59.煩悩は消すのではなく、理解し、乗りこなすもの

自己啓発

精神的な探求の道を歩み始めると、私たちはしばしば「煩悩」という存在を、克服すべき敵、あるいは根絶すべき悪として捉えがちです。貪欲、怒り、嫉妬、怠惰といった心の働きを、不純なものとして忌み嫌い、「無」や「空」といった清らかな状態を目指そうとします。しかし、このアプローチは、ヨガや仏教が説く、より深く、より成熟した人間理解とは少し異なります。煩悩を力ずくで消し去ろうとする試みは、かえって新たな苦しみを生む罠となり得ます。真の智慧とは、煩悩を消すことではなく、その本質を「理解」し、そのパワフルなエネルギーを巧みに「乗りこなす」ことにあるのです。

ヨガ哲学において、煩悩は「クレーシャ(苦しみの原因)」と呼ばれます。ヨーガ・スートラは、その代表として五つ(無明、我執、愛着、嫌悪、死への恐怖)を挙げています。これらは、人間が人間として生きていく上で、自然に備わっている心の傾向性です。例えば、「愛着」がなければ、私たちは誰かを愛し、育むことはできません。「嫌悪」がなければ、危険から身を守ることも難しいでしょう。煩悩は、それ自体が絶対的な悪なのではなく、私たちの生存と関わりの根底にある、中立的で強力なエネルギーなのです。それはまるで火のようなものであり、暖をとるための友にもなれば、すべてを焼き尽くす災いにもなり得ます。問題は火そのものではなく、その扱い方にあるのです。

煩悩を敵視し、無理やり抑圧しようとすると、何が起きるでしょうか。抑え込まれたエネルギーは、決して消えてなくなるわけではありません。それは無意識の深い領域へと押し込められ、やがて歪んだ形で、私たちのコントロールが及ばない瞬間に噴出します。理由のわからない苛立ち、原因不明の体調不良、あるいは他者への投影といった形で、私たちの人生を内側から蝕んでいくのです。さらに、「煩悩を持つ自分はダメな人間だ」という自己否定は、自分自身に対する非暴力(アヒンサー)の精神に反し、新たな苦しみを生み出すだけです。そして何より、「煩悩をなくしたい」という強い欲望自体が、「執着」という、また別の形の煩悩であるという、深刻なパラドックスに陥ってしまいます。

では、どうすれば良いのでしょうか。その答えは、「戦う」のではなく「知る」ことにあります。まず、心に煩悩が生じた時、それをジャッジせずに、ただ「観察」するのです。「ああ、今、私の心に嫉妬の感情が湧き上がっているな」と、まるで天気予報を伝えるように、客観的に認識します。その感情と自分を同一化せず、距離をとって眺める。このマインドフルな観察が、煩悩の渦に巻き込まれるのを防ぐ、最初の防波堤となります。

次に、その煩悩を「エネルギー」として捉え直します。例えば、燃え盛る怒りのエネルギーを、社会の不正を正すための情熱や、自分を変えるための行動力に「転換」することはできないだろうか。何かを強く求める欲望のエネルギーを、目標達成への集中力や創造性へと「昇華」させることはできないだろうか。

この思想は、特に密教における「煩悩即菩提(ぼんのうそくぼだい)」という深遠な教えに顕著です。これは、煩悩と悟り(菩提)は、コインの裏表のように、本質的には別のものではない、というダイナミックな世界観です。煩悩という荒れ狂う波の、その正体を見極め、その力を利用することができたなら、それは私たちを悟りの岸辺へと運ぶ推進力にさえなるのです。それは、暴れ馬を殺すのではなく、その気性を熟知した名騎手が、巧みな手綱さばきで乗りこなし、目的地へと向かう姿に似ています。

あなたの心に生じる煩悩は、あなたが人間であることの証であり、欠点ではありません。むしろそれは、あなたがより深い自己理解と慈悲を学ぶための、貴重な教材なのです。無菌室のような清浄さを目指すのではなく、時に荒れ狂う嵐の海を、しなやかに、そして力強く乗りこなしていく。それこそが、煩悩と共に生きる、現実的で、地に足のついた霊的な道程なのです。


1年で人生が変わる毎日のショートメール講座「あるがままに生きるヒント365」が送られてきます。ブログでお伝えしていることが凝縮され網羅されております。登録された方は漏れなく運気が上がると噂のメルマガ。毎日のヒントにお受け取りください。
【ENGAWA】あるがままに生きるヒント365
は必須項目です
  • メールアドレス
  • メールアドレス(確認)
  • お名前(姓名)
  • 姓 名 

      

- ヨガクラス開催中 -

engawayoga-yoyogi-20170112-2

ヨガは漢方薬のようなものです。
じわじわと効いてくるものです。
漢方薬の服用は継続するのが効果的

人生は”偶然”や”たまたま”で満ち溢れています。
直観が偶然を引き起こしあなたの物語を豊穣にしてくれます。

ヨガのポーズをとことん楽しむBTYクラスを開催中です。

『ぐずぐずしている間に
人生は一気に過ぎ去っていく』

人生の短さについて 他2篇 (岩波文庫) より

- 瞑想会も開催中 -

engawayoga-yoyogi-20170112-2

瞑想を通して本来のあなたの力を掘り起こしてみてください。
超簡単をモットーにSIQANという名の瞑想会を開催しております。

瞑想することで24時間全てが変化してきます。
全てが変化するからこそ、古代から現代まで伝わっているのだと感じます。

瞑想は時間×回数×人数に比例して深まります。

『初心者の心には多くの可能性があります。
しかし専門家と言われる人の心には、
それはほとんどありません。』

禅マインド ビギナーズ・マインド より

- インサイトマップ講座も開催中 -

engawayoga-yoyogi-20170112-2

インサイトマップは思考の鎖を外します。

深層意識を可視化していくことで、
自己理解が進み、人生も加速します。
悩み事や葛藤が解消されていくのです。

手放すべきものも自分でわかってきます。
自己理解、自己洞察が深まり
24時間の密度が変化してきますよ。

『色々と得たものをとにかく一度手放しますと、
新しいものが入ってくるのですね。 』

あるがままに生きる 足立幸子 より

- おすすめ書籍 -

ACKDZU
¥1,250 (2025/12/05 12:56:09時点 Amazon調べ-詳細)
¥2,079 (2025/12/05 12:52:04時点 Amazon調べ-詳細)

ABOUT US

アバター画像
Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。