インド思想史におけるヨーガスートラ:ヴェーダからウパニシャッド、そしてヨーガへ

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ヨーガスートラは、古代インドの賢者パタンジャリによって編纂された、ヨーガ哲学と実践の根幹を成す聖典です。このテキストは、数千年にわたり、ヨーガの実践者たちにとって、自己探求と精神的な成長の道標となってきました。ヨーガスートラを深く理解するためには、その歴史的背景、特にヴェーダ時代、ウパニシャッド時代、そしてヨーガスートラの時代という、インド思想の壮大な流れの中に位置づけることが不可欠です。これらの時代を辿ることで、ヨーガスートラがどのような思想的土壌から生まれ、どのような目的を持って体系化されたのかが見えてきます。

 

ヴェーダ時代:宇宙の根源への問い

ヴェーダ時代は、紀元前1500年頃から紀元前500年頃まで続いた、インド最古の文明であるヴェーダ文明の時代を指します。この時代に編纂されたヴェーダは、人類最古の聖典の一つであり、リグ・ヴェーダ、サーマ・ヴェーダ、ヤジュル・ヴェーダ、アタルヴァ・ヴェーダの四つの主要な文献群から構成されています。ヴェーダは、単なる宗教的なテキストに留まらず、当時の人々の宇宙観、自然観、社会観、倫理観など、生活全般にわたる知恵が凝縮されています。

ヴェーダの中心的なテーマの一つは、宇宙の根源の探求です。ヴェーダの聖歌(マントラ)は、自然現象を神格化した神々への賛歌であると同時に、宇宙の秩序(リタ)を維持するための祈りでもありました。人々は、自然の力に対する畏敬の念を抱きながら、宇宙の創造、維持、そして終焉といった根源的な問いに向き合いました。ヴェーダの神話や儀式は、宇宙の秩序を再現し、人間と自然、そして神々との調和を保つことを目的としていました。

また、ヴェーダ時代の人々は、人間の存在の意味についても深く考察しました。ヴェーダの聖歌には、人生の喜びや苦しみ、生と死、そして人間の運命に対する様々な感情や思索が込められています。ヴェーダの儀式は、現世での幸福や繁栄を祈願するだけでなく、死後の世界における救済や再生を願うものでもありました。ヴェーダ時代における人間の探求は、外側の宇宙だけでなく、内側の自己へと向かう萌芽を含んでいたと言えるでしょう。

 

ウパニシャッド時代:内なる自己の探求

紀元前8世紀頃から紀元前5世紀頃にかけてのウパニシャッド時代は、ヴェーダ時代の思想をさらに深化させ、内面的な探求へと大きく舵を切った時代です。ウパニシャッドは、ヴェーダ聖典群の最後に位置づけられる文献であり、「ヴェーダーンタ(ヴェーダの終末)」とも呼ばれます。ウパニシャッドは、ヴェーダの儀式主義的な側面から脱却し、哲学的な思索を深め、自己の本質、宇宙の真理を探求しました。

ウパニシャッドの中心的な思想は、ブラフマン(梵)とアートマン(我)の同一性です。ブラフマンとは、宇宙の根源であり、万物の根底に存在する究極的な実在です。アートマンとは、個々の人間の内奥に存在する真の自己であり、意識の本質です。ウパニシャッドは、「 Tat Tvam Asi (タット・ヴァム・アシ) 」(汝はそれである)という有名な言葉で表現されるように、ブラフマンとアートマンは本質的に同一であり、個々の自己の中に宇宙の根源が宿っていると説きました。

ウパニシャッドの思想は、アドヴァイタ・ヴェーダーンタ(不二一元論)と呼ばれる哲学体系の基礎となりました。アドヴァイタ・ヴェーダーンタは、世界は幻影(マーヤー)であり、真の実在はブラフマンのみであると主張します。個々の自己は、ブラフマンの現れであり、真の自己を認識することで、輪廻転生から解放され、ブラフマンとの合一(モークシャ)を達成できると説きます。ウパニシャッド時代は、外的な儀式から内的な知識、宇宙の根源から自己の本質へと、インド思想の重心が大きくシフトした時代であり、後のヨーガ哲学の発展に不可欠な思想的基盤を築きました。

 

ヨーガスートラの時代:実践による自己実現

紀元後2世紀頃に編纂されたとされるヨーガスートラは、ヴェーダ時代、ウパニシャッド時代を経て成熟したインド思想の集大成とも言えるテキストです。ヨーガスートラは、ヨーガの実践と哲学を体系的にまとめ、自己実現のための具体的な方法論を示しました。パタンジャリは、ヨーガの目的を「心の働きの止滅(Yoga citta vritti nirodhah)」と定義し、心の働きを制御することで、真の自己(プルシャ)を認識し、苦しみから解放される道筋を示しました。

ヨーガスートラは、八支則(アシュタンガ・ヨーガ)と呼ばれる八つの段階的な実践体系を提示しています。八支則は、ヤマ(禁戒)、ニヤマ(勧戒)、アーサナ(坐法)、プラーナヤーマ(呼吸法)、プラティヤハラ(感覚の制御)、ダーラナ(集中)、ディヤーナ(瞑想)、サマディ(三昧)から構成されており、倫理的な基盤の上に、身体的な実践、呼吸法、瞑想などを組み合わせることで、段階的に心の静寂を深め、自己実現へと導くことを目指します。

ヨーガスートラは、ヴェーダやウパニシャッドの思想を受け継ぎながらも、より実践的、体系的なアプローチを提示しました。ウパニシャッドがブラフマンとアートマンの同一性という哲学的真理を示したのに対し、ヨーガスートラは、その真理を体験的に理解し、日常生活の中で実現するための具体的な方法を提供しました。ヨーガスートラは、知識だけでなく、実践を通じて自己変革を促す、ヨーガ哲学の核心となるテキストなのです。

 

まとめ:連綿と続く探求の系譜

ヴェーダ時代からウパニシャッド時代、そしてヨーガスートラの時代へと続くインド思想の流れは、宇宙の根源、人間の存在意義、そして自己実現という普遍的なテーマに対する、連綿とした探求の歴史です。ヴェーダは宇宙の秩序への畏敬と祈りを、ウパニシャッドは内なる自己と宇宙の根源との同一性を、そしてヨーガスートラは実践による自己変革の道をそれぞれ示しました。ヨーガスートラは、これらの先人たちの知恵を受け継ぎ、ヨーガという実践的な体系として結実させた、インド思想の輝かしい成果と言えるでしょう。ヨーガスートラを学ぶことは、単にヨーガのテクニックを習得するだけでなく、数千年にわたる人類の叡智に触れ、自己探求の旅を深めることでもあるのです。

 

 

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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。