私たちの身体は、単なる物質的な肉の塊ではありません。それは、この地上で魂が経験を積み、学びを深めるための、かけがえのない「神殿」であり「乗り物」です。しかし、私たちはあまりにも頻繁に、この最も身近で神聖なパートナーの存在を忘れ、その声を無視し、時には虐待的とも言える扱いをしてしまいます。病気や慢性的な不調は、単に遺伝やウイルス、不運の結果なのではなく、こうした身体との関わり方、すなわち「健康のカルマ」が目に見える形で現れたものだと、ヨガやアーユルヴェーダといった東洋の叡智は教えています。
健康のカルマとは、これまでの人生における、身体に対するあらゆる行為(karma)と思考の蓄積です。あなたが口にしてきた食べ物、睡眠の時間と質、運動の習慣、そして何よりも、あなた自身が自分の身体に対して抱いてきた感情や思考。それらすべてが、今日のあなたの健康状態という「結果」を織りなしているのです。
例えば、絶えずストレスに晒され、怒りや悲しみといった感情を飲み込み、表現せずに溜め込んでいるとしましょう。ヨガの観点では、これらの未消化の感情は、生命エネルギーである「プラーナ」の流れを滞らせ、身体の特定の部位にエネルギー的なしこり(ブロック)を作り出します。そのブロックが長期間放置されることで、やがては肩こりや頭痛、消化不良、さらにはより深刻な疾患といった物理的な症状として表面化してくるのです。身体は、心が発しているSOSサインを、健気にも物理的な痛みや不調としてあなたに伝えようとしてくれているのです。
したがって、病気や不調は、罰や敵ではなく、身体からの切実な「メッセージ」です。それは、「生き方を見直してください」「心の声に耳を傾けてください」「もっと自分を大切にしてください」という、愛に満ちた警告なのです。そのメッセージを無視して、薬で症状を抑え込むだけでは、根本的な解決にはなりません。それは、火災報知器のベルを止めただけで、火元を放置しているのと同じことです。
健康のカルマを転換し、身体との調和を取り戻す道は、過去の不摂生を悔やむことではなく、今この瞬間から、身体との新たな関係性を築き直すことから始まります。
その第一歩は、ヨガの禁戒(ヤマ)の筆頭に挙げられる「アヒンサー(非暴力)」を、自分自身の身体に対して実践することです。暴飲暴食や睡眠不足で身体を酷使していないか。過度なダイエットやトレーニングで、身体をいじめていないか。「太っている」「醜い」といった批判的な言葉で、自分の身体を精神的に攻撃していないか。まずは、自分自身に対するあらゆる暴力を止め、慈しみの心で身体に接することを誓うのです。
第二に、勧戒(ニヤマ)の一つである「シャウチャ(清浄)」を実践します。これは、外的な清潔さだけでなく、内的な浄化をも意味します。身体が本当に喜ぶ、生命力に満ちた新鮮な食事を選ぶこと。適度な運動やヨガのアーサナで身体を動かし、滞りを流すこと。十分な休息を取り、身体が自己修復するための時間を与えること。これらはすべて、神殿である身体を清め、整えるための神聖な儀式です。
そして最も重要なのが、身体の「声」を聴く習慣を育むことです。静かに座り、身体の各部分に意識を向けてみましょう。どこかに緊張や痛み、違和感はありますか。もしその不調が言葉を話せるとしたら、何を伝えようとしているでしょうか。休息を求めているのか、感情の解放を求めているのか、あるいは、あなたの人生の方向性に対する警告を発しているのか。身体は、あなたの潜在意識や魂と繋がる、最も信頼できる直感の受信機なのです。
健康のカルマとは、固定された運命ではありません。それは、あなたが身体との対話を怠ってきた結果の、単なるフィードバックです。今この瞬間から、あなたの身体を最高の友として、賢明な師として尊重し、感謝と共にその声に耳を傾けるならば、あなたは新たな、輝くような健康のカルマを創造し始めることができるのです。あなたの身体は、あなたが愛と敬意を向けるのを、今か今かと待ち望んでいます。


