ヨガの練習をしていると、どうしてもぶつかる壁があります。
それは「身体の硬さ」でも「呼吸の浅さ」でもなく、もっと厄介なもの。
他人の成功や幸福を見たときに、チクリと胸に刺さる「嫉妬」という名の小さな棘です。
「あの人はあんなにポーズが綺麗なのに」
「同僚が先に昇進してしまった」
「友人が結婚して幸せそうだ」
私たちは口では「おめでとう」と言いながら、心のどこかで「なんで私じゃないんだろう」という不足感を感じてしまう生き物です。
この微かな嫉妬心こそが、私たちの心(チッタ)を濁らせ、ヨガの深まりを阻む最大のノイズとなります。
そこで今日は、仏教由来の概念でありながら、実はものすごくヨガ的な解決策をご紹介しましょう。
それが「随喜功徳(ずいきくどく)」という魔法のメソッドです。
随喜功徳とは何か?
「随喜(ずいき)」とは、他人の善行や幸福を見て、それに「随(したが)って」「喜ぶ」こと。
つまり、他人の幸せを自分のことのように心から喜ぶことです。
そして驚くべきことに、仏教では「他人の善行を喜ぶだけで、その人と同じだけの功徳(メリット)が得られる」とされています。
これ、すごくないですか?
自分は何の努力もしていなくても、ただ心から「よかったね!」と喜ぶだけで、相手と同じだけのポジティブなエネルギーを受け取ることができるのです。
まさに、コスパ最強の開運法であり、心の浄化法です。
なぜ、随喜がヨガ向きなのか?
ヨガの聖典『ヨガ・スートラ』には、「ムディター(喜)」という教えがあります。
これは「幸福な人を見て喜ぶこと」を意味し、これを行うことで心は静まり澄んでいく(チッタ・プラサーダナム)と説かれています。
随喜功徳は、まさにこのムディターの実践そのものです。
1. エゴの壁を溶かす
嫉妬は「私」と「他人」を分離するところから生まれます。
「私が」得たかったものを「他人が」奪った、という分離の錯覚です。
しかし、随喜の実践は「あなたの喜びは私の喜び」というワンネス(梵我一如)の感覚へと私たちを導きます。
他人の幸せを喜ぶとき、自他の境界線は薄れ、エゴの壁が溶けていくのです。
2. 不足のマインドから充足のマインドへ
嫉妬しているとき、私たちは「自分には何かが足りない」という欠乏の周波数(ヴァイブレーション)を発しています。
逆に、随喜しているときは「世界にはこんなに素晴らしいことがある」という豊かさの周波数に同調しています。
ヨガとは、エネルギーを整える科学です。
他人の幸せにチャンネルを合わせることで、自分自身の内側も瞬時に「満たされた状態」へとチューニングされるのです。
3. 波動共鳴の法則
「類は友を呼ぶ」と言いますが、波動の世界も同じです。
他人の成功を祝福する人は、成功の波動と共鳴します。
他人の幸せを妬む人は、欠乏の波動と共鳴します。
随喜功徳とは、単なる精神論ではなく、自分の意識を「幸福」という周波数帯に固定するための、極めて実践的なテクニックなのです。
どうやって実践するのか?
実践はとてもシンプルですが、最初は少し筋トレが必要です。
ステップ1:小さな幸せから始める
いきなりライバルの大成功を喜ぶのは難しいかもしれません。
まずは、電車で席を譲り合っている人を見たり、子供が笑っているのを見たりしたときに、心の中で「いいね!」「素晴らしい!」と呟いてみましょう。
ステップ2:嫉妬に気づいたら、上書き保存
もし誰かのSNSを見て「ケッ」と思ってしまったら。
その感情を否定せず、「おっと、エゴが反応したな」と気づきます。
そして、あえて言葉にして上書きします。
「いやいや、素晴らしいことだ。この幸せがさらに広がりますように。随喜、随喜」と。
形から入るだけでも、脳は徐々にその方向へ学習していきます。
ステップ3:その功徳を自分にインストールする
「あの人がうまくいったということは、この世界に『うまくいく』という可能性が増えたということだ。次は私の番かもしれない」
そう捉え直すことで、他人の成功は嫉妬の対象から、希望の証拠(エビデンス)へと変わります。
結論:他人の幸せは、私のエネルギー源
随喜功徳を知ると、世界の見え方が反転します。
他人の幸せは、私を脅かすものではなく、私に功徳(エネルギー)を分けてくれる「ラッキーアイテム」になるのです。
街中が幸福な人で溢れていれば、それだけ自分も随喜し放題。
つまり、世界中が私の味方に見えてきます。
ヨガマットの上でポーズを磨くのも大切ですが、
日常生活の中でこの「随喜」の心を磨くことは、それ以上にパワフルなヨガの実践です。
今日、誰かの笑顔を見かけたら、心の中でそっと呟いてみてください。
「あなたの幸せに随喜します」と。
その瞬間、あなたの心もまた、春の陽だまりのように温かく満たされていることに気づくはずです。


