16.身体の硬さは心の硬さ – ストレッチがもたらす精神の柔軟性

自己啓発

「私は身体が硬いから、ヨガなんて無理です」――。ヨガスタジオの門を叩くことを躊躇する理由として、これほど頻繁に耳にする言葉はありません。しかし、ヨガ哲学の視点から見れば、これは「喉が渇いているから、水は飲めません」と言っているのと、どこか似ています。むしろ、身体が硬いと感じている人こそ、ヨガがもたらす恩恵を最も深く体験できる可能性を秘めているのです。なぜなら、身体の硬さとは、単なる筋肉や関節の問題ではなく、私たちの「心の在り方」を映し出す鏡に他ならないからです。

私たちの身体と心は、決して別々のものではありません。心身相関という言葉が示すように、両者は密接に影響を及ぼし合っています。例えば、あなたが頑固な考えに固執している時、変化を恐れて現状維持に必死になっている時、あるいは「こうあるべきだ」という強い固定観念に縛られている時。そうした「心の硬さ」は、知らず知らずのうちに身体の緊張として現れます。肩をすくめ、奥歯を食いしばり、呼吸は浅くなる。この状態が慢性化すると、筋肉は柔軟性を失い、関節の可動域は狭まっていくのです。東洋医学でいう「気」の流れが滞り、エネルギーがブロックされている状態とも言えるでしょう。

ヨガで行うストレッチは、この心身の結びつきに、深く、そして優しく働きかけます。もちろん、物理的な効果も絶大です。筋肉が伸ばされることで血流が促進され、新鮮な酸素や栄養が細胞の隅々まで行き渡ります。溜まっていた老廃物も排出されやすくなる。しかし、ヨガのストレッチの真価は、そこに「呼吸」と「意識」が伴う点にあります。

深い、ゆったりとした呼吸をしながら身体を伸ばしていくと、私たちの自律神経は、興奮や緊張を司る交感神経から、リラックスや休息を司る副交感神経へとスイッチが切り替わります。すると、心拍数は落ち着き、筋肉の緊張は自然と緩んでいきます。さらに、伸びている部分に意識を向けることで、私たちは身体からの微細なフィードバックを受け取ります。「ああ、こんなにも背中が緊張していたのか」「股関節に、こんな感情が溜まっていたのかもしれない」。それは、身体を通して自分自身の内面と対話する、瞑想的な時間となるのです。

身体の特定の部分を解放することが、特定の精神的なブロックを解放することに繋がる、という考え方もあります。例えば、股関節周りは、抑圧された感情や過去のトラウマが溜まりやすい場所と言われます。この部分の柔軟性を高めることは、新たな経験や他者を受け入れる「受容性」を高める助けとなります。猫背になりがちな胸や肩甲骨周りをストレッチで開くことは、文字通り「心を開き」、背負い込んでいた心理的な重荷やプレッシャーから自由になる感覚をもたらします。

ここで目指すべき「柔軟性」とは、ただぐにゃぐにゃと柔らかいことではありません。それは、必要な時には安定した強さを保ちつつ、予期せぬ力や変化に対しては折れることなく、しなやかに受け流せる「弾力性」のことです。これは、精神的な強さである「レジリエンス(回復力)」と全く同じ構造をしています。人生で困難な出来事に遭遇した時、頑なな心はポキリと折れてしまいますが、しなやかな心は一時的に形を変えながらも、その衝撃を吸収し、再び元の穏やかな状態へと戻ることができるのです。

身体の硬さと向き合うプロセスは、時に痛みを伴います。しかし、それは自分自身の心の硬さ、つまり、これまでの人生で作り上げてきた思考のパターンや感情の癖と向き合うプロセスでもあるのです。呼吸の助けを借りながら、焦らず、比べず、ほんの少しずつ可動域を広げていく。その丁寧な稽古は、自分の限界を決めつけず、新たな可能性を恐れずに受け入れていくという、人生そのものの歩み方を教えてくれます。身体がしなやかになるにつれて、あなたの心もまた、世界に対してよりオープンで、柔軟になっていくことに気づくでしょう。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。