「難しい」を「簡単」に変える【ヨガとミニマル】

自己啓発

私たちの前には、時として巨大な壁のように見える課題が立ちはだかります。新しいスキルの習得、困難なプロジェクトの遂行、あるいは、長年の悪癖の克服。そのあまりの「難しさ」に圧倒され、私たちは最初の一歩を踏み出すことさえできずに、立ち尽くしてしまうことがあります。「自分には才能がないから」「時間がないから」「あまりにも複雑すぎるから」。様々な言い訳を並べ立て、挑戦する前から諦めてしまう。この「難しい」という感覚は、一体どこからやってくるのでしょうか。

この問いを深く探求していくと、「難しい」という性質は、実は課題そのものに内在しているのではなく、私たちの「心の状態」や「物事の捉え方」が生み出している幻想に過ぎない、という驚くべき結論にたどり着きます。そして、その心のフレームワークを少し変えるだけで、乗り越え不可能に見えた壁が、いくつもの小さなステップからなる、登りやすい階段へと姿を変えるのです。

 

「完璧」という名の呪い

私たちが何かを「難しい」と感じる最大の原因の一つは、「完璧主義」の罠にはまっていることです。私たちは、物事を始める前に、完成までの全行程を頭の中で見通し、完璧な計画を立て、一度も失敗することなくゴールにたどり着こうとします。しかし、現実のプロセスは、常に試行錯誤と失敗の連続です。この理想と現実のギャップが、私たちを「こんなに難しいことは、自分には無理だ」という無力感へと陥らせるのです。

特に、情報が過剰な現代社会では、この傾向が助長されます。インターネットで検索すれば、その分野の第一人者たちの、洗練された完成品や圧倒的な成果をいくらでも目にすることができます。それらと、まだ何も知らない自分の現在地とを比較してしまい、「あのレベルに到達するのは不可能だ」と、戦う前から白旗を揚げてしまう。私たちは、頂上の輝きばかりを見て、そこに至るまでの地道で泥臭い道のりの存在を忘れてしまっているのです。

この思考は、結果を過度に重視し、プロセスを軽視する、現代の効率至上主義とも深く結びついています。最短距離で、最も効率よく「正解」にたどり着くことが求められる社会では、回り道をしたり、失敗したりすることは「無駄」として断罪されがちです。そのプレッシャーが、私たちから挑戦する勇気を奪い、最初の一歩を重くさせているのです。

 

一歩一歩が修行の場である

このような完璧主義の呪縛に対し、東洋の叡智は、プロセスそのものに価値を見出す、まったく異なるアプローチを提示します。禅には「歩々是道場(ほほこれどうじょう)」という言葉があります。これは、寺院の中だけでなく、歩く一歩一歩、日常生活のあらゆる瞬間が、仏道を修行するための神聖な場所である、という意味です。

この思想の根底にあるのは、遠い未来にある壮大なゴールを目指すのではなく、「今、ここ」での一歩に、全身全霊で集中するという態度です。山頂を見上げて途方に暮れるのではなく、ただ、目の前の一歩を踏み出すことに意識を注ぐ。その一歩は、それ自体が尊い実践であり、完成された行為なのです。この一歩一歩の積み重ねの先にしか、山頂は存在しません。

ヨーガ・スートラもまた、この地道な実践の重要性を説いています。「アビヤーサ(Abhyasa)」と「ヴァイラーギャ(Vairagya)」という二つの概念が、その核心です。アビヤーサとは、目標に向かって、揺らぐことなく、長期間、中断することなく続けられる「修習」や「実践」のこと。ヴァイラーギャとは、その実践の成果や結果に対する「離欲」、つまり執着を手放すことです。

この二つは、車の両輪のようなものです。ただ淡々と、今日の練習に集中する(アビヤーサ)。そして、「いつになったらできるようになるのだろうか」といった結果への執着や焦りからは、意識を離す(ヴァイラーギャ)。この態度こそが、私たちを「難しい」というプレッシャーから解放し、長く険しい道のりを、心の平穏を保ちながら歩み続けることを可能にするのです。

 

壁を階段に変える技術

では、具体的に、目の前の「難しい」壁を、登りやすい「簡単」な階段へと変えるためには、どうすればよいのでしょうか。

最も効果的な方法の一つは、課題を可能な限り「小さなステップ」に分解することです。例えば、「本を1冊書き上げる」という課題は巨大な壁に見えますが、「1日に1つの段落を書く」「今日はリサーチのために論文を1本読む」「15分だけ、アイデアを自由に書き出す」といった小さなステップに分解すれば、途端に行動可能なものになります。この「ベイビーステップ」は、脳が変化に対して抱く抵抗感を和らげ、行動への心理的なハードルを劇的に下げてくれます。

「5分だけやってみる」というルールも強力です。気が進まない課題であっても、「たった5分なら」と自分に言い聞かせて手をつけてみる。多くの場合、一度始めてしまえば、作業興奮によって、思ったよりも長く続けられるものです。たとえ5分でやめたとしても、ゼロよりは遥かに大きな前進です。

そして何より大切なのは、他人と比較するのをやめることです。比較すべき唯一の相手は、昨日の自分です。昨日より半ページ多く本を読めた、昨日より10秒長くポーズを保てた。その小さな進歩を認識し、自分で自分を承認してあげること。この自己との対話の積み重ねが、外部の評価に依存しない、内側から湧き出るモチベーションの源泉となるでしょう。

「難しい」と感じる心は、未来への不安と過去への後悔から生まれます。しかし、私たちの人生が存在するのは、常に「今、この瞬間」だけです。目の前の一つの呼吸、一つの動作、一つの単語に意識を集中させるとき、「難しい」という幻想は消え去り、ただ、為すべきことが、静かに、そして「簡単」に、そこにあるだけなのです。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。