努力しても成長を感じないあなたへ。ヨガが教える「手数」と「質」の本当の関係

自己啓発

成長したい。
もっとできるようになりたい。
何者かになりたい。

私たちは常に、そんな渇望を抱えて生きています。
ビジネス書を開けば「圧倒的な行動量がすべて」「PDCAを高速で回せ」「1万時間の法則」といった言葉が並び、SNSを開けば「今日も積み上げました」という報告がタイムラインを埋め尽くします。
まるで、止まることは死であるかのように。

「手数を打つこと(=大量行動)」が正義とされる現代社会において、多くの人が疲弊しています。
たくさん動いているのに、前に進んでいる気がしない。
タスクは消化しているのに、心が満たされない。
今日は、そんな現代特有の閉塞感に対して、ヨガ哲学の視点から「手数」と「成長」の本当の関係について、少し深く、そして静かに紐解いてみたいと思います。

 

「手数信仰」という現代の病

まず、現代社会を覆う「手数信仰」について考えてみましょう。
資本主義社会は、基本的に「拡大」と「速度」を善とします。
より多くの商品を、より早く、より多くの人に。
このロジックが、私たちの個人の生き方にも浸食しています。

「打席にたくさん立てば、いつかヒットが出る」
確かに、確率論としては正しいでしょう。
しかし、この考え方には大きな落とし穴があります。
それは、「打席に立っている自分自身の状態(ステート)」が無視されているということです。

フォームが崩れたまま、身体が強張ったまま、心が散漫なまま、1000回バットを振ったとして、それは本当に「練習」になっているでしょうか?
むしろ、悪い癖を1000回反復して、身体に刻み込んでいるだけかもしれません。
疲労困憊の状態で打席に立ち続け、三振を積み重ねることで、「自分はダメだ」という自己否定感を強化しているだけかもしれません。

ただ闇雲に手数を打てば成長できるというのは、ある種の幻想です。
それは、思考停止の免罪符にもなり得ます。
「これだけやったんだから」と自分を慰めるための、エゴの隠れ蓑になってしまうのです。

 

ヨガにおける「アビヤーサ(修習)」の真意

ヨガの根本経典『ヨガ・スートラ』には、成長(心の死滅)のために必要な二つの要素が記されています。
それが、「アビヤーサ(修習)」と「ヴァイラーギャ(離欲)」です。

アビヤーサとは、確かに「繰り返し練習すること」を意味します。
一見すると、現代の「手数論」と同じように聞こえるかもしれません。
しかし、ヨガ・スートラはアビヤーサについて、さらにこう定義しています。

「長い間(Dirgha kala)、休みなく(Nairantarya)、敬意を持って(Satkara)、真剣に行われるものが、堅固な基礎となる」

ここで最も重要なのが、「敬意を持って(Satkara)」という言葉です。
ただ回数をこなすのではなく、その一つひとつの行為に対して、丁寧さと敬意を込めること。
呼吸の一つ、アーサナ(ポーズ)の一つ、あるいは日常の些細な所作の一つひとつに、意識の光を隅々まで行き渡らせること。

ヨガが求めているのは、機械的な反復(Doing)ではなく、意識的な没入(Being)です。
100回の雑な太陽礼拝よりも、1回の魂を込めた呼吸の方が、ヨガ的な観点からは遥かに価値があります。
手数の「多さ」ではなく、一打の「深さ」が、変容をもたらすのです。

 

ヴァイラーギャ(離欲):結果への執着を手放す

そしてもう一つ、アビヤーサと対になる「ヴァイラーギャ(離欲)」について。
これは、「結果への期待を手放すこと」です。

現代の「手数論」の苦しみは、常に「結果(リターン)」を求めている点にあります。
「これだけやったんだから、これだけの成果が出るはずだ」
「これだけブログを書いたんだから、これだけPVが増えるはずだ」
この「期待」という下心が、行為を不純なものにします。
期待通りにいかなかった時、私たちは落胆し、焦り、さらに闇雲な手数を打とうとして自滅します。

ヨガの聖典『バガヴァッド・ギーター』には、カルマ・ヨガ(行為のヨガ)の真髄として、こう記されています。
「あなたの職務は行為そのものにある。決してその結果にはない」

結果は、宇宙(神、あるいは自然の法則)の管轄です。
私たちがコントロールできるのは、今この瞬間の「行為の質」だけです。
「成長したい」「認められたい」というエゴ(欲望)から離れ、ただ目の前のことに全霊を注ぐ。
逆説的ですが、成長という未来への執着を手放した時こそ、私たちは最も効率よく、そして美しく成長できるのです。

 

「量」から「質」へ、そして「空」へ

では、具体的にどうすればいいのでしょうか。
行動をやめて、ただ座っていればいいのでしょうか?
そうではありません。
行動の「起点」を変えるのです。

「不安」や「欠乏感」から発せられる100の手数は、ノイズを生み出すだけです。
「今のままじゃダメだ」という焦りからブログを書き、SNSを更新し、資格の勉強をしても、そのエネルギーは枯渇していきます。

一度、立ち止まりましょう。
瞑想をして、脳波を鎮め、呼吸を整える。
自分の中の静寂(空・くう)と繋がる。
そして、その「満たされた静寂」から溢れ出るようにして生まれた1つの行動は、世界に大きな波紋を広げます。

これを「インスパイアされた行動(Inspired Action)」と呼びます。
無理やり捻り出した行動ではなく、内側から突き動かされるような行動です。
この状態の時、私たちは疲れを感じません。
フロー状態に入り、時間は消滅し、行為と行為者が一体となります。
この時、手数の多寡はもはや問題ではありません。
一挙手一投足が、そのまま瞑想となり、祈りとなり、芸術となります。

 

スピリチュアルな視点:魂の成長と時間の幻想

最後に、少しスピリチュアルな視点からのアドバイスを。
私たちが焦って手数を打とうとするのは、「時間がない」という幻想に囚われているからです。
「早く成長しなければ、人生が終わってしまう」
「同世代に置いていかれる」

しかし、魂の視点から見れば、時間という直線的な概念は存在しません。
あるのは永遠の「今」だけです。
そして、魂にとっての成長とは、能力(スキル)を獲得することではなく、「本来の自分(真我)を思い出すこと」です。

何かを付け足していく足し算の成長ではなく、覆いかぶさっている余計なものを剥がしていく引き算の成長。
そう考えると、焦って手数を打つ必要などどこにもないことに気づくでしょう。
あなたは、すでに完全なのですから。

 

結論:一呼吸に、一生を込める

手数を打った分だけ成長できるのか?
答えはイエスであり、ノーです。

もしその手数が、エゴと不安に駆られた暴走であるなら、それはあなたを疲弊させ、本来の自分から遠ざけるだけでしょう。
しかし、もしその手数が、内なる静寂からの丁寧な応答であり、結果への執着を手放した純粋な奉仕であるなら、その一打一打は、あなたを確実により高い次元へと運んでくれます。

今日からは、回数を数えるのをやめてみませんか。
その代わり、一つひとつの行動の「深さ」を感じてみてください。
キーボードを叩く指の感覚、相手の話を聞く時の眼差し、お茶を淹れる時のお湯の音。
その瞬間に、意識のすべてを注ぎ込む。

「一呼吸に、一生を込める」

そんなヨガ的な生き方こそが、結果として、想像もしなかったような遠く美しい場所へと、あなたを連れて行ってくれるはずです。

EngawaYogaでは、そんな「質の高い静寂」を取り戻すための時間を共有しています。
焦燥感という荷物を下ろしに、いつでもいらしてください。

ではまた。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。