18.「できる・できない」の二元論を超えて – アーサナとプロセス

自己啓発

ヨガのアーサナ(ポーズ)を実践する中で、私たちの心を最もかき乱し、その本質から遠ざけてしまう罠。それは、「できる」と「できない」という、単純で暴力的な二元論です。SNSを開けば、人間離れした柔軟性や力強さで、完璧なアーサナを披露する人々の写真が溢れています。それらを目にするたび、私たちは無意識のうちに自分自身をその「理想形」と比較し、「できる私」に優越感を覚え、「できない私」に劣等感や焦りを抱いてしまいます。しかし、この競争的なマインドセットこそ、ヨガが私たちを解放しようとしている、まさにその「心の作用(ヴリッティ)」なのです。

ヨガのゴールは、隣の人より足が高く上がることでも、昨日より深く前屈できることでもありません。『ヨーガ・スートラ』が示すように、その究極の目的は「心の作用の止滅」、つまり、絶え間なく揺れ動く思考や感情の波を鎮め、内なる静寂に至ることにあります。アーサナは、その目的地へと向かうための、一つの優れた道具、あるいは乗り物に過ぎません。他者との比較はもちろんのこと、過去の自分や理想の自分との比較さえも、心の湖に新たな波紋を立てる行為であり、ヨガの旅路を妨げる重りとなってしまいます。

では、アーサナの価値はどこにあるのでしょうか。それは、結果としての「完成形」にあるのではなく、そこに至るまでの、そしてその中にとどまっている間の、「プロセス」そのものにあります。ポーズを深めようとする中で、身体のどこが抵抗し、どこが応えてくれるのか。その抵抗に対して、心はどのように反応するのか。焦りか、苛立ちか、あるいは受容か。呼吸は浅くなっていないか、穏やかさを保てているか。その一瞬一瞬における、身体と心と呼吸の対話。この「内なる体験」の質こそが、ヨガの実践のすべてであり、何物にも代えがたい宝なのです。それは、結果だけを評価する現代の功利主義的な価値観から離れ、行為そのもののプロセスに喜びと意味を見出すという、生き方の転換を私たちに促します。

ここに、日本の武道や芸道にも通じる「稽古」という思想の深さを見出すことができます。「稽古」とは、「古(いにしえ)を稽(かんが)える」と書くように、先人が探求してきた型や知恵に敬意を払いながら、それを今の自分の心身で追体験し、内面化していくプロセスです。そこには、一朝一夕の完成はありません。ただ、今日の自分にできることを、淡々と、しかし誠実に行う。その日々の地道な積み重ねの中にしか、真の深化はあり得ないのです。

この視点に立つ時、「できない」ことの価値が、全く違って見えてきます。「できない」という壁に直面した時、私たちは初めて、傲慢さから解放され、謙虚になります。どうすればこの壁を越えられるだろうかと工夫を始め、自分の身体と真剣に対話するようになります。それは、安易な成功体験からは決して得られない、自己理解を深めるための絶好の機会なのです。「できない」と感じている自分自身を、ジャッジすることなく、ただ観察し、受け入れる。その行為自体が、自己受容という、極めて重要なヨガの修練となります。

ヨガマットの上は、私たちの人生の縮図です。「できる・できない」「成功・失敗」「優・劣」といった、社会が押し付ける二元論的な物差しを、一旦脇に置いてみましょう。そして、ただ「今、ここ」で起こっているプロセスそのものに、全身全霊で没入するのです。その時、私たちは結果への執着という重荷から解放され、行為そのものがもたらす純粋な喜びと平和を発見します。この境地こそが、外側の条件に左右されない、内側から湧き出る真の自由なのです。そして、この自由で満たされた「在り方」こそが、あなたが望む現実を、努力や抵抗なしに、ごく自然に引き寄せる力の源泉となるのです。



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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。