生理のときはヨガをやってもいいでしょうか?「やらない」という選択の実践

よくある質問

「生理のときに、ヨガをやってもいいでしょうか?」
「生理中に逆転のポーズ(頭立ちなど)は避けるべきと聞きましたが、本当でしょうか?」

スタジオでも、オンラインの質問でも、とても頻繁にいただく質問です。
真面目な方ほど、「練習を休んでしまうとサボっている気がする」「せっかくついた習慣を途切れさせたくない」と不安になるのかもしれません。
あるいは、「生理痛を和らげるヨガ」といった情報を目にし、むしろ積極的に動くべきなのではないかと迷われている方もいるでしょう。

結論から申し上げますと、
「生理の最初の三日間は、ヨガのアーサナ(ポーズの練習)は一切しなくていい」
というものです。

「え、まったくしなくていいんですか?」と驚かれるかもしれません。
今日は、このデリケートな、しかし女性の身体にとって極めて重要なテーマについて、ヨガ本来の生理学的な視点と、現代社会が抱える「休めなさ」の問題を絡めて、静かにお話ししてみたいと思います。

とはいえ、これは男性ヨガインストラクターが女性の方々に聞いたことをまとめた話しですので、ご了承ください。

 

ヨガの生理学:アパーナ(下向きの気)を妨げないこと

ヨガの生理学では、体内を巡るエネルギー(プラーナ)を5つの種類に分類します。
その中に「アパーナ気」と呼ばれるものがあります。
これは、おへそから下の下腹部を司り、排泄や出産、そして経血の排出といった「下向きに流れるエネルギー」です。

月経期間中、女性の身体はこの「アパーナ気」をフル稼働させて、不要になった子宮内膜を体外へと排出しようとしています。
これは身体にとって、非常にエネルギーを使う「浄化(デトックス)」のプロセスです。
この自然な下向きの流れを、最大限に尊重し、助けてあげることがヨガ的な過ごし方です。

ここで「逆転のポーズ(頭立ちや肩立ち)」が禁忌とされる理由がわかります。
身体を逆さまにすることは、物理的にもエネルギー的にも、この下向きの流れ(アパーナ)を逆流させ、妨げてしまうからです。
また、激しいヴィンヤサ(動きのあるヨガ)や、お腹を強くねじるポーズ、腹筋を激しく使うポーズも、この繊細な排出のプロセスを邪魔してしまいます。

川が海へと流れているのを、無理に堰き止めたり、逆流させたりしてはいけません。
ただ、スムーズに流れ去っていくのを見守ること。
それが、この時期の身体に対するマナー(礼儀)です。

 

「なにもしない」という、高度なヨガ

「でも、身体を動かさないと気持ち悪いんです」
「生理痛がひどいので、解消したいんです」
そうおっしゃる方もいます。
確かに、軽いストレッチや、骨盤周りを緩めるような優しい動きが、鬱血を解消し、痛みを和らげることはあります。
ご自身が「心地よい」と感じる範囲であれば、リストラティブヨガ(休息のヨガ)のような、完全にリラックスした状態でのプラクティスは良いでしょう。

しかし、私がここでお伝えしたいのは、「休むことへの許可」です。
現代社会は、男性的な「24時間戦えますか」という価値観で設計されています。
常に生産的であること、常に一定のパフォーマンスを出し続けることが求められ、身体のリズムによる波は「管理不足」や「弱さ」と見なされがちです。

生理中であっても痛み止めを飲んで仕事をし、ジムに行き、いつも通りに振る舞うこと。
それが「自立した女性」であるかのように錯覚させられていないでしょうか。
しかし、ヨガの視点から見れば、身体の声(悲鳴)を薬で黙らせて酷使することは、自分自身に対する暴力(ヒムサ)になりかねません。

「あえて、なにもしない」
これは、怠惰ではありません。
自分の身体の内側で起きている神聖な浄化のプロセスを信頼し、そのためのエネルギーを温存するという、非常に能動的で高度な選択です。
マットの上に立って汗をかくことだけがヨガではありません。
温かいお茶を飲み、お腹にカイロを貼って、毛布にくるまり、ただ静かに過ごすこと。
それもまた、自分の身体と深く繋がる、立派なヨガの実践なのです。

 

内なる冬の季節を味わう

月経の周期は、四季に例えられます。
排卵期が夏の満開の時期だとすれば、月経期は静かな冬の時期です。
冬には、種は土の中で眠り、次の春への準備をしています。
外側からは何もしていないように見えても、内側では生命が静かに育まれているのです。

この「内なる冬」の時期に、無理に夏の活動を持ち込もうとしないでください。
感覚が内側に向きやすくなっているこの時期は、瞑想や内観には最適なタイミングでもあります。
身体を激しく動かす代わりに、心の動きを静かに見つめてみる。
いつもより少しセンチメンタルになったり、イライラしたりする自分を、「ああ、今はそういう季節なんだな」と優しく受け入れてあげる。

そうやって自分自身の自然なリズムに寄り添えるようになると、生理は「面倒なもの」「邪魔なもの」から、毎月訪れる「リセットのための休息期間」へと変わっていきます。
「生理だからヨガができない」のではなく、「生理というヨガ(内観の時間)を行う」のです。

 

終わりに:休む勇気を持つこと

もしあなたが、生理の重い日に「ヨガをしなきゃ」とマットを広げようとしていたら、一度立ち止まってみてください。
その「しなきゃ」は、誰の声でしょうか?
真面目なあなたのエゴの声でしょうか、それとも社会からの刷り込みでしょうか。

勇気を出して、マットを畳んでみましょう。
そして、その上にゴロンと横になってみてください。
「今日は、私の身体のために、何もしないをしてあげる」
そう決めることは、どんな難易度の高いポーズをとるよりも、今のあなたにとって必要なヨガかもしれません。

休むことを推奨しています。
調子が悪い時、気が乗らない時、そして生理の時。
どうぞ堂々と休んでください。
休むことを知っている人だけが、本当に健やかに動き続けることができるのですから。

ではまた。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。