筋力をつけることが身体のパフォーマンスを高めるわけではなさそう

BLOG-雑文集

ヨガを推奨しております。
ですが、ヨガスタジオというと、どうしても「フィットネス」や「筋トレ」の延長線上にあるものとして捉えられがちです。
「体幹を鍛えたい」「腹筋を割りたい」「しなやかな筋肉をつけたい」
そのような動機でヨガの門を叩くことは、もちろん素晴らしい入り口です。
しかし、ヨガの深淵に触れ、身体という小宇宙を探求していくにつれ、私たちはある一つのパラドックス(逆説)に直面することになります。

それは、「筋力をつけることが、必ずしも身体のパフォーマンスを高めるわけではない」という事実です。
今日は、現代社会が信奉する「強さ」の神話を少し解体し、ヨガ本来が目指す「しなやかで機能的な身体」について、静かに考えてみたいと思います。

 

「固める」ことと「使える」ことの違い

現代のトレーニング理論の多くは、「筋肉を大きくし、出力を上げる」ことに主眼を置いています。
重いバーベルを持ち上げる、マシンで特定の部位をパンプアップさせる。
確かに、見た目は逞しくなり、数値上のパワーは向上するでしょう。

しかし、「筋肉がついている」ことと、「その身体を自在に扱える」ことは、まったく別の次元の話です。
例えば、ボディビルダーのような隆々とした筋肉を持つ人が、必ずしも野山を軽やかに駆け回ったり、長時間疲れずに歩き続けたりできるわけではありません。
むしろ、肥大化した筋肉が関節の可動域を制限し、身体の連動性を阻害してしまい、結果として「重たく、使いにくい身体」になってしまうケースさえあります。

これを「鎧(よろい)」に例えてみましょう。
分厚い筋肉の鎧を着込めば、外部からの衝撃には強くなるかもしれません。
しかし、その重さゆえに動きは鈍くなり、繊細な感覚は遮断されてしまいます。
ヨガが目指すのは、鎧で身を固めることではなく、鎧を脱ぎ捨て、風のように自由に動ける身体です。

 

部分最適と全体最適

現代社会の問題点の一つに、「細分化」があります。
医学も科学も、そしてトレーニングも、全体をバラバラのパーツに分けて考えようとします。
「今日は腹筋の日」「明日は大胸筋の日」といった具合です。
しかし、私たちの身体は、パーツの寄せ集めではありません。
足の指先から頭のてっぺんまで、筋膜というネットでシームレスに繋がり、すべてが連動して一つの有機体として機能しています。

ヨガのアーサナ(ポーズ)は、決して「特定の筋肉を鍛える」ためのものではありません。
全身のつながりを感じ、バラバラになっていたパーツを統合(ユニオン)していくための練習です。
筋力に頼って無理やりポーズをとろうとすると、身体は緊張し、呼吸が止まり、プラーナ(気)の流れが滞ります。
逆に、余計な力を抜き、骨格の構造に身を委ね、重力と調和したとき、私たちは最小限の力で最大限のパフォーマンスを発揮することができます。
これが「スティラ・スカム・アーサナム(アーサナは快適で安定したものでなければならない)」という教えの本質です。

 

「脱力」という最強の能力

スポーツの世界でも、超一流のアスリートほど、身体が驚くほど柔らかく、脱力が上手だと言われます。
赤ちゃんを思い出してみてください。
彼らは筋肉隆々ではありませんが、何時間でも泣き続けられるスタミナがあり、柔らかくしなやかで、決して怪我をしません。
それは、彼らが「力む」ことを知らず、生命エネルギーを効率よく循環させているからです。

現代人は、力を入れることばかりを学習してきました。
頑張ること、歯を食いしばること、耐えること。
その結果、慢性的な肩こりや腰痛、自律神経の乱れといった不調を抱え込んでいます。
今、私たちに必要なのは「筋力を足す」ことではなく、「余計な緊張を引く」ことです。

本当の強さとは、ガチガチに固まった硬さではなく、柳の枝のように、どんな強風もしなやかに受け流し、決して折れない柔軟性に宿ります。
ヨガの練習で得られるのは、この「しなやかな強さ」です。
それは、いざという時に瞬発力を発揮できる予備動作としての「リラックス」を、常に身体の中に保っておく能力とも言えるでしょう。

 

微細な感覚(センス)を磨く

筋力をつけること以上に大切なのが、「身体感覚(センス)」を磨くことです。
自分の重心がどこにあるか、足の裏がどう地面を捉えているか、呼吸がどこに入っているか。
この微細な感覚が研ぎ澄まされていれば、私たちは筋肉に頼らなくても、骨格を積み上げるだけで立つことができます。

老化とは、筋力の低下というよりも、この「感覚の鈍化」から始まります。
センサーが鈍くなるから、転びやすくなり、動きがぎこちなくなるのです。
ヨガは、この内なるセンサーを再び活性化させる作業です。
目を閉じて、自分の内側を観る。
微細な揺らぎを感じ取る。
そうして身体との対話を深めていくプロセスそのものが、パフォーマンスの向上に直結しています。

 

終わりに:機能美という自然な姿へ

もちろん、生活に必要な最低限の筋力は必要です。
しかし、それは「見せるため」や「強さを誇示するため」の筋肉ではなく、日々の暮らしを快適に送るための「機能的な筋肉」であるべきです。
ヨガを続けていると、必要なところに必要なだけ筋肉がつき、不要な脂肪や緊張は削ぎ落とされていきます。
それは意図して作った形ではなく、自然の理にかなった、美しく機能的な姿(機能美)です。

現代社会という戦場で、私たちは無意識に身体を固め、鎧を着込んでしまっています。
ヨガの時間は、その重たい鎧を一度下ろし、本来の軽やかな自分に還るための時間です。
筋トレで自分をいじめるのではなく、脱力で自分を労る。
そんなアプローチが、結果として、あなたの人生というパフォーマンスを、より豊かで持続可能なものにしてくれるはずです。

ではまた。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。