身体のパフォーマンスを高めるわけではなさそう、筋力をつけることが

自己啓発

ヨガを推奨しております。
それは、ヨガが単なるフィットネスや筋力トレーニングではなく、身体と心の「使い方のOS」を書き換える作業だからです。
現代社会では、「強さ」や「大きさ」が美徳とされがちです。
身体作りにおいても、「筋肉をつけること=パフォーマンスアップ」という図式が疑われることなく信じられています。
もちろん、生きるために最低限の筋力は必要です。
筋肉が全くなければ、私たちは重力に抗って立つことさえできません。

しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいのです。
ジムで重いバーベルを持ち上げ、特定の筋肉を肥大化させることが、本当に私たちの身体を「使える」ものにしているのでしょうか?
もしかすると、私たちは「筋肉という鎧」を着込むことで、本来のしなやかなパフォーマンスを封じ込めてしまっているのかもしれません。

今日は、筋力信仰の少し外側にある、ヨガ本来の身体観についてお話ししてみたいと思います。

 

脳が指令を出さなければ、筋肉はただの肉の塊

「筋トレをして筋肉をつければ、動きが良くなる」
これは、車に例えるなら「エンジンを大きくすれば、運転が上手くなる」と言っているようなものです。
確かに馬力は上がるかもしれませんが、それを操るドライバーの技術が未熟であれば、車は暴走するか、あるいはそのパワーを持て余してしまいます。

身体において、ドライバーの役割を果たすのは「脳(神経系)」です。
どれだけ立派な筋肉をつけても、脳から「どう動くか」という的確な指令が届かなければ、その筋肉は宝の持ち腐れです。
むしろ、個別に鍛え上げられた筋肉は、しばしば全体の調和を乱すノイズになりかねません。
上腕二頭筋だけを意識して鍛えた結果、コップを持つという単純な動作さえぎこちなくなってしまう。
そんなパラドックスが、身体の世界では起こり得るのです。

もし鍛えたいのなら、部位ごとに切り分けて鍛える(アイソレーション)のではなく、「動きの中で鍛える」ことです。
全身を連動させ、脳と筋肉の神経回路を繋いでいく。
ヨガのアーサナ(ポーズ)は、まさにそのためにあります。
あれは筋トレではなく、脳から末端への指令系統をクリアにするための、繊細な神経トレーニングなのです。

 

「筋を使う癖」が招く、慢性的な緊張

現代人は、頑張り屋さんです。
仕事でも人間関係でも、常に「頑張る」ことを求められ、それが身体の使い方の癖(パターン)として染み付いています。
その癖とは、「過剰な緊張」です。

本来、筋肉は「必要な時に、必要な分だけ」収縮すればいいはずです。
しかし、筋トレ的な発想で「筋肉を使うこと」に意識が向きすぎると、私たちは無意識のうちに「常に筋肉を固める」という癖を身につけてしまいます。
ただ立っているだけ、ただ座っているだけ、あるいはスマホを見ているだけの時でさえ、肩に力が入り、奥歯を噛み締め、お尻を固めている。
これは、エネルギーの浪費です。
アクセルを踏みながらブレーキをかけているような状態で、これではパフォーマンスが上がるはずもありません。

緊張を作り出すのは簡単です。ギュッと力を入れればいいだけですから。
しかし、一度入った緊張を「抜く」のは、実はとても難しい技術です。
現代社会において、リラックスすることがこれほど難しいのは、私たちが「力の入れ方」ばかりを学び、「力の抜き方」を忘れてしまったからではないでしょうか。

 

ヨガのマットの上で、脱力の練習を

ヨガのクラスでさえ、この「頑張り癖」は顔を出します。
ポーズを安定させようと、マットを強く踏みしめ、太ももをガチガチに固め、呼吸を止めて耐えている。
インストラクターから「力を抜いて」と言われても、どう抜いていいのか分からない。
過度な緊張は、関節の可動域を狭め、呼吸を浅くし、プラーナ(気)の流れを阻害します。
結果として、アーサナは苦しいものとなり、心も身体も硬直してしまいます。

大切なのは、「筋肉で支える」のではなく、「骨で立つ」感覚、そして「呼吸で支える」感覚です。
必要最小限の力で、重力とバランスを取る。
その時、筋肉はリラックスし、それでいて必要な張力(トーン)を保っています。
この「リラックスしているが、ダラけていない」状態こそが、身体の機能が最大限に発揮されるゾーンなのです。

呼吸に意識を向けることは、緊張をほどくためのマスターキーです。
深く吐く息とともに、余分な力が地面へと流れていく。
すると、ガチガチだった筋肉の鎧の隙間から、身体本来が持っている知性や機能が顔を出します。
「ああ、こんなに楽に立てるんだ」「こんなにスムーズに手が挙がるんだ」
それは、筋力で獲得した強さではなく、脱力によって回復された自然な能力です。

 

コントロールを手放し、ただ「在る」

筋力をつけることは、身体をコントロールしようとするエゴの現れでもあります。
「もっと強く、もっと大きく」という欲望が、私たちを駆り立てます。
しかし、ヨガが目指すのは、そのコントロールを手放し、自然の摂理に身体を委ねることです。

筋肉の利用を、意志の力でコントロールするのではなく、身体の感覚に任せて適度に調整する。
ただ座っている時でも、PCに向かっている時でも、不要な緊張に気づき、それを手放していく。
その「引き算」の身体操作こそが、疲れを知らない身体、そして何より、穏やかな心を作ります。

パフォーマンスを高めたいなら、何かを足す前に、まずは余分な力を引いてみることです。
筋肉という鎧を脱ぎ捨て、柔らかな呼吸とともに在ること。
そのシンプルさの中に、人間本来の、底知れぬ可能性が眠っているのです。

筋肉をいじめるようなトレーニングはしません。
ただ、あなたが忘れてしまった「緊張の解き方」を、一緒に思い出していくだけです。
力を抜いた時に初めて発揮される、あなたの本当の強さに会いに来てください。

ではまた。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。