効率化の罠と「無駄」の効用。ヨガが教える、最短ルートだけが正解ではない理由

自己啓発

ヨガを推奨しております。
それは、ヨガが単なる健康法ではなく、現代社会が猛スピードで突き進む「効率化」という名の列車から、そっと降りて一息つくためのプラットホームだからです。

私たちは今、「効率」を神のように崇める時代を生きています。
「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉が流行し、映画は倍速で視聴され、食事は完全栄養食で済ませ、移動時間は隙間なく学習アプリで埋め尽くす。
1分1秒たりとも無駄にせず、最短距離でゴール(成果)に到達することが「賢い生き方」だとされています。

しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいのです。
私たちは効率化によって時間を節約したはずなのに、なぜ以前よりも忙しく、心に余裕がないのでしょうか?
効率化の先にあるはずの「豊かさ」は、どこへ消えてしまったのでしょうか。

今日は、現代人が陥りやすい「効率化の罠」と、ヨガの視点から見る「無駄」や「迂回」の持つ精神的な意味について、少し深く掘り下げてみたいと思います。

 

効率化が奪う「プロセスの味わい」

効率化とは、基本的に「プロセス(過程)」を省略することです。
A地点からB地点へ行くのに、くねくねとした山道を歩くのではなく、トンネルを掘って直線で移動する。
確かに到着は早くなります。
しかし、そのトンネルの中で、私たちは山道の途中に咲いていた花や、木漏れ日の美しさ、鳥のさえずりを見ることはできません。

人生も同じです。
結果だけを求めてプロセスを省略し続けると、人生は「タスクの消化」になってしまいます。
「仕事が終わった」「ご飯を食べた」「風呂に入った」「寝た」
チェックリストにチェックを入れるだけの毎日に、どれだけの「生の実感」があるでしょうか。

ヨガのアーサナ(ポーズ)の実践においても、同じことが言えます。
「早く開脚ができるようになりたい」「早く逆立ちができるようになりたい」
そうやって結果を急ぐあまり、無理に身体を引っ張ったり、痛みをごまかしたりする。
これは効率化の病です。
ヨガの本質は、ポーズが完成することにあるのではなく、そのポーズに向かう過程で、自分の身体と対話し、微細な感覚の変化に気づくことにあります。
「今日はここが硬いな」「呼吸を深めると少し緩んだな」
その一瞬一瞬のプロセスを味わうことこそがヨガであり、完成形はその結果として自然に訪れる「おまけ」のようなものです。

 

「空白」を恐れる現代人の病

効率化を突き詰めると、私たちは「空白」を恐れるようになります。
何もしない時間、待ち時間、移動時間。
それらを「無駄な時間」と定義し、スマホで情報を詰め込むことで埋めようとします。

しかし、スピリチュアルな視点で見れば、この「空白」こそが最も創造的で、魂が休息できる聖域なのです。
空白(スペース)がなければ、新しいものは入ってきません。
部屋がモノで溢れていれば新しい家具が置けないように、心と時間のスケジュールが効率的に埋まりすぎていると、直感(インスピレーション)や偶然の幸運(セレンディピティ)が入り込む余地がなくなってしまいます。

「効率化の罠」とは、私たちが自らの手で、人生の余白という可能性を塗りつぶしてしまうことなのです。
何もしないで、ただ縁側に座って空を見る。
生産性ゼロの時間。
しかし、その無防備な時間の中で、私たちの脳はデフォルト・モード・ネットワークを働かせ、記憶を整理し、自分自身を取り戻しています。
「無駄」に見える時間は、実は「生命のメンテナンス」に必要な時間なのです。

 

最短ルートが、最良のルートとは限らない

人生において、最短ルートを進むことが常に正解とは限りません。
むしろ、迷ったり、遠回りしたり、立ち止まったりすることの中に、深い学びや魂の成長が隠されています。

例えば、病気や怪我、失業や失恋といった出来事は、効率化の観点から見れば「トラブル」であり「時間のロス」でしょう。
しかし、ヨガ哲学的な視点(カルマ・ヨガ)で見れば、それらは私たちに必要な「気づき」を与えるために訪れたギフトかもしれません。
順風満帆に最短距離で成功した人よりも、挫折や苦しみを経験し、遠回りをしてきた人の方が、他者の痛みに共感できる深みのある人間性を持っていることはよくある話です。

「急がば回れ」という言葉がありますが、精神的な成熟においては、効率的なエレベーターなど存在しません。
一歩一歩、自分の足で階段を登るしかないのです。
そして、その階段の一段一段を踏みしめる感触こそが、私たちがこの世界に生まれてきた意味なのかもしれません。

 

効率という「エゴ」から離れる

「もっと効率よく」「もっと早く」「もっと多く」
この声の主は誰でしょうか?
それは、あなたの魂ではなく、あなたの「エゴ(自我)」です。
エゴは常に不足感を抱えており、何かを獲得することで自分を満たそうとします。
だから時間を惜しみ、効率を求めて走り回るのです。

ヨガの実践は、このエゴの声を静める練習です。
マットの上では、効率は意味を持ちません。
ただ吸って、ただ吐く。
同じポーズを繰り返す。
一見、何も進歩していないように見える日もあるでしょう。
しかし、その「非効率な繰り返し」の中で、私たちは少しずつ自分の内側に降りていき、エゴの騒がしい声から離れ、静寂(サイレンス)へと近づいていきます。

 

終わりに:非効率な人生を愛すること

効率化を否定するつもりはありません。
仕事や家事において、工夫して時間を生み出すことは素晴らしいことです。
しかし、その生み出した時間を、また別のタスクで埋めるのではなく、「何もしない豊かさ」のために使ってみてはどうでしょうか。

あえて、手間のかかる料理を作ってみる。
あえて、電車を使わずに歩いてみる。
あえて、検索せずに人に道を聞いてみる。
あえて、結論の出ない会話を楽しんでみる。

そんな「愛すべき非効率」の中に、人生の本当の味わいがあります。

効率化という名の高速道路から降りて、たまには下道をゆっくりと散歩してみませんか。
そこにはきっと、高速道路では見落としていた美しい景色が広がっているはずです。

ではまた。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。