114.困難は成長の機会である – タパスの現代的解釈

自己啓発

ヨガの八支則におけるニヤマ(勧戒)の一つに、「タパス」という言葉があります。この言葉はしばしば「苦行」や「禁欲」と訳され、どこか厳しく、自己を痛めつけるようなイメージを喚起させるかもしれません。火の中で瞑想したり、飲まず食わずで修行に打ち込んだりする行者の姿を思い浮かべる人もいるでしょう。しかし、タパスの本来の意味は、そのような自傷的な行為とは全く異なります。タパスの語源である「tap」は「燃やす」「熱する」を意味し、それは不純物を燃やして純金を精錬するような、内なる変容の炎を指すのです。

この「変容の炎」は、何も特別な修行の中だけで燃え上がるわけではありません。むしろ、私たちが日々直面する「困難」や「挑戦」、思い通りにいかない出来事こそが、現代における最も身近で、かつパワフルなタパスの実践の場なのです。

私たちは、人生が常に快適で、スムーズであることを望みがちです。困難や障害は避けるべきものであり、不快な感情はすぐにでも消し去りたいものだと考えます。しかし、ヨガ的な視座に立つならば、その困難こそが、私たちの魂を鍛え、精神的な筋肉を成長させるための、宇宙からのギフト(贈り物)であると捉え直すことができます。

例えば、アーサナ(ポーズ)の練習を考えてみましょう。いつも快適で楽にできるポーズばかりを繰り返していても、筋力や柔軟性は向上しません。ほんの少しだけ「キツいな」と感じる領域、自分の限界の少し手前で、呼吸を止めずに留まり続けること。この快適な領域(コンフォートゾーン)から一歩踏み出す意識的な努力こそが、タパスです。この時、身体の中で燃える熱は、単なる物理的な熱量ではありません。それは、怠惰や自己限定といった心の不純物を焼き尽くし、「私にはできるかもしれない」という新たな可能性を立ち上がらせる、変容の炎なのです。

この原理は、日常生活のあらゆる場面に応用できます。

  • 人間関係の摩擦: 苦手な同僚や、意見の合わない家族との対立は、まさにタパスの機会です。感情的に反応して相手を非難するのではなく、一歩引いて、なぜ自分がこれほどまでに心をかき乱されるのかを内省する。その摩擦熱の中で、私たちは自身の未熟な部分や、癒されていない傷、独りよがりな正義感といった不純物を見出し、それを焼き尽くすチャンスを得るのです。

  • 仕事上の挑戦: 未経験のプロジェクトや、高い目標を課せられた時、不安や恐れを感じるのは自然なことです。しかし、そこから逃げずに、持てる力のすべてを注いで取り組むプロセスそのものが、あなたの能力と自己信頼を鍛え上げるタパスとなります。その炎は、あなたの中に眠っていた潜在能力を呼び覚まし、以前の自分では考えられなかったような強さと知恵を授けてくれるでしょう。

  • 健康上の問題や喪失体験: 病や別れといった、人生で最も過酷な困難もまた、最も深いタパスとなり得ます。それは、私たちが普段いかに多くのものを「当たり前」だと思っていたかを気づかせ、命の有限性と尊さを教えてくれます。その痛みという灼熱の中で、表面的な価値観は燃え尽き、本当に大切なものだけが、純金のように輝きを放ち始めるのです。

このように、困難を「乗り越えるべき障害」ではなく「成長のための燃料」と捉え直すことが、タパスの現代的な解釈の鍵です。それは、引き寄せの法則をより深いレベルで理解することにも繋がります。私たちはしばしば、望むものを「引き寄せたい」と願いながら、その望むものを手にするにふさわしい自分自身へと「成長すること」から目を背けてしまいがちです。

あなたが「経済的な豊かさ」を望むなら、その豊かさを賢く管理し、分かち合うための器(自己規律や責任感)を育む必要があります。その器を育むための挑戦が、困難な仕事という形で現れるのかもしれません。「真のパートナーシップ」を望むなら、他者を受け入れ、自分を深く開示できるだけの精神的な成熟が求められます。その成熟を促すための試練が、過去の痛みを伴う人間関係として現れるのかもしれません。

困難という炎を前にした時、私たちには二つの選択肢があります。一つは、その熱から逃げ、これまで通りの快適だが成長のない場所に留まり続けること。もう一つは、勇気をもってその炎の中に足を踏み入れ、自分の中の不要なものを燃やし尽くし、より強く、より純粋な自分へと生まれ変わること。

タパスとは、決して自分をいじめることではありません。それは、自分自身への最高の愛と信頼の表現です。なぜなら、「私にはこの困難を乗り越え、成長する力がある」という、内なる可能性を信じる行為に他ならないからです。次に困難が訪れたなら、それを避けようとするのではなく、こう静かに呟いてみてください。「これは、私の魂を磨くための、聖なる炎なのだ」と。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。