心と神経系を調律する。ポリヴェーガル理論とヨガ哲学の幸福な出会い

365days

現代社会に生きる私たちは、何もしないで休んでいるはずの時間でさえ、どこか頭が忙しく、身体がこわばっているのを感じていないでしょうか。

パソコンやスマートフォンから絶えず情報が流れ込み、無意識のうちに緊張状態が続く現象は、現代人の心身にとって深刻な問題と言えます。

こうした「なぜか心が落ち着かない」「常に焦りを感じる」といった状態を紐解く鍵として、近年注目を集めているのが「ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)」です。

実は、この現代の神経科学が提唱する画期的なアプローチは、二千年以上も前から東洋のヨガ哲学が伝えてきた世界観と、驚くほど見事に一致しているのです。

今回は、私たちの神経系の仕組みを紐解きながら、ヨガを通じて心と体を根本から静めていく方法を丁寧に紡いでいきましょう。

 

ポリヴェーガル理論が明かす、3つの神経系

そもそもポリヴェーガル理論とは、スティーブン・ポージェス博士によって提唱された自律神経に関する新しい理論です。

従来の自律神経といえば、「闘うか逃げるか」の交感神経と、「休む」ための副交感神経という、オンとオフの二元論で語られることが一般的でした。

しかし、この理論では副交感神経(迷走神経)をさらに二つのシステムに分類し、私たちの身体には主に3つの神経状態が存在すると定義しています。

1つ目の要素となるのが、腹側迷走神経複合体(ふくそくめいそうしんけいふくごうたい)です。

これは、他者との温かいコミュニケーションや、安心感、安全を感じているときに活性化する「社会交流システム」を指します。

2つ目の状態を司るのが、お馴染みの交感神経系と言えるでしょう。

外敵から身を守るために心拍数を上げ、戦うか逃げるかを判断するアクティブな興奮状態を引き起こします。

そして3つ目が、背側迷走神経複合体(はいそくめいそうしんけいふくごうたい)のシステムです。

これは、あまりにも強大なストレスや生命の危機を感じたときに、身体をフリーズさせて「シャットダウン」させる、最も原始的な防衛反応を指すのです。

 

ヨガの「三徳(グナ)」との一致

驚くべきことに、この科学的な3つの区分は、インドの古典哲学であるサーンキヤ哲学の「三グナ(三徳)」の思想とぴったり重なり合います。

ヨガの世界では、この宇宙に存在するすべての物質や心の働きは、3つの性質(グナ)のバランスによって成り立っていると考えるのです。

それぞれの特徴を現代の言葉で詳しく見ていくことにしましょう。

1つ目のサットヴァ(純質・調和)は、心が澄み渡り、軽やかで穏やかな、静寂に満ちた状態を表します。

これがまさに、安心安全を感じて他者とつながる「腹側迷走神経」の活動に対応していると言えるでしょう。

2つ目のラジャス(激質・動性)は、情熱や怒り、焦りなど、エネルギーが過剰に動き回る活動的な性質を意味するものです。

身体を緊張させて闘争・逃走へと導く交感神経は、このラジャスの状態そのものと観じて差し支えありません。

そして3つ目のタマス(翳質・惰性)は、怠惰や無気力、鈍重さ、そして暗闇を表す静止の性質を指します。

このタマスのエネルギーは、絶望を感じて動けなくなってしまう、あるいは生命をセーブするために休止する背側迷走神経のシャットダウン状態とシンクロしているのです。

 

現代人はタマスとラジャスをさまよっている

私たちの日常生活を振り返ってみると、この3つのバランスが著しく崩れている事実に気づくでしょう。

多くの人が、仕事のプレッシャーや情報の過多から常に交感神経(ラジャス)を刺激され、頭の中で「こうしなければならない」という自動思考を繰り返し働かせています。

その過剰な緊張状態が限界に達すると、今度は疲れ果てて背側迷走神経(タマス)のフリーズ状態に突入し、ベッドから起き上がれなくなったり、何に対しても無気力になったりするのです。

つまり、多くの現代人はサットヴァ(安心・安全)という心地よい中立の地帯を失い、ラジャス(焦燥)とタマス(無気力)という両極端のあいだを振り子のように激しく往復しています。

この不安定な状態を調律し、本来の澄み切ったサットヴァへと身体の土台を戻してくれる存在が、日々のヨガに他なりません。

 

呼吸と身体の動きがもたらす「調律」

ヨガがおこなうアプローチは、単にアクロバティックなポーズをマスターすることではないと言えます。

最も重要なのは、呼吸(プラーナーヤーマ)と丁寧な内観によって、神経系に「ここは安全な場所である」というメッセージを物理的に送り届けるプロセスでしょう。

例えば、ヨガの練習において「息を細く、長く吐くこと」を意識すると、腹側迷走神経が刺激され、心拍数が自然と穏やかになっていきます。

また、骨盤のまわりや背骨をほぐしていくアーサナ(ポーズ)は、神経の通り道を柔らかくし、身体の緊張という固いよろいを解き放つ効果を秘めているのです。

自分の呼吸の音に耳を澄ませ、重力に身体を預けていく感覚を深めると、私たちの神経は「もう闘う必要もないし、心をシャットダウンして隠れる必要もないのだ」と理解し始めます。

 

ミニマリズムの思想と、何もしないという瞑想

これらは、何かを外側から付け足そうとする現代の健康法とは異なり、むしろ「不要なものを手放す」というミニマリズムの思想に通じるものです。

私たちは、おしゃれなスムージーを飲む自分という記号を消費したり、人より秀でたポーズができる自分をSNSでアピールしたりすることに血眼になりがちと言えます。

しかし、それはさらなるラジャス(焦り)を増幅させているだけに過ぎないのではないでしょうか。

本当に必要なのは、情報や記号を消費するのをやめて、今ここにあるシンプルな呼吸と身体にただ立ち戻ることです。

当スタジオでは、身体を解きほぐし、やがて重力すら感じなくなるような瞑想(SIQAN・シカン)を提案しています。

これは、頭の中の自動思考を静め、本来の感覚を取り戻すための極めてシンプルなプロセスと言えるでしょう。

自らの神経系を本来のサットヴァ(安心安全)の状態へと調律していくことこそが、最も美しくシンプルな生き方のベースとなります。

 

おわりに:安全な神経系を自分の中に育む

ポリヴェーガル理論とヨガ哲学の交点を知ることは、単に知識を増やすことではなく、自分の内なる変化を信頼するための大きな助けになるでしょう。

もしもあなたが、焦りや無気力に振り回されていると感じるのであれば、まずは深く息を吐くことから始めてみてください。

闘うための筋肉をゆっくりと緩め、何もしない静寂の時間に身を置くことで、あなたの奥深くにある腹側迷走神経は再び息を吹き返します。

都会の喧騒の中に身を置きながらも、自らの内側に「安全な避難所」を築くこと。

その静かなる覚醒の旅を、まずは今日の一呼吸から、まったりと始めてみてはいかがでしょうか。

 



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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、ENQAN(ヨガ)、JIQAN(内観)、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。