DAY 12 | 十二の思い出の品と向き合う:モノが語る、私という物語

自己啓発

「記憶の器、あるいは、過去という名の錨」

ミニマリストゲームの旅は、いよいよ、その最も深く、そして最も神聖な領域へと入っていきます。今日、私たちが向き合うのは、「思い出の品」です。初めての海外旅行で買った置物、子供が描いてくれた似顔絵、祖母から受け継いだアクセサリー、学生時代に夢中になったバンドのTシャツ。これらのモノたちは、もはや、その機能や物質的な価値で、その存在意義を測ることはできません。それらは、私たちの記憶の器であり、過去の「私」という物語を、現在へと運び続けてくれる、タイムカプセルのような存在です。

だからこそ、思い出の品を手放すという決断は、このゲームの中で、最も困難で、最も勇気を要するものとなります。それを手放すことは、まるで、その思い出そのものを、あるいは、過去の自分の一部を、消し去ってしまうかのような、耐え難い恐れを伴うからです。

しかし、本当にそうでしょうか。私たちの記憶や、アイデンティティは、それほどまでに、外部のモノに依存した、脆いものなのでしょうか。それとも、思い出の品は、時として、私たちを過去という港に縛り付け、未来という大海原へと漕ぎ出すのを妨げる、重い錨(いかり)となってはいないでしょうか。

今日、私たちは、十二の思い出の品との対話を通じて、記憶とモノとの、真の関係性を見つめ直します。それは、過去を否定する行為ではありません。むしろ、過去の物語に心からの感謝を捧げ、その支配から自由になり、現在の自分として、新しい物語を紡ぎ始めるための、最も美しく、そして力強い、解放の儀式なのです。

 

私たちは、物語を生きている

私たち人間は、単に事実の連続を生きているわけではありません。私たちは、それらの事実に意味を与え、一貫した「物語」として編集し直すことで、自分自身が何者であるかを理解し、世界と関わっています。そして、「思い出の品」は、この自己の物語を構築し、補強するための、極めて重要な小道具として機能します。

書斎に飾られた留学先の大学のマグカップは、「私は知的な探求をした経験を持つ」という物語を。クローゼットの奥に眠る、昔の恋人からの贈り物は、「私は深く愛されたことがある」という物語を。これらのモノは、私たちが、自分自身の物語を忘れてしまわないように、常にその存在を主張し続けています。

この意味で、思い出の品に囲まれて生きることは、自らのアイデンティティを安定させ、安心感を得るための、自然な営みと言えるでしょう。しかし、問題は、その物語が、いつまでも更新されないことにあります。

私たちは、絶えず変化し、成長し続ける存在です。しかし、過去の物語を象徴するモノに囲まれすぎていると、いつしか、その過去の役割(キャラクター)を、演じ続けることを、自らに強いてしまう危険性があるのです。かつての成功体験を語るトロフィーは、新たな挑戦への勇気を奪うかもしれません。悲しい記憶を宿した品は、私たちを、癒えることのない被害者の物語の中に、閉じ込め続けるかもしれません。

ミニマリストになるということは、この固定化された自己の物語を、一度、解体してみる、ということです。そして、過去の小道具に頼ることなく、現在の、ありのままの自分自身から出発して、新しい、より自由で、軽やかな物語を、創造し直す、という決意表明なのです。

 

記憶は、どこに保存されているのか

思い出の品を手放すことへの最大の恐れは、「忘れてしまうこと」への恐れです。しかし、私たちは、記憶の本当の在り処を、見誤っているのかもしれません。

禅の思想では、真の学びや経験は、知識として頭に記憶されるのではなく、「身に付く」ものだと考えます。それは、身体感覚や、無意識の振る舞いの中に、深く統合される、ということです。例えば、自転車の乗り方を、一度、身体で覚えてしまえば、何十年経っても、忘れることはありません。

これと同じように、本当に大切で、私たちの血肉となった経験や、愛された記憶は、外部のモノという証拠がなくても、決して消え去ることはないのではないでしょうか。祖母と過ごした温かい時間の記憶は、アクセサリーという形あるモノの中にあるのではなく、あなたの優しさや、料理の味付けといった、あなたの存在そのものの中に、すでに深く、刻み込まれているのです。

モノは、記憶の入り口(トリガー)にはなるかもしれません。しかし、記憶の本体は、あなた自身の内側に、すでに安全に、そして豊かに、保存されています。この、自分自身の内なるアーカイブへの、深い信頼を取り戻すこと。それが、モノへの依存から、私たちを解放してくれる鍵となります。

 

過去を、慈しみと共に手放すための儀式

思い出の品との別れは、機械的な作業であってはなりません。それは、敬意と、慈しみに満ちた、丁寧な儀式であるべきです。今日、あなたが手放す十二の品を選ぶにあたり、以下のステップを試してみてください。

1. 物語を聴く:手放す候補となった品を、一つ、手に取ります。そして、目を閉じ、そのモノが、あなたの人生の、どの場面に登場したのかを、映画のように思い出してみてください。その時の感情、匂い、光。そのモノが象-徴する物語を、ジャッジすることなく、ただ、静かに味わい尽くします。
2. 感謝を伝える:「今まで、この物語を、私に思い出させてくれて、ありがとう。あなたのおかげで、私は、今の私になることができました。」そのモノが果たしてくれた役割に対して、心からの感謝を、言葉にして伝えます。
3. 記憶を、内側へと移す:次に、そのモノの最も美しい部分、あるいは、最も印象的な部分を、写真に撮ります。これは、物理的な存在を、デジタルという、より軽やかな形へと変換し、記憶のトリガーだけを保存する行為です。あるいは、そのモノにまつわる物語を、ノートに書き記すのも良いでしょう。これにより、記憶は、モノから、あなた自身の創造物へと、その宿主を移します。
4. 解放を宣言する:「あなたの役割は、もう終わりました。これからは、この記憶を、私自身の内で、大切に育てていきます。だから、あなたは、もう自由です。」この宣言と共に、そのモノを、次の場所へと送り出してあげましょう。

この儀式を通して、あなたは、手放すことが「失うこと」ではなく、むしろ、過去の経験を、より成熟した形で、自分自身に統合していく、ポジティブなプロセスであることを、実感するでしょう。

思い出の品を手放すことは、過去の自分を否定することではありません。それは、たくさんの物語を経験してきた自分自身を、深く肯定し、その上で、「過去の物語の登場人物」として生きるのをやめ、「現在の物語の作者」として、新しい一歩を踏み出すための、最も力強い、旅立ちの儀式なのです。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。