227.委ねるとは、諦めることではない。信頼することである。

自己啓発

「委ねる」という言葉を聞いたとき、多くの人は「諦め」や「放棄」「無気力」といった、どこかネガティブな響きを連想するかもしれません。それは、自らの意志で人生をコントロールし、努力によって道を切り拓くことを是とする、私たちの文化的な刷り込みによるものでしょう。しかし、ヨガ哲学の深遠な智慧、特にその頂点に位置する「イーシュワラ・プラニダーナ(自在神への献身、あるいは大いなるものへの委ね)」が示す「委ね」は、諦めとは全く次元の異なる、極めて能動的で力強い心の姿勢です。それは、諦念ではなく、絶対的な「信頼」の表明なのです。

諦めが生まれるのは、エゴの力が及ばず、自分の計画が頓挫したときです。「もうダメだ」「自分の力ではどうにもならない」という無力感が、諦めの正体です。そこには、世界と自分とを切り離して捉え、孤独に戦って敗れた、という分離の感覚が根底にあります。

一方で、「委ね」は、そもそも「自分一人の力で何かを成し遂げているのではない」という、より大きな真実の認識から始まります。私たちの心臓が、私たちの意志とは無関係に鼓動を続けてくれるように。私たちが吸う空気が、誰のものでもなく、ただそこに在るように。私たちの人生もまた、個人の力を超えた、計り知れないほど広大で知的な宇宙の流れの一部である。この大いなる全体性への気づきが、「委ね」の土台となります。

この視点に立つと、「委ねる」とは、自分のちっぽけなエゴの計画や、結果に対する執着を、自分よりもはるかに賢明でパワフルな宇宙の采配に明け渡す、という行為になります。それは、無力感からの敗北宣言ではありません。むしろ、「私の知恵や力には限りがあるが、宇宙の知恵と力は無限である。だから、その無限の力に私の最善を託します」という、宇宙との共同創造への積極的な参加表明なのです。

この「信頼」は、目に見えないものへの信頼です。自分の理解を超えたところで、すべては完璧な秩序のもとに動いており、自分にとって最善のことが最善のタイミングで起こる、ということを信じる力です。これは、非常に勇気のいる行為と言えるでしょう。なぜなら、私たちは目に見えるもの、コントロールできるものを信じるように訓練されてきたからです。

カルマヨガの実践は、この「委ね」を体得するための素晴らしい稽古となります。あなたは、自分のなすべき行為(ダルマ)に、誠心誠意、全力を尽くして取り組みます。しかし、その行為から生じる「結果」については、完全に手放し、宇宙に捧げます。良い結果が出ても有頂天にならず、悪い結果が出ても落胆しない。なぜなら、その結果はあなたの評価を決めるものではなく、宇宙があなたに示す次なるステップへの標識に過ぎないからです。この実践を繰り返すことで、私たちはエゴの支配から解放され、行為そのものの純粋な喜びの中に生きることができるようになります。

あなたが何かを意図し、行動した後は、宇宙の応答を信頼して待つ。これが「委ねる」ということです。それは、何もしないで待つこととは違います。インスピレーションが来れば行動し、シンクロニシティに気づけばその流れに乗る。しかし、いつ、どのように結果が現れるかを心配したり、コントロールしようとしたりしない。それは、農夫が種を蒔いた後、太陽と雨と大地の力を信頼して、作物が育つのを辛抱強く見守る姿に似ています。農夫は土を耕し、種を蒔くという「人事を尽くす」ことはできますが、作物を育て上げるのは天の仕事です。

「委ねる」ことは、人生の重荷を一人で背負うのをやめ、宇宙という最強のパートナーと共に歩むことを選択することです。そのとき、あなたは孤独な戦士から、大いなる流れの中で守られ、導かれるダンサーへと変容します。諦めが閉じた扉であるのに対し、信頼に基づく委ねは、あなたの想像をはるかに超えた可能性へと開かれた、無限の扉なのです。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。