古今東西の神秘主義や哲学において、世界の根源は目に見えないエネルギーである、という思想が繰り返し語られてきました。古代インドの聖典ヴェーダでは、宇宙の根本原理を「ブラフマン」と呼び、万物はこの一つの実在の現れであると説きます。東洋思想における「気」の概念もまた、生命や宇宙を貫く根源的なエネルギーの流れを示唆しています。そして現代、量子力学の最前線が、物質の最小単位は固定的な「モノ」ではなく、確率の波として存在するエネルギーの状態である、という驚くべき描像を私たちに見せてくれています。
この文脈に立つとき、私たちの内側で絶え間なく生じている「思考」が、単なる脳内の化学反応に過ぎない、と考えることはあまりにも表層的でしょう。ヨガの叡智は、思考そのものが精妙なエネルギーの一形態であると捉えます。一つ一つの思考は、あなたの内なる宇宙に放たれる、微細なエネルギーの波紋なのです。心配や恐れの思考は、低く重い周波数の波紋を広げ、あなたのエネルギーフィールド全体を収縮させ、澱ませます。一方、喜びや感謝、愛の思考は、高く軽やかな周波数の波紋を広げ、あなたの存在全体を拡張させ、輝かせます。
一日におよそ6万回も生じると言われるこの思考のエネルギーは、ほとんどの場合、何の方向性も持たずに拡散し、互いに打ち消し合っています。それはまるで、四方八方に光を放つだけの裸電球のようなもの。それ自体にエネルギーはあっても、特定の場所を照らし、何かを成し遂げる力にはなりません。
ここで、「意図(Intention)」が登場します。意図とは、この拡散した思考のエネルギーに「方向性」と「焦点」を与える行為です。裸電球の光を、強力なレンズと反射鏡を使って一点に集め、レーザー光線へと変えるプロセスに似ています。レーザー光線が、ただの光では不可能な、物を切断したり、遠くまで情報を届けたりする力を持つように、意図によって方向づけられた思考エネルギーは、現実を創造するほどの力を持つのです。
前述のサンカルパは、まさにこの「思考のエネルギーをレーザー化する」ための、最も洗練されたヨガの技術と言えます。短く、肯定的で、現在形の言葉で表現されたサンカルパは、思考のエネルギーを集中させるための「焦点」の役割を果たします。そして、瞑想やヨガニドラーによって静まった心は、エネルギーの拡散を防ぐ「反射鏡」となり、サンカルパという一点に、あなたの存在のすべてのエネルギーを注ぎ込むことを可能にするのです。
この「意図」の力を、私たちは日常生活の中でも無意識に使っています。例えば、朝、「今日は大切なプレゼンを成功させるぞ」と強く心に決めた日は、自然と背筋が伸び、言葉に力がこもり、必要な情報が目に飛び込んできやすくなる、という経験はないでしょうか。これは、あなたの意図が思考のエネルギーを方向づけ、あなたの知覚や行動をその意図に沿うように調整した結果です。あなたの内なるGPSが、目的地を設定されたのです。
引き寄せの法則を効果的に実践するためには、このエネルギーの性質を深く理解することが不可欠です。ただ漠然と「幸せになりたい」と考えるだけでは、エネルギーは拡散したままです。そうではなく、「私は、人との温かい繋がりの中で、心からの安らぎと喜びを感じている」というように、具体的で、感覚を伴う「意図」を設定するのです。この明確な意図が、あなたの思考というエネルギーの奔流を、望む現実という岸辺へと導く、強力な水路となります。
あなたの心は、単なる思考の発生装置ではありません。それは、宇宙の根源的なエネルギーを取り込み、あなたの意図によって形を与え、現実世界へと送り出す、パワフルな創造の祭壇なのです。今日から、ご自身の思考を、ただの雑音としてではなく、貴重なエネルギーとして捉えてみてください。そして、そのエネルギーを、あなたの最も神聖な意図のために、意識的に、そして大切に使うことを始めてみましょう。あなたの内なる光が、焦点を結び始めたとき、世界は驚くべき方法で、その光に応え始めることでしょう。


