ヨーガスートラとアドヴァイタ・ヴェーダーンタ – 非二元論の観点から読み解く

ヨガを学ぶ

ヨーガの世界は、深遠にして広大です。その中心に位置するのが、紀元前2世紀頃に編纂されたとされる『ヨーガスートラ』です。この経典は、ヨーガの実践と哲学を体系的にまとめたものであり、現代の私たちが抱える心の苦しみから解放されるための、具体的かつ実践的な道を示しています。一方、インド哲学を代表する思想体系の一つに「アドヴァイタ・ヴェーダーンタ」があります。これは、ヴェーダーンタ学派の中でも特に「非二元論(Advaita)」を強調するものであり、一切の存在は究極的には「ブラフマン」と呼ばれる唯一の実在であると説きます。

本記事では、『ヨーガスートラ』とアドヴァイタ・ヴェーダーンタの関係性に焦点を当て、非二元論的な観点からそれぞれの思想を紐解いていきます。この探求を通して、ヨーガの実践が単なる身体技法に留まらず、自己の本質を深く理解し、真の自由へと至るための哲学的な道程であることが明らかになるでしょう。

 

ヨーガスートラ:心の動きを止滅させる

『ヨーガスートラ』は、ヨーガの目的を「心の働きを止滅させること(yogaś citta-vrtti-nirodhaḥ)」と定義します。ここで重要なのは、「心の働き(citta-vrtti)」を理解することです。心は、様々な情報や感情を受け取り、それらに反応して絶えず活動しています。この活動が、私たちに苦しみや煩悩を生み出す原因となるのです。

citta(チッタ): 心、精神、意識全体を指します。思考、感情、記憶など、あらゆる心の作用を包括します。

vrtti(ヴリティ): 心の動き、揺れ、変化を意味します。思考や感情、知覚など、心の様々な活動を指します。

nirodhaḥ(ニローダ): 止滅、抑制、制御を意味します。心の働きを静止させること、つまり心の活動をコントロールし、最終的に停止させることを目指します。

『ヨーガスートラ』は、この心の動きを止滅させるための具体的な方法を提示します。その核心となるのが、八支則(アシュターンガ・ヨーガ)と呼ばれる実践体系です。

  1. ヤマ(禁戒): 倫理的な規範。他人との関係性において守るべき五つの戒め(非暴力、正直、不盗、禁欲、不執着)が含まれます。

  2. ニヤマ(勧戒): 自己規律。自己との関係性において実践すべき五つの行い(清浄、知足、苦行、学習、帰依)が含まれます。

  3. アーサナ(体位): 身体を安定させるポーズ。身体的な健康を促進し、精神的な安定をもたらします。

  4. プラーナーヤーマ(呼吸法): 呼吸のコントロール。心身のエネルギーバランスを整え、心の静寂を促します。

  5. プラティヤハーラ(感覚の制御): 感覚を内面に向けること。外界からの刺激に惑わされず、内なる自己に意識を向けます。

  6. ダーラナー(集中): 意識を一点に集中させること。心の散漫さを克服し、集中力を高めます。

  7. ディヤーナ(瞑想): 集中を深め、対象との一体感を味わうこと。深い瞑想状態へと導きます。

  8. サマーディ(三昧): 瞑想の極み。意識が対象と完全に一体化し、自我意識を超越した状態です。

八支則は、段階的に実践することで、心の動きを徐々に鎮めていくための道筋を示しています。この実践を通して、私たちは自己の内なる本質に近づき、真の自己実現へと至ることができるのです。

 

アドヴァイタ・ヴェーダーンタ:唯一なる実在

アドヴァイタ・ヴェーダーンタは、インド哲学の中でも最も影響力の強い思想体系の一つです。その中心的な教えは、**「ブラフマン」と呼ばれる究極の実在と、私たちの「アートマン(真我)」**は同一であるというものです。

ブラフマン: 宇宙の根源、究極の実在、唯一不二の存在。言葉では表現できない、超越的な存在です。

アートマン: 個々の人間の本質、真我。ブラフマンと同一であり、永遠不変の存在です。

アドヴァイタ・ヴェーダーンタは、私たちの日常的な認識は「マーヤー(幻影)」に覆われており、真実を正しく見ることができないと説きます。私たちは、自己と他者、現実と虚構といった二元的な世界観の中に生き、そこから苦しみが生じると考えます。

この「マーヤー」を乗り越え、ブラフマンとアートマンの同一性を悟ることが、アドヴァイタ・ヴェーダーンタの目指す究極の目標です。この悟りは、私たちをあらゆる苦しみから解放し、真の自由へと導きます。

関連記事:この世は幻想でありマーヤと呼ばれているので、根本の癒しは剥がすところにある

 

非二元論の視点:ヨーガスートラとアドヴァイタ・ヴェーダーンタの共通点

『ヨーガスートラ』とアドヴァイタ・ヴェーダーンタは、それぞれ異なるアプローチを取っていますが、その根底には共通する非二元論的な視点が存在します。

まず、『ヨーガスートラ』は、心の働きを止滅させることで、**「自己との同一性」**を体験することを目指します。八支則の実践を通して、私たちは自己の内なる静寂へと向かい、心の動きに囚われない状態へと至ります。この体験は、アドヴァイタ・ヴェーダーンタが説く「アートマン」の真実、つまり自己の本質がブラフマンと同一であるという悟りに通じるものです。

次に、アドヴァイタ・ヴェーダーンタは、**「分離の幻想」**を乗り越えることを重視します。私たちは、自己と世界を分離して捉え、そこから様々な苦しみを生み出しています。アドヴァイタ・ヴェーダーンタは、この分離の幻想を打ち破り、すべては唯一のブラフマンから生じているという真実を悟ることを目指します。『ヨーガスートラ』における心の働きを止滅させる実践は、この分離の幻想を克服し、真実へと近づくための強力な手段となり得るのです。

 

瞑想とサマーディ

ヨーガの実践、特に瞑想とサマーディは、アドヴァイタ・ヴェーダーンタの悟りに不可欠な要素となります。

瞑想(ディヤーナ): 意識を一点に集中させ、対象との一体感を深める行為です。この実践を通して、私たちは自己の限界を超え、より深い意識状態へと入ることができます。

サマーディ(三昧): 瞑想の極みであり、意識が対象と完全に一体化し、自我意識を超越した状態です。この状態では、主観と客観の区別がなくなり、真我(アートマン)とブラフマンの同一性を直接的に体験することができます。

アドヴァイタ・ヴェーダーンタでは、瞑想とサマーディを通して、私たちは自己の内なる本質に触れ、真我の現実を体験します。この体験は、私たちが抱えるあらゆる苦しみからの解放へと繋がるのです。

 

ヨーガの実践と自己実現

『ヨーガスートラ』に基づくヨーガの実践は、自己実現のための具体的な道を示しています。八支則の実践を通して、私たちは心身を浄化し、自己の内なる静寂へと向かうことができます。

アサナ(体位): 身体の柔軟性を高め、エネルギーの流れを良くし、心身のバランスを整えます。

プラーナヤーマ(呼吸法): 呼吸をコントロールすることで、心の状態を安定させ、集中力を高めます。

プラティヤハーラ(感覚の制御): 感覚を内面に向けることで、外界からの刺激に惑わされず、自己の内なる世界を探求します。

ダーラナー(集中): 意識を一点に集中させることで、心の散漫さを克服し、深い瞑想へと入る準備をします。

ディヤーナ(瞑想): 集中を深め、対象との一体感を味わうことで、自己の本質を深く理解します。

サマーディ(三昧): 瞑想の極みであり、自己超越的な体験を通して、真我との一体性を実現します。

これらの実践を通して、私たちは自己の内なる本質に目覚め、自己の可能性を最大限に引き出すことができます。ヨーガは、単なる身体技法ではなく、自己実現のための包括的な実践体系なのです。

 

東洋思想の歴史的背景と現代への示唆

ヨーガとアドヴァイタ・ヴェーダーンタは、古代インド思想の重要な一部であり、その歴史的背景を理解することは、それぞれの思想をより深く理解するために不可欠です。

ヴェーダ時代: インド最古の聖典であるヴェーダは、宇宙の根源を探求し、人間の存在の意味を問いかけました。

ウパニシャッド時代: ヴェーダの思想を発展させ、ブラフマンとアートマンの同一性を説くアドヴァイタ・ヴェーダーンタの思想的な基盤が形成されました。

ヨーガスートラの時代: ヨーガの実践と哲学が体系化され、自己実現のための具体的な方法が示されました。

関連記事:インド思想史におけるヨーガスートラ:ヴェーダからウパニシャッド、そしてヨーガへ

これらの思想は、現代社会においても大きな示唆を与えてくれます。

 

ストレス社会への対応: 現代社会は、ストレスや不安に満ち溢れています。ヨーガの実践は、心の平穏を取り戻し、ストレスを軽減するための有効な手段となります。

自己探求の重要性: 現代社会では、個人の価値観が多様化し、自己探求の重要性が高まっています。ヨーガとアドヴァイタ・ヴェーダーンタは、自己の本質を探求し、真の自己実現へと至るための道を示してくれます。

非二元論的思考: 現代社会は、対立や分断が深刻化しています。アドヴァイタ・ヴェーダーンタの非二元論的な視点は、対立を乗り越え、調和のとれた社会を築くためのヒントを与えてくれます。

ヨーガとアドヴァイタ・ヴェーダーンタは、過去の知恵でありながら、現代社会においても非常に有効な思想です。それらの学びを通して、私たちは自己の内なる平和を見つけ、より豊かな人生を送ることができるでしょう。

 

まとめ:ヨーガの実践と非二元論の統合

『ヨーガスートラ』とアドヴァイタ・ヴェーダーンタは、それぞれ異なるアプローチを取っていますが、非二元論という共通の基盤を持っています。ヨーガの実践は、心の動きを止滅させ、自己の内なる静寂へと至るための道を示します。一方、アドヴァイタ・ヴェーダーンタは、一切の存在は唯一の実在であるという真実を説き、分離の幻想を打ち破ることを目指します。

ヨーガの実践は、アドヴァイタ・ヴェーダーンタの悟りへと至るための強力な手段となり、アドヴァイタ・ヴェーダーンタの教えは、ヨーガの実践の目的を明確にし、その効果を最大限に高めます。

この統合された視点を通して、私たちは自己の本質を深く理解し、真の自由へと至ることができるでしょう。ヨーガの実践を通して、心の平穏と自己実現を達成し、アドヴァイタ・ヴェーダーンタの教えによって、その実践をより深いレベルへと導き、自己の本質との一体感を味わうことが、この探求の目的と言えるでしょう。

 

 

ヨガの基本情報まとめの目次は以下よりご覧いただけます。

 

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。