さらなる多忙や焦りを引き寄せ、時間に追われる現実を創造してしまうのです。この悪循環を断ち切るためには、まず「時間は有限だが、今の使い方は自分で創造できる」という意識を持つことが重要です。
自分の時間を、まるで最も大切な宝物のように扱うことから始めましょう。それは、自分自身を尊重し、自分の人生を大切にするという、自己価値の強力な表明です。自分の時間を安売りせず、本当に心から「やりたい」と感じること、自分の魂が喜ぶことに優先的に使う。そう決意する時、あなたの周波数は高まり、それにふさわしい人々や機会が引き寄せられてきます。
また、意図的に「何もしない時間」をスケジュールに組み込むことも、極めて創造的な時間の使い方です。それは、思考のノイズが静まり、宇宙からのインスピレーションや直感が舞い降りてくるための「余白」を作る行為です。この静寂な時間こそが、次の創造的なアクションへのエネルギーを充電する、最も効率的な時間の投資と言えるでしょう。
あなたの人生という器は、限られた時間で満たされています。その器に、何を注ぎ込むかを決めるのは、他の誰でもない、あなた自身です。今日という一日が、あなたの人生最後の日だとしたら、あなたは何をしますか? その問いへの答えの中に、あなたが本当に大切にすべき、時間の使い方のヒントが隠されています。一瞬一瞬を、愛と意識をもって味わい尽くすこと。それこそが、最も豊かで充実した人生を送るための、究極の秘訣なのです。


