「渇き」をデザインする社会 – 私たちが常に「次」を求める構造【ヨガとミニマル】

自己啓発

私たちの生きるこの社会は、驚くほど豊かです。指先一つで世界中の商品が手に入り、昨日までなかったはずの「必需品」が、明日には私たちの日常を埋め尽くしている。それにもかかわらず、多くの人々が漠然とした欠乏感や、満たされない想いを抱えているのはなぜでしょうか。この根源的な問いに答えるためには、私たちの社会を駆動させている基本原理、すなわち資本主義が内包する「欲望の構造」を深く見つめる必要があります。

 

成長を宿命づけられたシステム

資本主義とは、単なる経済システムではありません。それは、絶え間ない「成長」を自己目的化した、一種の生命体のようなものです。そして、成長を続けるためには、常に新たな需要、すなわち人々の新たな「欲望」を創出し続けなければなりません。もし人々が今あるものに満足してしまえば、経済成長は止まり、システムそのものが崩壊の危機に瀕するからです。

ここに、現代社会の根本的なパラドックスがあります。私たちの幸福や満足は、システムの維持にとって、ある意味で「不都合な真実」なのです。したがって、広告、マーケティング、計画的陳腐化(意図的に製品の寿命を短く設計すること)といった洗練された装置群は、私たちにこう囁きかけ続けます。「あなたはまだ足りない」「もっと良いものがある」「これを手に入れれば、あなたはもっと幸せになれる」と。

この構造は、私たちを終わりのない欲望の無限ループへと巧みに誘い込みます。ある商品を手に入れた瞬間の喜びは束の間で、すぐに次の新商品、次のバージョンアップが提示され、私たちの心には再び新たな「渇き」が生まれるのです。

 

仏教が説く「渇愛」と資本主義の共鳴

この満たされることのない渇き。実は、二千年以上も前から仏教が人間の苦しみの根源として見抜いていたものと、驚くほど似ています。仏教ではこれを「渇愛(かつあい)」、サンスクリット語で「タンハー(Taṇhā)」と呼びます。喉が渇いた者が塩水を飲むように、欲望を満たそうとすればするほど、渇きはさらに激しくなる。この苦しみの連鎖(輪廻)から解脱することこそが、仏教の目指す究極の目標でした。

資本主義は、いわばこの人間の根源的な「タンハー」を巧みに利用し、組織的に増幅させることで成立しているシステムと言えるかもしれません。それは私たちの内なる渇きに寄り添い、一時的な潤い(商品)を提供し続ける一方で、その渇きが決して癒えることのないよう、絶えず塩水を供給し続けるのです。

ヨガ哲学の観点から見れば、この状態は心が常に「ラージャス(Rajas)」という激しい活動性の質に支配されている状態です。ラージャスは欲望、情熱、動揺を司り、私たちを駆り立て、行動へと向かわせる力強いエネルギーです。適度なラージャスは生きる上で必要ですが、消費社会は私たちの心を過剰にラージャスな状態に保ち、内なる静寂や満ち足りた感覚(サットヴァ)から遠ざけてしまいます。

 

「欠乏感」をエンジンとするゲーム

私たちは、「これがあれば幸せになれる」という未来の幻想を担保に、現在の労働や時間というリソースを投下します。しかし、その幻想の対象であるモノを手に入れた瞬間、モノはただの「モノ」になり下がり、かつてそれを輝かせていたはずの幸福のオーラは霧散してしまう。そしてシステムは、すかさず次の幻想、新たな「欠乏感」を私たちの目の前に差し出すのです。

この終わりのないゲームの構造に無自覚である限り、私たちはシステムの手のひらの上で踊り続けるほかありません。どれだけ多くのモノを手に入れても、ゲームのルールそのものが「プレイヤーを永続的に満たさせない」ように設計されているからです。

このループから抜け出す第一歩は、外部から与えられる「幸せの形」や「理想のライフスタイル」といった物語を、一度立ち止まって疑ってみることにあります。そして、自らの内側で本当に響く声、心の奥底にある静かな充足感に耳を澄ませてみることです。それは、何かを「加える」ことによってではなく、むしろシステムが植え付けた過剰な欲望を「手放す」ことによって見出される、新しい豊かさの発見へと繋がっていくでしょう。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。