自分自身への、静かな優しさを取り戻す DAY16

自己啓発

ー最も近くにいる、最も厳しい批判者ー

私たちは、親しい友人が仕事で失敗し、落ち込んでいるとき、どのような言葉をかけるでしょうか。「君はなんてダメな人間なんだ」「もっと努力すべきだった」と、容赦なく罵倒するでしょうか。おそらく、ほとんどの人はそうしないはずです。「誰にでもあることだよ」「よく頑張ったね」「少し休んだらいい」と、温かい言葉で慰め、励まそうとするでしょう。

では、同じことが自分自身の身に起こったとき、私たちは自分にどのような言葉をかけているでしょうか。驚くほど多くの人が、友人には決して向けないような、冷たく、厳しい言葉を、心の中で自分自身に浴びせかけています。私たちは、自分自身の最も近くにいる、最も容赦のない批判者(インナークリティック)として、日々を生きているのかもしれません。

この内なる声は、私たちを奮い立たせ、より高みへと導くための「愛の鞭」なのだと、私たちは信じ込まされてきました。しかし、この絶え間ない自己批判は、本当に私たちを強く、幸せにしてくれるのでしょうか。それとも、私たちの自尊心を静かに蝕み、挑戦する意欲を奪い、私たちを不安と自己嫌悪の牢獄に閉じ込める、見えざる鎖なのでしょうか。

今日、私たちは、この最も身近な他者である「自分自身」との関係性を、根本から見つめ直します。それは、握りしめた自己批判のこぶしをゆっくりと開き、自分自身に対して、まるで大切な友人に接するかのような、静かで、無条件の優しさを取り戻すための、魂の帰郷の旅です。

 

非暴力(アヒンサー)は、まず自分自身へ

ヨガの倫理的な教えの根幹をなすヤマ(禁戒)の、その筆頭に挙げられるのが「アヒンサー(Ahiṃsā)」、すなわち「非暴力・不殺生」です。この教えを聞くと、多くの人は、他者や他の生命に対して、物理的な危害を加えないことだと理解します。もちろんそれは正しいのですが、アヒンサーの射程は、それよりも遥かに広く、深いものです。ヨガの賢者たちは、この非暴力の原則が、まず何よりも「自分自身」に対して適用されなければならないことを知っていました。

私たちの多くは、気づかぬうちに、自分自身に対して様々な形の暴力を振るっています。完璧なポーズを目指すあまり、身体の悲鳴を無視して無理な練習を続けること。睡眠時間を削ってまで、働き続けること。そして、最も見過ごされがちなのが、自己否定的な思考によって、自分自身の心を傷つけ続けるという、精神的な暴力です。

「私はダメだ」「私には価値がない」「どうせ失敗する」。これらの思考は、目に見えないナイフのように、私たちの心の最も柔らかい部分を、繰り返し突き刺します。この内なる暴力に無自覚である限り、私たちは真の心の平穏(シャーンティ)に到達することはできません。自分自身と平和な関係を築けていない人間が、どうして他者や世界と、真に平和な関係を築くことができるでしょうか。アヒンサーの実践は、この最も身近な戦場である、自己との内戦を終わらせることから始まるのです。

 

慈悲(メッター)の光を、内に向ける

この自己への優しさというテーマは、仏教の伝統においても、極めて重要な位置を占めています。特に、「慈悲の瞑想(メッター・バーヴァナー)」は、この優しさを育むための、洗練された実践法として知られています。

興味深いことに、慈悲の瞑想は、多くの場合、いきなり他者への慈しみを念じることから始めるのではありません。その最初のステップは、例外なく「自分自身」に慈しみの言葉を向けることなのです。瞑想者は、静かに座り、心の中でこう繰り返します。

「私が、幸せでありますように」

「私の悩み苦しみが、なくなりますように」

「私の望みが、叶えられますように」

「私に悟りの光が、現れますように」

最初は、この実践に強い抵抗を感じる人が少なくありません。「自分だけが幸せを願うなんて、自己中心的ではないか」と。しかし、仏教の叡智は、この順番が不可欠であることを教えてくれます。それは、コップがまず水で満たされなければ、その水が溢れ出して他者を潤すことができないのと同じです。自分自身の内なる慈悲の器が空っぽのままでは、他者に対して、真の、見返りを求めない優しさを与えることはできないのです。

自分自身を愛と優しさで満たすこと。それは、自己満足やナルシシズムとは全く異なります。むしろ、それは、他者への奉仕の質を高めるための、最も基本的な準備運動なのです。

 

セルフ・コンパッションという、科学的な処方箋

近年、この古代の叡智は、現代心理学の世界で「セルフ・コンパッション(Self-Compassion)」という概念として再発見され、その驚くべき効果が科学的に検証されています。研究者のクリスティン・ネフによれば、セルフ・コンパッションは、三つの主要な要素から成り立っています。

1. 自分への優しさ(Self-Kindness)

失敗したり、苦しんだりしているときに、自己批判に陥るのではなく、自分に対して温かく、理解ある態度をとること。自分は完璧ではない、という事実を受け入れ、不完全な自分を許すこと。

2. 共通の人間性(Common Humanity)

自分の苦しみや失敗を、個人的な欠陥として孤立させて捉えるのではなく、それが人間であることの普遍的な経験の一部であると認識すること。「なぜ私だけがこんな目に」と考える代わりに、「苦しんでいるのは、私だけではない。これもまた、人間であるということの一部なのだ」と捉え直す。この認識は、私たちを孤独感から救い出してくれます。

3. マインドフルネス(Mindfulness)

自分の苦しい感情を、無視したり、過度に同一化したりすることなく、あるがままに、バランスの取れた視点で観察すること。感情の嵐に飲み込まれるのではなく、「ああ、今、私は悲しみを感じているな」と、一歩引いて気づく力。

セルフ・コンパッションは、自尊心(セルフ・エスティーム)とは異なります。自尊心は、しばしば他者との比較や、成功体験といった外部の条件に依存するため、不安定になりがちです。しかし、セルフ・コンパッションは、成功しようが失敗しようが、自分の価値は変わらないという、無条件の自己受容に基づいています。そのため、逆境において、より安定した心の支えとなることが、多くの研究で示されています。

 

優しさを取り戻すための、ささやかな実践

今日、私たちは、この静かな優しさを、具体的な行動として自分の日常に取り戻すことを試みます。それは、大げさなことである必要はありません。むしろ、ささやかで、身体的な感覚を伴うものが効果的です。

  • 優しいタッチ:今、この場で、自分の腕を、もう片方の手で優しく撫でてみてください。あるいは、そっと自分の頬に触れてみる。まるで、大切な赤ちゃんや、愛するペットに触れるかのように。このシンプルな身体的接触は、脳内でオキシトシンという「愛情ホルモン」の分泌を促し、安心感をもたらすことが知られています。

  • 温かい飲み物を、慈しむ:一杯のハーブティーや白湯を淹れ、その温かさがカップを通して手のひらに伝わる感覚、立ち上る湯気の香り、液体が喉を通り過ぎていく温かい感覚を、一つ一つ丁寧に味わってみてください。これは、自分自身をケアし、労わるための、小さな儀式です。

  • 失敗したときの魔法の言葉:今日、何か小さな失敗をしたり、物事がうまくいかなかったりしたときに、いつものように自己批判の声が頭をもたげたら、一呼吸おいて、意識的にこう呟いてみてください。「大丈夫だよ」「辛かったね」「人間だもの、そういうこともあるさ」。まるで、親しい友人に語りかけるように。最初は気恥ずかしいかもしれませんが、この言葉は、確実にあなたの心を和らげてくれるはずです。

自分自身への優しさを取り戻す旅は、一日にして成るものではありません。それは、長年にわたって築き上げられた自己批判の習慣を、一つ一つ、忍耐強く、優しい眼差しで解きほぐしていく、生涯をかけたプロセスです。しかし、その一歩を踏み出したとき、あなたは、もはや自分自身という敵と戦う必要がなくなることに気づくでしょう。そして、あなたの内に生まれたその平和は、静かな波紋のように、あなたの周りの世界へと、自然に広がっていくのです。

 

→目次:28日間の瞑想的生活【ヨガと瞑想】

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。