ヨガを推奨しております。
ただ、ここで言うヨガとは、単に身体を柔らかくしたり、難しいポーズをとったりすることだけを指しているわけではありません。
ヨガとは本来、生き方そのものであり、私たちが自分自身と、そして世界とどのように関わっていくかという「態度の変容」を促すものです。
現代社会は、私たちに「速さ」や「成果」、「競争」を求め続けます。
そんな時代だからこそ、マットの上で、あるいは日常の中で、ふと立ち止まって思い出してほしい「四つの大切なポイント」があります。
これは、ヨガの経典(スートラ)に記された智慧であり、私たちが健やかに生きるための羅針盤でもあります。
1. アビヤーサ(修習):淡々と続けること
一つ目は「アビヤーサ」。日本語では「修習」や「実践」と訳されますが、要するに「続けること」です。
現代人は、すぐに結果を求めがちです。
「1ヶ月でマイナス5キロ」「3ヶ月で開脚ができるようになる」
そういった即効性を求めるあまり、少しやって効果が見えないとすぐにやめてしまったり、次から次へと新しいメソッドに飛びついたりします。
しかし、ヨガの変化は、植物が育つようにゆっくりとしたものです。
今日の練習が、すぐに明日の花になるとは限りません。
それでも、水をやり続けること。
雨の日も風の日も、調子が良い日も悪い日も、ただ淡々と、マットの上に立つこと。
この「淡々とした継続」こそが、アビヤーサの本質です。
情熱の炎を一気に燃やし尽くすのではなく、種火のように絶やさず、長く灯し続けること。
その静かな積み重ねだけが、私たちの心身の土壌を深く耕してくれるのです。
2. ヴァイラーギャ(離欲):結果を手放すこと
二つ目は「ヴァイラーギャ」。これは「離欲」や「無執着」と訳されます。
アビヤーサ(努力して続けること)とセットで語られる、非常に重要な概念です。
一生懸命に練習はする(アビヤーサ)。しかし、その結果には執着しない(ヴァイラーギャ)。
これは現代の資本主義的な価値観とは真逆かもしれません。私たちは通常、成果を得るために努力をするからです。
「これだけやったのだから、報われるべきだ」「もっと上手くなりたい」
そういった期待や執着は、逆に私たちの心を縛り、苦しみを生み出します。
ポーズができるようになってもならなくても、どちらでもいい。
痩せても痩せなくても、私の価値は変わらない。
ただ、「行為そのもの」に没頭し、結果は天(自然の法則)に委ねてしまうこと。
これを『バガヴァッド・ギーター』では「カルマ・ヨガ(行為のヨガ)」と呼びます。
結果への期待という荷物を下ろしたとき、私たちの行動は純粋になり、不思議と物事はスムーズに運び始めます。
努力はするけれど、必死にはならない。この絶妙なバランスの中に、ヨガの極意があります。
3. サントーシャ(知足):今あるものに寛ぐこと
三つ目は「サントーシャ」。「足るを知る」という教えです。
私たちは常に「不足」の感覚に追われています。
もっとお金があれば、もっと時間があれば、もっとスタイルが良ければ、幸せになれるのに。
そうやって「ないもの」ばかりを数えて、今の自分を否定し続けています。
ヨガは、その視点を180度転換させます。
今、呼吸ができていること。
身体が動くこと。
今日という一日があること。
すでに「あるもの」に目を向け、その豊かさを味わうこと。
ポーズの練習においても同じです。
「もっと深く曲げなきゃ」と無理をするのではなく、「今の自分の身体はここまで曲がってくれている」と感謝すること。
その受容の心(サントーシャ)が生まれたとき、身体は安心し、自然と緩んでいきます。
幸せは、何かを獲得した先にあるのではなく、今の瞬間に「これで十分だ」と寛げる心の中にこそあるのです。
4. イーシュヴァラ・プラニダーナ(祈念):大きな力に委ねること
最後、四つ目は「イーシュヴァラ・プラニダーナ」。
これは少し宗教的に聞こえるかもしれませんが、「神への献身」あるいは「大いなる存在への明け渡し」を意味します。
特定の神様を信じなさいということではありません。
自分という小さな個人の力(エゴ)を超えた、もっと大きな自然の摂理や、生命の働きに対する敬意と信頼を持つということです。
私たちは「自分の力で人生をコントロールしている」と思いたがります。
しかし実際には、心臓を動かしているのも、季節が巡るのも、私たちの意志ではありません。
すべては、人智を超えた大きな流れの中で生かされています。
その事実に気づき、「私が、私が」という我執を手放すこと。
コントロールしようと足掻くのをやめて、大きな流れに身を任せてみること。
「まな板の上の鯉」の心境と言ってもいいかもしれません。
そうやってエゴを明け渡したとき、私たちは孤独な戦いから解放され、世界全体と一体になったような深い安心感(ヨガ)を得ることができます。
終わりに:マットの外へ
続けること、手放すこと、満ち足りること、委ねること。
これら四つのポイントは、ヨガマットの上だけでなく、仕事や人間関係、子育てなど、人生のあらゆる場面で私たちを助けてくれます。
現代社会の荒波の中で、もし迷うことがあったら、この四つの智慧を思い出してみてください。
そして、たまには縁側に座って、ただ呼吸をする時間を持ちましょう。
難しく考える必要はありません。
ただ、そこに在るだけで、ヨガはすでに始まっているのですから。
ではまた。





