183. 「願い」と「意図」の違い – 欠乏からではなく、充足から始める

自己啓発

私たちは、「引き寄せの法則」という言葉を聞くと、しばしば魔法のランプを手に入れたアラジンのように、自らの「願い」を宇宙に注文することを想像します。「もっとお金が欲しい」「素敵なパートナーが欲しい」「成功したい」。これらの言葉の裏には、ある共通の響きが隠されています。それは、「今、私にはそれがない」という、痛切なまでの欠乏感です。この欠乏の地点から放たれる「願い」は、皮肉なことに、「欠乏している私」という自己認識を宇宙に発信し続けることになり、結果として欠乏の現実を強化してしまうというパラドックスを孕んでいます。

ここで、ヨガ哲学の叡智が、私たちの視点を根本から転換させる鍵を提示します。それが「願い(Wish)」と「意図(Intention)」の決定的な違いを理解することです。前述したサンカルパは、まさにこの「意図」の領域に属します。願いが欠乏、すなわち「不足(Abhāva)」の感覚から生まれるのに対し、ヨガ的な意図は充足、すなわち「満たされていること(Pūrṇatā)」の感覚から始まります。これは、出発点が180度異なる、まったく別の旅路なのです。

考えてみてください。砂漠で喉が渇いて水を求める人の心と、豊かな泉のほとりで、その水の恵みを世界と分かち合おうと思う人の心は、全く異なる質を持っています。前者は切迫感と不安に満ち、後者は感謝と喜びに満ちています。ヨガの実践は、まず私たちを、自分自身の内側にある「尽きることのない泉」のほとりへと導くことから始まります。呼吸に意識を向け、身体の感覚に耳を澄まし、思考の嵐が過ぎ去った後の静寂に触れるとき、私たちは外側の条件に関わらず、存在そのものがすでに完全であり、満たされているという事実に気づくのです。これをヨガでは「サントーシャ(知足)」と呼びます。

この「すでに満たされている」という地点に立ったとき、私たちの望みは質的な変容を遂げます。「〜がなければ幸せになれない」という渇望から、「この満たされたエネルギーを、どのような形で世界に表現していこうか?」という、創造的な問いへと変わるのです。これが「意図」です。意図は、欠けているものを埋めるための必死の努力ではありません。それは、内側から溢れ出る豊かさが、自然な形で外側へと流れ出していくプロセスなのです。

例えば、「お金がなくて不安だから、豊かになりたい」と願う代わりに、充足の地点から、「私は豊かさそのものである。この豊かさを、世界に循環させる経験をしよう」と意図します。「孤独で寂しいからパートナーが欲しい」と願う代わりに、「私は愛そのものである。この愛を分かち合う素晴らしい関係性を創造しよう」と意図するのです。

この違いは、単なる言葉遣いの問題ではありません。それは、あなたの存在の周波数、すなわち波動を根本から変える行為です。量子力学の世界が示唆するように、観察者の意識が結果に影響を与えるならば、私たちの意識が「欠乏」に焦点を合わせているのか、それとも「充足」に根差しているのかは、創造される現実に決定的な違いを生むでしょう。欠乏の周波数はさらなる欠乏を引き寄せ、充足の周波数はさらなる充足を引き寄せるのです。

日々の実践において、あなたの望みが心に浮かんだ時、少し立ち止まってその根源を探ってみてください。「この望みは、何が『ない』という感覚から来ているだろうか?」と。そして、もし欠乏感を見つけたら、まずその感情を優しく認め、呼吸と共に手放します。そして、あなたの内なる泉、すでに満たされている感覚へと意識を戻すのです。そこから、改めてあなたの望みを「意図」として、静かに、しかし確信をもって宇宙に放ってください。それはもはや、必死の懇願ではなく、共同創造者としての、宇宙に対する信頼に満ちた宣言となることでしょう。この転換こそが、ヨガ的引き寄せの真髄であり、最もパワフルな実践なのです。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。