もし、意図やアファメーションというものが、宇宙に向けて放つ矢であるとするならば、言葉はその矢の「形状」であり、論理的な方向性を定めます。しかし、その矢を力強く、遠くまで飛ばすための「弓の力」、すなわち推進力となるのが「感情」です。言葉という設計図に、生命の息吹を吹き込み、現実化への強力な磁場を生み出すエネルギー。それが、感情なのです。
多くの引き寄せの実践者が、「私は豊かである」と機械的に言葉を繰り返すだけで、現実が変わらないと嘆きます。それは、エンジンのない美しい車をガレージに飾っているようなものです。車を動かすためには、ガソリンというエネルギーが必要不可欠です。それと同じように、意図を現実化の軌道に乗せるためには、「すでに叶った」時の感情という、高周波のエネルギーを注ぎ込む必要があります。
なぜ感情がそれほどまでに重要なのでしょうか。私たちの潜在意識は、論理的な言葉よりも、感覚的な情報、特に感情の響きに強く反応するからです。そして、宇宙の創造的な法則は、あなたが「考えていること」よりも、あなたが「感じていること」、すなわちあなたの「存在の周波数(Vibrational State of Being)」に応答すると言われます。あなたが「豊かさが欲しい」と考えながら、「欠乏感」や「不安」を感じていれば、宇宙はあなたの感情の周波数、すなわち「欠乏」と「不安」に共鳴する出来事を引き寄せるのです。
したがって、真の鍵は、望みが叶うのを待ってから喜ぶのではなく、「先に」その喜びや感謝、安らぎの感情を体験してしまうことです。これは、未来の感情の「前借り」であり、望む現実を「今、ここ」に呼び込むための、最も直接的な方法です。
では、具体的にどうすればよいのでしょうか。それは、あなたの想像力を最大限に活用する、一種の「感情の稽古」です。
静かな場所に座り、目を閉じ、呼吸を整えます。そして、あなたの意図(サンカルパ)が完全に実現した未来のワンシーンを、心の中に思い描いてください。
例えば、あなたの意図が「心から信頼できるパートナーシップを築いている」ことだとします。そのパートナーと、休日の朝、柔らかな日差しが差し込むリビングで、コーヒーを飲みながら談笑している場面を想像してみましょう。ただ頭で考えるだけではありません。その時に感じるであろう感情を、今、この身体で実際に感じてみるのです。
胸の奥からじんわりと湧き上がる、温かい幸福感。
深くリラックスし、心から安心している感覚。
相手への愛おしさと、愛されていることへの感謝の気持ち。
共にいるだけで満たされる、穏やかな喜び。
これらの感情を、全身で味わってみてください。頬が自然と緩み、口角が上がるのを感じますか?身体の緊張が解け、温かくなるのを感じますか?心臓が穏やかに、しかし力強く鼓動しているのを感じますか?この身体感覚を伴った「感情」こそが、現実化の強力な磁石となります。あなたの身体と神経系は、「これが私のノーマルな状態なのだ」と学習し始め、その心地よい状態を再現しようと、無意識のうちに行動や選択を調整していくのです。
この実践は、5分でも構いません。大切なのは、その感情の質と深さです。初めは感情を呼び覚ますのが難しいかもしれませんが、これも筋肉と同じで、練習すればするほど上手になります。好きな音楽を聴いたり、インスピレーションを受ける写真を見たりするのも、感情を喚起する助けとなるでしょう。
言葉で意図を設定し、そこに「すでに叶った」という至福の感情を乗せる。この思考と感情の結婚こそが、あなたの内なる世界に、望む現実の「エネルギー的な青写真」を創造します。そして、宇宙という名の偉大な建築家は、この青写真に基づいて、あなたの外なる世界を忠実に、そしてしばしばあなたの想像を超える素晴らしい形で、構築し始めてくれるのです。あなたの仕事は、ただ、その至福の感覚を、信頼と共に味わい続けることだけなのです。


