私たちの意識、特に潜在意識は、非常に素直で、時間という概念をあまり理解しません。それは、過去の記憶も未来の想像も、まるで「今、ここ」で起きていることのように体験します。例えば、過去の恥ずかしい失敗を思い出せば、今この瞬間に顔が赤らみ、心臓がドキドキします。未来のプレゼンテーションを想像して不安になれば、今この瞬間に手に汗を握るのです。この潜在意識の性質を理解することは、引き寄せの法則を実践する上で、決定的に重要です。
アファメーションや意図を設定する際に、多くの人が陥りがちな罠は、「〜になりたい」「〜が欲しい」という未来形の言葉を使ってしまうことです。「私は幸せになりたい」という言葉を宇宙(あるいは自らの潜在意識)に投げかけると、何が起きるでしょうか。潜在意識は、その言葉を文字通り受け取ります。そして、「『幸せになりたい』と願っている状態」こそが、あなたの望む現実なのだと解釈し、その「願い続けている状態」を忠実に維持しようとするのです。結果として、あなたは永遠に「幸せになりたい」と願い続ける現実を引き寄せることになります。
この膠着状態から抜け出すための鍵が、「現在形で語る」というシンプルな作法です。つまり、「〜になりたい」を、「私は〜である」あるいは「私は〜している」という、すでに達成された、あるいは今まさに進行している事実としての宣言に切り替えるのです。
「私は幸せになりたい」ではなく、「私は、今、幸せである」。
「私は豊かになりたい」ではなく、「私は、豊かさそのものである」。
「私は愛されたい」ではなく、「私は、愛に満ち、愛されている」。
「私は成功したい」ではなく、「私は、日々、成功を体験している」。
この転換は、単なる言葉のテクニックではありません。それは、あなたの自己認識を、欠乏の次元から充足の次元へとシフトさせる、意識の革命です。未来に何かを追い求める「探求者」の立場から、今ここにすべてが在ることを知る「創造主」の立場へと、自らの立ち位置を変える行為なのです。
もちろん、初めは強い抵抗を感じるかもしれません。現実の状況が「私は幸せである」という言葉とかけ離れているように思える時、心の中で「嘘つけ!」という声が聞こえてくるでしょう。それは自然な反応です。しかし、ここで思い出してほしいのです。ヨガの教えでは、あなたの本質、真の自己(アートマン)は、もともと「サット・チット・アーナンダ(存在・意識・歓喜)」そのものであるとされます。つまり、あなたは本来、幸せで、満たされた存在なのです。日々の出来事や思考によって、その事実を忘れてしまっているに過ぎません。
したがって、「私は幸せである」という宣言は、嘘をついているのではなく、むしろ、あなたの最も深い真実を思い出そうとする行為なのです。それは、雲に覆われた太陽に向かって、「太陽よ、あなたはそこに輝いている」と呼びかけるようなものです。雲(一時的な感情や状況)に惑わされず、その奥にある不変の真実(あなたの本質)に意識の焦点を合わせ続けるのです。
この実践を続けることで、あなたの神経系は、徐々に「幸せである」という状態に慣れ親しんでいきます。脳は、その宣言に合致する証拠を、現実世界の中から探し始めます。道端に咲く花の美しさ、誰かの親切な一言、温かいコーヒーの香り。これまで見過ごしていた、無数の「幸せの証拠」が、あなたの目に飛び込んでくるようになるでしょう。これが、あなたの内なる宣言が、外なる現実を再編成し始めるプロセスです。
瞑想の静けさの中で、あるいは鏡の中の自分に向かって、優しく、しかし確信をもって宣言してみてください。「私は、〜である」。それは、未来への注文書ではなく、今この瞬間のあなた自身への、最も力強い祝福の言葉となるでしょう。その言葉があなたの細胞の一つ一つに染み渡る時、あなたの現実は、その宣言の響きに同調せざるを得なくなるのです。


