前項で触れたスヴァディアーヤ(自己学習)の概念を、さらに一歩深く、私たちの生そのものに適用してみましょう。ここに、一つの力強い比喩があります。「あなたの人生は、一冊の書物である」。この視点に立つとき、これまでバラバラの出来事の寄せ集めに思えていたあなたの過去は、一つの壮大な物語として、新たな意味を帯びて輝き始めるのです。
あなたの人生という書物には、喜びの章もあれば、悲しみの章もあるでしょう。成功のハイライトもあれば、目を覆いたくなるような失敗の記述もあるかもしれません。私たちはしばしば、特定の章、特に失敗やトラウマの章に栞を挟んだまま、何度もそこを読み返しては、後悔や自己嫌悪に陥りがちです。しかし、物語の価値は、一つの章だけで決まるものではありません。スヴァディアーヤの実践とは、この書物全体を、作者であり、主人公であり、そして賢明な読者でもあるという、三つの視点から読み解いていく試みなのです。
まず、「読者」として、自分の過去を再解釈してみましょう。例えば、「あの失恋は、私に本当の自己愛を教えてくれるための、必要なレッスンだったのかもしれない」「あの仕事の失敗がなければ、今の天職に出会うことはなかっただろう」。このように、出来事そのものを変えることはできなくとも、その出来事に対する「意味づけ」を変えることは可能です。点と点に見えていた出来事が、線として繋がり、一つのテーマへと収斂していく様が見えてくるかもしれません。これは、過去のカルマを否定的な重荷から、肯定的な学びへと転換させる、力強い錬金術です。
次に、「主人公」として、物語の中に繰り返し現れる「パターン」に気づくことが重要です。これはヨガでいう「サムスカーラ(潜在的印象)」、つまり、無意識に繰り返してしまう思考や行動の癖です。なぜかいつも似たようなタイプの人と問題を起こす、なぜかいつも成功の直前で自ら台無しにしてしまう。人生という書物を注意深く読めば、こうした繰り返しのパターン、いわば「伏線」が見つかるはずです。このパターンに気づくこと。それが、無意識の脚本に操られる登場人物から、自らの意志で次の展開を選択できる主人公へと脱皮するための、第一歩となります。
そして、「作者」の視点から、あなたの物語に登場する「配役」について考えてみましょう。あなたの人生に登場した人々、特に、あなたを深く傷つけたり、悩ませたりした人物は、単なる悪役ではなかったのかもしれません。彼らは、あなたの魂の成長という大きな物語の視点から見れば、あなたの中の未解決の課題や、見たくなかったシャドウ(影)の部分を映し出す「鏡」として、重要な役割を担ってくれたのかもしれないのです。この視座は、他者を、そして自分自身を許し、癒すための扉を開いてくれます。
この書物を読み解く作業を通して、やがてあなたはこの物語全体を貫く一つの「主題(テーマ)」、すなわち、あなたの「ダルマ(魂がこの世でなすべきこと)」の輪郭を掴むことができるでしょう。それは「愛を学ぶこと」かもしれませんし、「創造性を表現すること」「他者を癒し、導くこと」かもしれません。この主題が見えてくると、日々の小さな出来事さえも、その大きなテーマに奉仕する、意味深いものとして感じられるようになります。
引き寄せの法則とは、突き詰めれば、この人生という書物の「未来の章」を、意識的に執筆していくことに他なりません。しかし、素晴らしい未来の章を書くためには、まず過去から現在までの章を深く理解し、受け入れる必要があります。過去の章から学び、現在の章をマインドフルに生きることで、あなたは未来の章のプロット、すなわち「意図(サンカルパ)」を、明確に、そして力強く描くことができるのです。
あなたの人生は、決して偶然の産物ではありません。それは、あなたという唯一無二の主人公が、様々な経験を通して魂を磨き、成長を遂げていくための、宇宙に一冊しかない、かけがえのない物語です。ページをめくるのを恐れないでください。過去のすべての章に感謝し、現在の章を味わい尽くし、そして未来の章を、希望と信頼と共に書き進めていきましょう。あなたこそが、この世で最も尊く、美しい物語の語り部であり、主人公なのですから。


