モウナ(沈黙)とヨガのハザマで

自己啓発

ヨガを推奨しております。
ですが、今日お話ししたいのは、マットの上で身体を動かすことだけではありません。
むしろ、マットを降りた後の時間、あるいは言葉を発するのをやめた瞬間に訪れる、深遠なヨガの実践についてです。

皆さんは「モウナ(Mauna)」という言葉をご存知でしょうか。
サンスクリット語で「沈黙」や「静寂」を意味する言葉です。
インドのアシュラム(修行道場)などでは、一定期間、一切の言葉を発しない「モウナ」の修行が行われることがあります。
現代の賑やかなヨガスタジオではあまり語られることのない、しかしヨガの核心に触れるこの「沈黙」という実践について、少し静かに考えてみたいと思います。

 

言葉というノイズ、沈黙という音楽

現代社会は、言葉で溢れかえっています。
朝起きてから寝るまで、私たちは常に誰かと話し、メッセージを送り合い、SNSでつぶやき続けています。
言葉は便利なツールですが、同時に強力なエネルギーの消耗源でもあります。
何かを話すとき、私たちは思考を言語化し、発声するために、莫大なプラーナ(生命エネルギー)を使っています。
また、言葉は「定義」する行為でもあります。
「これは良い」「あれは悪い」「私はこういう人間だ」と言葉にするたび、私たちは世界を狭い枠組みの中に閉じ込めてしまいます。

モウナの実践とは、このエネルギーの漏出を止め、世界を定義することをやめる練習です。
口を閉ざすと、最初は頭の中のおしゃべり(内言)がうるさく感じるかもしれません。
しかし、しばらくその状態に留まっていると、次第に内側の湖面が静まり、普段は聞こえなかった「音のない音」が聞こえ始めます。
それは、自分自身の深層からのメッセージであり、あるいは宇宙そのものが奏でている静寂の音楽かもしれません。

ヨガ(Yoga)の語源は「結ぶ(Yuj)」ですが、本当に何かと深く結びつくためには、言葉は邪魔になることが多いのです。
夕焼けの美しさに心を奪われたとき、私たちは言葉を失います。
愛する人と抱き合っているとき、言葉は不要になります。
真実の体験は、常に沈黙の中にあります。

 

現代社会の「空白恐怖症」

私たちは今、沈黙を恐れています。
会話が途切れると気まずさを感じ、すぐにスマホを取り出して空白を埋めようとします。
まるで、沈黙していることは「何もしていない」「生産性がない」「孤独である」ことだと信じ込まされているかのようです。

しかし、この「空白」こそが、創造性と回復の源泉です。
パソコンも使い続ければ熱を持ち、動作が重くなります。一度シャットダウンして冷ます時間が必要です。
人間にとってのシャットダウンこそが、モウナの時間です。

常にアウトプットを求められる現代において、意識的に「黙る」時間を持つことは、究極のセルフケアであり、贅沢な遊びでもあります。
情報を遮断し、発信をやめ、ただ「受信モード」になること。
すると、枯渇していた内なる井戸に、再び清らかな水が満ちてくるのを感じるでしょう。

 

スピリチュアルな視点:沈黙は「空」への入り口

スピリチュアルな視点から言えば、モウナは「エゴ(自我)」を薄めるための強力な技法です。
エゴは、自分を主張すること、物語を語ることでその存在を維持しています。
「私が」「私の意見は」「私を見て」
言葉を発しないということは、このエゴの活動を一時停止させるということです。

言葉という衣を脱ぎ捨てたとき、そこに残るのは何でしょうか?
名前も、肩書きも、主張もない、ただの「純粋な意識」としてのあなたです。
ヨガ哲学で言う「プルシャ(真我)」や、仏教で言う「空(くう)」の領域です。
沈黙の中で、私たちは自分が個別のちっぽけな存在ではなく、全体とつながった大きな生命の一部であることを思い出します。

もし、あなたが今、人間関係のトラブルや、将来への不安、あるいは自分探しに疲れているのなら。
何かを解決しようと話し合う前に、あるいは新しい情報を探し回る前に、一度「沈黙」の中に身を置いてみてください。
答えは、言葉の外側からやってくることが多いのです。

 

日常でできる「プチ・モウナ」のすすめ

いきなり何日も黙り続ける必要はありません。
日常の中に、小さな「静寂のポケット」を作ることから始めてみましょう。

朝の最初の10分間:
起きてすぐスマホを見たり、テレビをつけたりせず、ただお茶を飲みながら静かに窓の外を眺める。

食事中の沈黙:
テレビや動画を見ながらではなく、一口一口の味や食感に全意識を向けて、黙って食べる(マインドフル・イーティング)。

「あえて言わない」練習:
不満や愚痴、あるいは自分の正しさを主張したくなったとき、一呼吸置いて、その言葉を飲み込んでみる。そのエネルギーがお腹の中でどう変化するか観察する。

ヨガマットの上でポーズをとることだけがヨガではありません。
喧騒の中で、自分の内側に静かな神殿を保ち続けること。
言葉のハザマにある、広大な沈黙の領域に気づいていること。
それこそが、現代を生きる私たちにとっての、最も切実で、美しいヨガの実践なのかもしれません。

静けさは、いつでもあなたの帰りを待っています。
この縁側で、言葉を手放して、ただ風の音を一緒に聴きましょう。

ではまた。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。