第14講:「使い捨て」から「育てる」へ – モノとの新しい関係づくり

ヨガ外論・歴史

私たちの生きる現代社会は、驚くべきスピードでモノを生産し、消費し、そして廃棄していく「使い捨て」の文化に深く根ざしています。新しいモデルのスマートフォンが一年ごとに発売され、ファッションのトレンドはシーズンごとに移り変わり、コンビニには常に新商品が並ぶ。この絶え間ない新陳代謝は、経済を活性化させる一方で、私たちの心と、そしてこの地球環境に、静かな、しかし深刻な負荷をかけ続けています。

モノが簡単に手に入り、簡単に捨てられる社会。それは、モノに対する私たちの関係性を、根本的に変えてしまいました。かつて、人々は一つの道具を大切に手入れし、親から子へと受け継ぎ、服が破れれば繕い、何度も使いました。モノは、単なる便利な消費財ではなく、持ち主の人生の記憶や物語が刻み込まれた、かけがえのないパートナーのような存在でした。そこには、モノに対する敬意と、愛着がありました。

しかし、「使い捨て」文化は、この深い関係性を断ち切り、モノを単なる一時的な刺激や、機能を満たすためだけの無機質な存在へと貶めてしまったのです。この関係性の希薄化は、モノに対してだけでなく、人間関係や、ひいては自分自身との関係性にも影響を及ぼしているのではないでしょうか。手軽に出会い、気に入らなければすぐに「ブロック」できるSNS上の関係。うまくいかなければすぐにリセットすればいい、という風潮。私たちは、あらゆるものを「取り替え可能」なパーツとして捉えることに、慣れすぎてしまったのかもしれません。

この「使い捨て」という思想に対して、ヨーガの哲学は、全く異なる世界観を提示します。その核心にあるのが、アパリグラハの回でも触れた「ヤマ(禁戒)」の筆頭に挙げられる、最も重要な教え、「アヒンサー(Ahimsa)」、すなわち「非暴力」の原則です。

「非暴力」と聞くと、多くの人は、他者を身体的に傷つけない、といった対人関係における倫理を思い浮かべるでしょう。もちろんそれは重要な側面ですが、ヨガにおけるアヒンサーの概念は、より広大で、深遠です。それは、他者だけでなく、自分自身に対して、そして生きとし生ける全ての存在、さらにはモノや環境といった、生命を持たない存在に対しても、害意や破壊的な行為を向けない、という包括的な思想なのです。

このアヒンサーのレンズを通して、私たちの「使い捨て」文化を眺めてみましょう。安いという理由だけで大量に生産された服は、その背景に、劣悪な労働環境で働く人々や、環境を汚染する生産プロセスといった、目に見えない「暴力」を内包しているかもしれません。一度しか使われずに捨てられるプラスチック製品は、巡り巡って海洋生物の命を脅かし、地球という大きな生命体に対する「暴力」となります。モノを大切にせず、ぞんざいに扱う行為は、それを作り出した人々の労働や、それが生まれた地球の資源に対する、敬意の欠如、すなわち一種の精神的な「暴力」と捉えることもできるでしょう。

では、アヒンサーの精神に基づいた、モノとの新しい関係とは、どのようなものでしょうか。それは、「使い捨て」から「育てる」という関係性への、意識的なシフトです。

モノを「育てる」とは、どういうことか。それは、モノを手に入れた瞬間から、そのモノの「一生」に責任を持つ、という覚悟を持つことです。それは、人間の子育てや、植物を育てる行為に似ています。

1. 迎え入れる(選択)

まず、自分の生活に迎え入れるモノを、厳しく、そして愛情をもって選びます。第13講で学んだように、衝動や記号価値で選ぶのではなく、そのモノがどこで、誰によって、どのよう作られたのか、その背景にある物語にまで思いを馳せます。作り手の哲学に共感できるか。環境への負荷は少ないか。そして何よりも、これから長い時間を共に過ごしたいと、心から思えるか。この選択のプロセスは、いわば「里親」になる覚悟を決めるような、神聖な行為です。

2. 共に過ごす(使用と手入れ)

迎え入れたモノは、丁寧に、愛情を込めて使います。革製品には定期的にオイルを塗り、木の家具は乾拭きし、セーターに毛玉ができれば優しく取り除く。こうした「手入れ」という行為は、単なるメンテナンスではありません。それは、モノとの対話であり、感謝の表現です。手入れをすることで、モノは単なる道具から、自分の身体の一部のような、愛着のある存在へと変化していきます。傷やシミさえも、共に過ごした時間の記憶が刻まれた、かけがえのない「味」となるのです。日本の伝統文化である「金継ぎ」は、割れた陶器を漆と金で修復し、傷をむしろ新たな景色として愛でる、この「育てる」精神の美しい象M徴と言えるでしょう。

3. 手放す(別れと次への継承)

どんなに大切にしていても、いつかはモノとの別れの時がやってきます。「育てる」関係における別れは、「捨てる」という一方的な廃棄ではありません。まず、最後まで使い切る努力をします。そして、もし自分にとっては不要になったとしても、他の誰かにとっては価値があるかもしれない、と考えます。友人に譲る、リサイクルショップに売る、寄付をする。それは、そのモノの物語を、次の誰かへと継承していく行為です。そして、どうしても手放さなければならない場合は、感謝の気持ちを込めて、適切な方法で処分します。

この「使い捨て」から「育てる」へのシフトは、私たちの消費行動を根本から変えます。私たちは、安価なものを数多く所有する「量」の豊かさから、本当に気に入ったものを少しだけ持ち、長く大切に使い続ける「質」の豊かさへと、価値観を移行させていくでしょう。

そして、この変化は、モノとの関係だけに留まりません。一つのモノを長く大切にするという経験は、人間関係や、自分自身の心と身体を大切にする態度をも育んでくれます。一度始めた習い事をすぐに諦めず、じっくりと育てる。友人との関係にひびが入っても、簡単に関係を切るのではなく、対話し、修復する努力をする。うまくいかない自分をすぐに「ダメだ」と見捨てるのではなく、辛抱強く、その成長を見守る。

モノとの関係は、世界との関わり方の縮図です。アヒンサーの精神に基づき、モノを「育てる」という小さな実践を始めること。それは、私たちの日常に深い充足感をもたらすと同時に、この「使い捨て」の文化に覆われた社会に対する、最も静かで、しかし最も力強い、ささやかな革命となるのです。

 

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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、ENQAN(ヨガ)、JIQAN(内観)、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。