170.感情の波に浮かぶ – 沈まず、ただ漂う

365days

私たちの内なる世界は、穏やかな凪の時もあれば、荒れ狂う嵐に見舞われる時もある、広大な海のようです。喜び、愛、平穏といった感情は心地よい追い風ですが、怒り、悲しみ、恐れといった感情は、私たちを飲み込み、溺れさせようとする巨大な波のように感じられます。

この感情の波に直面した時、私たちの多くは、二つの極端な反応のどちらかに陥りがちです。一つは、波に全力で抵抗し、それをコントロールしようと試みること。「泣いてはいけない」「怒るべきではない」と感情を抑えつけ、波を消し去ろうとします。しかし、波の力は強大で、抵抗すればするほど私たちはエネルギーを消耗し、やがて力尽きてしまいます。もう一つは、波の力に完全に圧倒され、なすすべなく飲み込まれてしまうこと。感情と自分を完全に同一化し、「私は悲しみだ」「私は怒りだ」とその渦の中で方向感覚を失ってしまうのです。

ヨガの叡智は、この二つの極端な反応とは異なる、第三の道を私たちに示します。それは、「沈まず、ただ漂う」というあり方です。感情の波を、サーフィンに喩えてみるとわかりやすいかもしれません。優れたサーファーは、波を消そうとしたり、波から逃げようとしたりしません。また、波に無防備に打ちのめされることもありません。彼らは、波が来るのを認め、その力を読み、サーフボードの上で絶妙なバランスをとりながら、波のエネルギーを利用して、その上を滑走していきます。

感情の波に浮かぶとは、まさにこのサーファーのような態度を、心の世界で実践することです。ヨーガ・スートラが説く「観照者(ドラシュトゥ)」の視点を育むことが、そのための鍵となります。感情は、「私」そのものではありません。それは、「私」という広大な意識の海を通り過ぎていく、一時的なエネルギーの現象、すなわち「波」なのです。この「私」と「私の感情」との間に、わずかなスペースを設けること。これが、溺れることなく波に浮かぶための、決定的な第一歩です。

この「観照者」を育むための具体的な実践は、驚くほどシンプルです。まず、強い感情が湧き上がってきたら、その瞬間に、心の中で実況中継をしてみましょう。「お、今、怒りの波が、胸のあたりからぐわっと上がってきたな」「なるほど、今、喉の奥が詰まるような、悲しみの感覚があるぞ」。このように、感情を「体験している自分」と、それを「観察している自分」に分けるのです。このわずかな分離が、感情の渦に巻き込まれるのを防ぐ、命綱となります。

あなたの呼吸は、この波乗りにおける最高のサーフボードです。感情の波が来た時、私たちは無意識に呼吸を止めたり、浅くしたりします。これが、パニックを引き起こし、私たちを沈めてしまう原因です。意識的に、長く、深い呼吸を続けてみてください。特に、吐く息に集中します。息を吐くたびに、身体の力が抜け、波の上にふわりと浮かぶ感覚をイメージします。呼吸という安定したボードがあれば、どんなに大きな波が来ても、転覆することなく乗りこなすことができるでしょう。

この実践において重要なのは、感情を良い・悪いでジャッジしないことです。怒りの波も、悲しみの波も、喜びの波と同様に、ただの自然現象です。嵐が道徳的に悪いわけではないのと同じです。それぞれの波には、私たちに何かを伝えようとするメッセージが込められています。「何かがあなたの境界線を越えましたよ」と怒りが教えてくれたり、「大切なものを失いましたね」と悲しみが寄り添ってくれたりするのです。

感情の波に浮かぶ技術を身につけることは、無感覚になることではありません。むしろ、感情をこれまで以上に深く、豊かに、そして安全に感じられるようになるためのスキルです。それは、人生という予測不可能な海を、恐れではなく、好奇心と、そして時には遊び心をもって航海していくための、究極のアートなのです。次に感情の波が訪れたら、慌てて岸に逃げ帰るのではなく、呼吸というサーフボードに乗って、そのダイナミックな乗り心地を、少しだけ楽しんでみてはいかがでしょうか。



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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、ENQAN(ヨガ)、JIQAN(内観)、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。