私たちの人生は、呼吸のように「吸う」ことと「吐く」ことの連続で成り立っています。普段、私たちはこの営みをあまりにも当たり前のものとして、その深い意味合いを見過ごしてしまいがちです。しかし、ここで少し立ち止まり、呼吸の「吸う」という側面を、身体的なレベルから心理的なレベルへと視点を移して眺めてみると、そこには驚くほど豊かな世界が広がっていることに気づかされます。
ヨガの身体知は、「吸う」という行為が、心理的な「受け取る」という行為と本質的に等価であると教えてくれます。息を吸うとき、私たちの胸郭は広がり、肺は新鮮な空気で満たされ、身体の中に物理的な「スペース」が生まれます。これは、紛れもなく受容のポーズです。
では、私たちは日々の生活の中で、どれだけ上手に「受け取る」ことができているでしょうか。チャンス、賞賛、愛情、インスピレーション、あるいは物質的な豊かさ。宇宙は常に、私たちに惜しみない贈り物を差し出してくれています。しかし、私たちは無意識のうちに、「私なんかが、そんなものを受け取る資格はない」と、その手を引っ込めてはいないでしょうか。自己肯定感の低さや、過去の傷ついた経験からくる不信感が、私たちの胸を固く閉じさせ、呼吸を浅く、短いものにしてしまっているのかもしれません。
深く、ゆったりと息を吸うことができない状態は、心が豊かさを受け取ることを拒絶しているサインなのです。それはまるで、素晴らしい贈り物を目の前に差し出されているのに、「いえいえ、結構です」と遠慮しているようなもの。この無意識の「受け取り拒否」の姿勢が、人生における多くの停滞や欠乏感の根源にある、とヨガ哲学は指摘します。
この状態から抜け出すための稽古は、実にシンプルです。それは、呼吸という身体の営みを通して、「受け取る」能力を再教育することに他なりません。静かに座り、あるいは仰向けになって、ゆっくりと息を吸い込んでみましょう。肋骨が一つひとつしなやかに広がり、胸の中心が柔らかく開いていく感覚を丁寧に味わいます。そして、その身体的な広がりと共に、心もまた大きく開かれていくのを感じてください。
吸う息と共に、心の中でこう唱えてみるのも良いでしょう。「私は、宇宙が与えてくれるすべての善きものを、感謝して受け取ります」。言葉の力を借りて、身体感覚と意識を結びつけるのです。最初はぎこちなくても構いません。この稽古を繰り返すうちに、あなたの身体は「受け取ること」の心地よさを思い出し始めます。すると、浅かった呼吸は自然と深みを増し、それに伴って、あなたの人生にも新たな豊かさの流れが堰を切ったように流れ込んでくるでしょう。
「受け取る」という能力は、頭で理解するものではなく、身体で学ぶものです。吸う息を深めるという日々の実践は、あなたの人生という器そのものを大きくしなやかに育てていく、最も確実な道なのです。


