心の働き(Vritti)の理解:ヨーガスートラ実践への扉を開く

ヨガを学ぶ

ヨーガスートラは、古代インドの賢者パタンジャリによって編纂された、ヨガの哲学と実践に関する根本的なテキストです。この聖典は、心の静寂を達成し、自己の本質を理解するための道筋を示しています。その道筋を歩むための第一歩として、ヨーガスートラが定義する「Vritti(ヴリッティ)」、すなわち「心の働き」を深く理解することが不可欠です。Vrittiを理解することは、心の癖やパターンを認識し、それらを制御するための鍵となり、ヨーガの実践を通じて心の平穏と自己実現へと導く羅針盤となるのです。

 

Vritti:心の騒がしさを知る

ヨーガスートラにおいて、Vrittiとは、心の表面を絶えず波立たせる、思考、感情、感覚といった心の活動を指します。これらの活動は、私たちを過去の記憶や未来への期待に囚われ、現在の瞬間に集中することを妨げます。Vrittiが制御されない状態では、心は落ち着きを失い、苦しみや混乱が生じます。ヨーガスートラは、Vrittiを理解し、その影響を軽減することで、心の静寂を実現し、真の自己と繋がることを目指します。

 

五つのVritti:心の働きを分類する

ヨーガスートラは、Vrittiを以下の五つのカテゴリーに分類しています。

  1. プラマーナ(Pramana): 正しい知識、真実に基づいた認識

  2. ヴィパルヤーヤ(Viparyaya): 誤った知識、誤解や錯覚に基づく認識

  3. ヴィカルパ(Vikalpa): 想像、言葉や概念に基づいて作り上げられたイメージや思考

  4. ニドラー(Nidra): 睡眠、意識が活動を停止した状態

  5. スムリティ(Smriti): 記憶、過去の経験や知識を思い出すこと

これらのVrittiは、それぞれ異なる性質を持ち、私たちの心に様々な影響を与えます。

 

プラマーナ(Pramana):真実を見極める

プラマーナは、真実に基づいた正しい知識を指します。ヨーガスートラでは、プラマーナを以下の三つの種類に分類しています。

  • 直接知覚(Pratyaksha): 五感を通じて得られる直接的な経験に基づく知識。例えば、目で見る、耳で聞く、肌で触れるといった感覚を通じて得られる情報です。

  • 推論(Anumana): 論理的な推論に基づいて得られる知識。例えば、煙を見て火の存在を推測する、原因と結果の関係を理解することです。

  • 聖典・信頼できる証言(Agama): 信頼できる聖典や専門家の証言に基づいて得られる知識。例えば、ヨーガスートラや医学書から得られる知識です。

プラマーナは、私たちが現実を正確に理解し、正しい判断を下すための基盤となります。しかし、私たちの認識は、過去の経験や偏見、感情などによって歪められることがあります。プラマーナを正しく理解するためには、客観的な視点を持ち、批判的に思考することが重要です。

 

ヴィパルヤーヤ(Viparyaya):誤りを認識する

ヴィパルヤーヤは、誤った知識や誤解に基づく認識を指します。これは、現実を歪めて認識し、誤った判断や行動を引き起こす原因となります。ヴィパルヤーヤは、私たちの心の癖や偏見、過去の経験などによって生じることがあります。

ヴィパルヤーヤを克服するためには、自己認識を高め、自分の心の癖や偏見に気づくことが重要です。また、客観的な視点を持ち、情報を鵜呑みにせず、批判的に思考する習慣を身につけることも大切です

 

ヴィカルパ(Vikalpa):概念の虚構性を見抜く

ヴィカルパは、言葉や概念に基づいて作り上げられたイメージや思考を指します。これは、実際には存在しないものを存在するかのように認識することであり、現実との乖離を生み出す原因となります。ヴィカルパは、私たちの想像力や創造性の源泉となることもありますが、過度なヴィカルパは、現実逃避や妄想に繋がる可能性があります。

ヴィカルパを制御するためには、現実と想像の区別を明確にし、言葉や概念に囚われすぎないようにすることが重要です。また、瞑想やマインドフルネスなどの実践を通じて、現在の瞬間に意識を集中し、思考の流れを観察することで、ヴィカルパの影響を軽減することができます。

 

ニドラー(Nidra):休息とリセット

ニドラーは、睡眠、すなわち意識が活動を停止した状態を指します。睡眠は、心身を休息させ、エネルギーを回復するために不可欠な生理現象です。ヨーガスートラでは、ニドラーもVrittiの一つとして捉えられており、心の状態に影響を与えると考えられています。

良質な睡眠は、心の平穏を保ち、認知機能を高めるために重要です。睡眠不足は、集中力や判断力を低下させ、ストレスや不安を引き起こす可能性があります。ニドラーを意識的に活用するためには、規則正しい睡眠習慣を身につけ、睡眠の質を高めるための工夫をすることが大切です。

 

スムリティ(Smriti):過去との向き合い方

スムリティは、記憶、すなわち過去の経験や知識を思い出すことを指します。記憶は、私たちの人格形成や学習に不可欠な要素ですが、過去のトラウマやネガティブな経験を思い出すことは、心の苦しみを生み出す原因となることがあります。

スムリティを制御するためには、過去の経験を客観的に捉え、感情的な執着を手放すことが重要です。また、過去の経験から学び、成長の機会として捉えることで、スムリティをポジティブな力に変えることができます。

 

Vritti Nirodhah:ヨーガの目標

ヨーガスートラの核心的な概念である「Vritti Nirodhah(ヴリッティ・ニローダハ)」は、Vrittiの制御、すなわち心の働きの止滅を意味します。これは、ヨーガの実践を通じて達成されるべき目標であり、心の静寂と自己実現への道を開くものです。

Vritti Nirodhahを達成するためには、以下の八支則(アシュタンガ・ヨーガ)と呼ばれるヨーガの実践体系を段階的に実践する必要があります。

  1. ヤマ(Yama): 社会的な規範、倫理的な制約

    • アヒンサー(Ahimsa):非暴力

    • サティヤ(Satya):誠実

    • アスティヤ(Asteya):不盗

    • ブラフマチャリヤ(Brahmacharya):禁欲

    • アパリグラハ(Aparigraha):不貪

  2. ニヤマ(Niyama): 個人的な規律、自己修養

    • シャウチャ(Shaucha):清浄

    • サントーシャ(Santosha):知足

    • タパス(Tapas):熱行

    • スワディヤーヤ(Svadhyaya):自己学習

    • イシュワラプラニダーナ(Ishvara Pranidhana):自在神祈念

  3. アーサナ(Asana): 快適で安定した姿勢

  4. プラーナヤーマ(Pranayama): 呼吸の制御

  5. プラティヤハーラ(Pratyahara): 感覚の制御

  6. ダーラナ(Dharana): 集中

  7. ディヤーナ(Dhyana): 瞑想

  8. サマーディ(Samadhi): 悟り

これらの八支則を実践することで、私たちは心の働きを徐々に制御し、Vritti Nirodhahの状態へと近づくことができます。

 

日常生活におけるVrittiの理解と実践

Vrittiの理解は、ヨーガの実践だけでなく、日常生活においても非常に役立ちます。自分の心の働きを意識することで、感情に振り回されず、冷静な判断を下すことができます。また、ストレスや不安を感じた時に、その原因となっているVrittiを特定し、適切な対処法を見つけることができます。

以下に、日常生活におけるVrittiの理解と実践の例を挙げます。

  • ストレスを感じた時: ストレスの原因となっている思考や感情を特定し、客観的に分析する。例えば、「仕事で失敗した」という思考がストレスの原因である場合、その思考がプラマーナ(事実に基づいているか)、ヴィパルヤーヤ(誤った認識はないか)、ヴィカルパ(過度な想像はないか)などを検討する。

  • 人間関係で悩んだ時: 相手の言動に対する自分の感情を分析し、その感情が過去の経験や偏見に基づいている可能性を考慮する。相手の立場を理解しようと努め、感情的な反応を避ける。

  • 決断を迫られた時: 様々な選択肢を検討し、それぞれの選択肢がもたらす結果を客観的に評価する。感情的な要因に左右されず、論理的な思考に基づいて判断する。

 

まとめ:Vrittiの理解は、自己変革の第一歩

Vrittiの理解は、ヨーガスートラの実践における第一歩であり、自己変革への扉を開く鍵となります。自分の心の働きを意識し、Vrittiを制御することで、私たちは心の静寂を実現し、真の自己と繋がることができます。ヨーガスートラの教えを学び、実践することで、私たちはより充実した人生を送ることができるでしょう。

 

 

ヨガの基本情報まとめの目次は以下よりご覧いただけます。

 

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。