第15講:まとめと考察③ – 消費行動を変える、内なるコンパス

ヨガを学ぶ

私たちは、この第3部の航海の旅路で、ヨガの古代の智慧が、いかにして私たちの現代的な生活、特に「消費」という日常的な行為に、深く、そして具体的に応用できるのかを探求してきました。一度、ここで船の帆をたたみ、これまでの発見を整理し、その全体像を鳥瞰してみましょう。

まず第11講で、私たちは消費社会が植え付ける「あなたはまだ足りない」という呪文を解くための鍵として、「サントーシャ(知足)」の智慧を学びました。豊かさは外側に追い求めるものではなく、すでに内側にある呼吸や身体感覚、日常の些細な出来事の中に、能動的に見出していくものである。この視点の転換は、私たちを終わりのない欠乏感から、穏やかな充足感へと導いてくれるものでした。

次に第12講では、サントーシャと対をなす「アパリグラハ(不貪)」の智慧を探求しました。それは、モノや地位、思考への「執着」を手放す勇気です。溜め込むことで安心を得ようとする生き方から、手放すことで自由と軽やかさを得る生き方へのシフトは、私たちをモノの奴隷から、人生の主体へと回復させてくれる道筋でした。

そして、この二つの内的な土台の上に、私たちはより具体的な実践へと駒を進めました。第13講では、「ヨガ的買い物」の方法論として、衝動と理性の間に「間」を作り、「欲望」と「必要」を見分ける訓練を学びました。呼吸と身体感覚を羅針盤とすることで、無自覚な消費者から、意識的な選択者へと変わる可能性を見出しました。

最後に第14講では、消費社会の「使い捨て」文化に対するオルタナティブとして、アヒンサー(非暴力)の精神に基づいた、「モノを育てる」という新しい関係性を提案しました。モノを単なる消費財ではなく、人生を共にするパートナーとして捉え、手入れをし、愛着を育むという関わり方は、私たちの生活に質の高い豊かさをもたらすだけでなく、より大きな世界との調和へとつながる道でもありました。

これら一連の学びを貫く、一本の太い糸とは何でしょうか。

それは、「判断の基準を、外部から内部へと移行させる」ということです。

消費社会における私たちの行動は、そのほとんどが「外部」の基準によって決定されています。流行、他者の評価、広告が提示するイメージ、社会的な成功のモデル。私たちは、この巨大な外部の座標軸の中で、自分の価値を測り、自分の行動を選択するように、幼い頃から訓練されてきました。

しかし、ヨガの智慧が私たちに一貫して示してきたのは、この外部の座標軸とは全く別に、私たち一人ひとりの中に、本来備わっている「内なるコンパス」の存在です。

このコンパスの針が指し示すものは、極めてシンプルです。

それは、「快か、不快か」「心地よいか、心地よくないか」「開かれるか、閉じるか」「軽やかになるか、重くなるか」。これらはすべて、私たちの「身体感覚」という、ごまかしのきかない言語で語られます。

サントーシャの実践は、このコンパスがすでに「充足」を指していることに気づかせてくれます。アパリグラハの実践は、コンパスの動きを鈍らせる余計な荷物(執着)を取り除き、その感度を高めてくれます。そして、ヨガ的買い物やモノを育てるという実践は、日々の生活の中で、このコンパスの示す方向に従って、実際に航路を選択していくための、具体的な操船術なのです。

消費行動を変えることは、単なる節約術や、環境に配慮したライフスタイルの選択というレベルに留まるものではありません。それは、これまで他者に明け渡してしまっていた「自分自身の人生の決定権」を、自分の手に取り戻すという、極めて根源的で、哲学的な、そして政治的な営みですらあるのです。

「私は、社会が『良い』と言うものではなく、私の身体と魂が、本当に『良い』と感じるものを選択する」。

この静かな宣言こそが、消費によって自分を定義する生き方から、自分の内なる価値観に基づいて消費を選択する生き方への、決定的な分水嶺となります。

もちろん、この「内なるコンパス」を完全に信頼し、常にその声に従って生きることは、容易ではありません。私たちの内側には、長年かけて刷り込まれた外部の声が、今なお大きく響いています。「本当にそれでいいのか?」「周りから取り残されるぞ」と、不安を煽る声が聞こえてくることもあるでしょう。

だからこそ、ヨガのマットの上での地道な練習が必要なのです。マットの上で、繰り返し繰り返し、外部のノイズを遮断し、内なる身体の声に耳を澄ます訓練を積むこと。その安全な実験室での稽古が、私たちのコンパスへの信頼を、少しずつ、しかし確実に育ててくれます。

私たちは、この第3部(11〜15講座)で、消費社会という荒波の海を航海するための、自分だけの羅針盤を手に入れました。

しかし、私たちの旅は、まだ終わりではありません。このコンパスは、単に個人的な心の平穏や、快適な生活のためだけにあるのではありません。この内なる声に従って生きるという選択は、必然的に、他者との関わり方、そして社会との関わり方そのものを問い直すことへと、私たちを導いていくからです。

次の最終章、第4部(16〜20講)では、この「わたし」から始まる静かな革命が、どのようにして他者への共感や、より大きな世界とのつながりへと広がっていくのか、その可能性を探求していきます。

個人的な変容が、社会的な変容へとつながる、その架け橋を見つけ出す旅へ。

あなたの内なるコンパスが指し示す、新しい水平線の彼方へと、最後の航海に出発しましょう。

 

ヨガの基本情報まとめの目次は以下よりご覧いただけます。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。