「ただ座る」という最小限のアクション【シンプル瞑想】

MEDITATION-瞑想

現代を生きる私たちは、常に何かを「獲得」することに価値を見出しがちです。より多くの情報、より高いスキル、より豊かな物質。それらを積み重ねることで、自分自身の価値を高め、安心を得ようと努めています。しかし、いくら積み重ねても、心の中の満たされない穴が埋まらない、あるいは、積み上げたものに押しつぶされそうになるような感覚を覚えることはないでしょうか。

この果てしない「獲得レース」から降りて、少し立ち止まってみること。そして、今まで外側に向けていた意識を、内側へと静かに向け直してみること。それが、瞑想という古来より伝わる実践が私たちに提供してくれる、大切な機会です。

瞑想と聞くと、中には特別な訓練を積んだ人が行う、難解で厳しい修行のように感じる人もいるかもしれません。座禅を組んで微動だにせず、一切の思考を止めなければならない、といったイメージがあるでしょうか。確かに、瞑想には様々な形や流派が存在しますが、今日お話ししたいのは、もっとずっとシンプルで、誰にでもすぐに始められる「ミニマルな瞑想」の実践についてです。

 

「ただ座る」という最小限のアクション

まず提案したいのは、「ただ座る」という究極にミニマルな瞑想の実践です。特別な場所は必要ありません。自宅のリビングの椅子でも、公園のベンチでも、通勤電車のシートの上でも構いません。時間はたった1分からでも良いのです。朝起きてすぐ、夜寝る前、あるいは仕事の合間に、ただ椅子に腰を下ろしてみる。それだけです。

姿勢についても、無理に足を組む必要はありません。椅子に深く腰掛け、背筋を軽く伸ばす程度で十分です。大切なのは、体が楽で、呼吸が通りやすい姿勢を見つけることです。手の位置も自由です。膝の上でも、組んでも構いません。大切なのは、「こうしなければならない」という固定観念を手放し、今の自分にとって一番心地よい状態を選ぶことなのです。

「ただ座る」ことに、何か特別な目的を設定する必要もありません。心を無にしようと頑張ったり、素晴らしい体験を期待したりする必要はありません。ただ、そこに座っている自分自身、呼吸している自分自身に気づき、その瞬間に意識を留めてみる。これこそが、「ただ座るというミニマルな瞑想の実践」の入り口です。

 

「ただゆるめる」身体と心

次に、「ただゆるめる瞑想」の実践です。私たちは日々の生活の中で、気づかないうちに多くの緊張を体に溜め込んでいます。肩や首のこり、奥歯を食いしばっていたり、お腹が固くなっていたりしませんか?まずは、その身体の緊張に意識を向けてみましょう。

座った姿勢で、ゆっくりと呼吸をしながら、体の中を上から下へと意識を巡らせていきます。頭、顔、首、肩、腕、背中、お腹、腰、足……。気づいた場所の力みを、ほんの少しだけ「ゆるめてみようかな」と意識してみます。

ここで大切なのは、「頑張ってゆるめよう」としないことです。力を抜こうと力んでしまっては本末転倒です。ただ、そこに力みがあることに気づき、その力を少し手放してみる、という感覚です。まるで、ギュッと握りしめていた拳を、そっと開いてみるように。

身体がゆるむと、不思議と心もゆるんでいくのを感じるでしょう。心と体は密接に繋がっています。身体が緊張している時、心もまた張り詰めています。身体の力を抜くことは、心の「肩の荷を下ろすこと」に直接繋がるのです。「ゆるめる瞑想」は、凝り固まった心と体を同時に解放してくれるシンプルな方法です。

 

「ゆるめば起こる」内なる流れ

さて、身体と心が少しゆるんだ状態で、ただ座り続けていると、内側で様々なことが起こり始めます。頭の中には色々な思考が浮かんでは消え、過去の出来事を思い出したり、未来の心配をしたり。感情もまた、喜びや悲しみ、怒りや不安などが波のように押し寄せてくるかもしれません。

これが、「ただ起こる瞑想」の領域です。多くの人は、瞑想中に思考や感情が湧いてくると、「自分は瞑想ができていない」と感じてしまうようです。しかし、思考や感情が湧いてくるのは、人間としてごく自然なことです。それを無理に止めようとする必要はありません。

大切なのは、それらの思考や感情に「巻き込まれない」ことです。まるで、川の流れを岸辺から眺めるように、あるいは空に浮かぶ雲を眺めるように、ただ「ああ、こんなことを考えているな」「今、少し不安を感じているな」と、観察してみるのです。良い・悪いという評価を挟まず、ただそこに「あるがまま」を受け入れる。これが「ただ起こる」ことに身を委ねる姿勢です。

思考や感情をコントロールしようと力むのではなく、ただ「ゆるんで」、内側で起こる現象に「抗わない」でいること。そうすることで、それらはやがて自然に形を変え、あるいは消えていくことに気づくでしょう。

 

手放すことによる変容

この「ただ座る」「ただゆるめる」「ただ起こる」というシンプルな瞑想の実践は、私たちの中に「手放す」というプロセスを促します。最初に触れたように、私たちは多くのものを握りしめています。物理的な所有物はもちろんですが、それ以上に、こうあるべきだという「知識」や「固定観念」、過去の経験から生まれた「思考パターン」、そして特定の感情や状況に対する「執着」です。

東洋思想、特に仏教やヨーガ哲学では、この「執着」こそが苦悩の根源であると説きます。私たちは、変化し続けるこの世界の中で、不変のもの、永遠に失われないものを求め、それにしがみつこうとします。しかし、万物は常に移ろいゆくものです。この事実を受け入れられず、失うことを恐れる心が執着を生み、それが苦しみとなるのです。

瞑想は、この執着を一つずつ手放していく練習になります。座って呼吸に意識を向けることで、頭の中でぐるぐる回る思考から距離を置くことができます。身体の緊張をゆるめることで、心に溜め込んだ不要な感情エネルギーを解放することができます。そして、「ただ起こる」ことに身を委ねることで、コントロールできないものを受け入れる柔軟性を育むことができます。

私たちが今まで一生懸命集めてきた「知識」についても、同じことが言えます。「こうすればうまくいく」「こうあるべきだ」という知識は、時に私たちを安心させてくれますが、同時に、その知識の枠の中に自分自身を閉じ込めてしまうこともあります。ですから、時には「今まで得た知識を、ちょっと手放していただきたいのです」。頭でっかちになるのではなく、心や身体が感じる直観に耳を澄ませてみる。

色々と得たものをとにかく一度手放しますと、不思議なことに、新しいものが入ってくるスペースが生まれるのですね。それは、予想もしていなかったような人との出会いかもしれないし、「瞑想すると出会うことが変化する」と言われるように、状況が好転するきっかけかもしれません。あるいは、自分自身の内側から湧き上がる、新たな創造性や洞察かもしれません。肩の荷を下ろすことは、私たちを身軽にし、変化の波に柔軟に乗ることを可能にします。

 

さあ、気軽に「実践しよう」

瞑想は、難しい修行ではありません。それは、忙しい日常の中で、ほんの数分でも自分自身のために立ち止まり、内側の静寂に耳を澄ませる時間です。それは、誰にでもできる、自分自身への優しい贈り物なのです。

「ただ座る」「ただゆるめる」「ただ起こる」。このシンプルなステップから始めてみませんか?完璧を目指す必要はありません。雑念が浮かんできても、体がムズムズしても、それはごく自然なことです。ただそれに気づき、「ああ、こんな感じだな」と受け流す練習を繰り返すだけで良いのです。

「ゆるん人からうまくいく」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、心身がリラックスし、流れに逆らわない生き方をしている人は、物事がスムーズに進みやすいという考え方です。瞑想によって心身をゆるめることは、まさにこの「ゆるん人」になるための一歩と言えるでしょう。

さあ、「実践しよう」。まずは今日、ほんの数分でも良いですから、椅子に座って、ただ呼吸をしてみることから始めてみてください。きっと、その小さな一歩が、あなたの内側に静かな、しかし確かな変化をもたらしてくれるでしょう。

 

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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。