ジニャーナヨガとは?「知識のヨガ」で思考の迷宮から脱出する実践法と哲学

ヨガの流派

ヨガを推奨しております。
巷にはフィットネスとしてのヨガが溢れていますが、本来のヨガとは、ポーズ(アーサナ)をとって汗をかくことだけではありません。
むしろ、それはヨガという巨大な氷山の一角に過ぎないのです。
体を動かすのが苦手な方、あるいは「考えること」が好きで、それゆえに悩み続けている方には、別の入り口が用意されています。
それが、今日ご紹介する「ジニャーナヨガ(Jnana Yoga)」です。

これは「知識のヨガ」や「智慧のヨガ」と呼ばれます。
体をねじる代わりに、知性を研ぎ澄ませる。
筋肉を鍛える代わりに、識別力を鍛える。
そうして、私たちを縛り付けている「無知」という名の鎖を断ち切る、最も険しく、しかし最も直接的な解脱への道です。
今日はこの深遠な智慧の世界へ、少し足を踏み入れてみましょう。

 

知識のヨガ「ジニャーナ・ヨガ」とは何か

「ジニャーナ(Jnana)」とは、サンスクリット語で「知識」や「智慧」を意味します。
英語の「Knowledge」や「Gnosis(霊知)」の語源とも関連があると言われています。
しかし、ここで言う「知識」とは、学校で習うような歴史年号や数学の公式、あるいは明日の天気予報といった「情報」のことではありません。
それは、「真理(ブラフマン)と自己(アートマン)は一つである」という、宇宙の根源的な事実を体験的に知ることを指します。

古代インドの聖典『バガヴァッド・ギータ』において、ヨガは大きく4つの道に分類されました。

  • カルマヨガ(奉仕のヨガ): 行為を通してエゴを滅する道
  • バクティヨガ(信愛のヨガ): 神への愛を通してエゴを溶かす道
  • ラージャヨガ(瞑想のヨガ): 精神集中を通して心を制御する道
  • ジニャーナヨガ(知識のヨガ): 知性による探求を通して真我を悟る道

ジニャーナヨガは、この中で最も理知的で、哲学者や思想家に向いている道と言われます。
感情や身体感覚に流されず、「私とは何か?」「この世界は現実なのか?」という問いを極限まで突き詰め、幻想(マーヤー)を見破っていくプロセスです。

 

現代社会の病「情報過多」と「知性の欠如」

現代社会を見渡してみましょう。
私たちは人類史上、最も「情報」を持っている世代です。
スマホをタップすれば、地球の裏側のニュースから、パスタの茹で方、量子力学の概略まで、あらゆるデータにアクセスできます。
しかし、私たちはそれによって幸福になったでしょうか?
あるいは、賢くなったと言えるでしょうか?

むしろ逆のことが起きているように感じます。
情報の洪水に溺れ、何を信じていいかわからず、常に何かを見落としているのではないかという不安(FOMO)に苛まれています。
これは、ヨガの視点で見れば「知識(ジニャーナ)」が不足している状態です。
情報は外部からやってくる雑多な荷物ですが、智慧は内部から湧き上がり、本質を見抜く光です。
私たちはデータを詰め込むことで頭を肥満させていますが、それを取捨選択し、真実にたどり着くための「知性の筋肉」は衰えてしまっているのかもしれません。

現代人は「考える」ことが得意だと思っています。
しかし、その実態は、過去の後悔や未来の不安、他人との比較といった「思考の自動再生」に巻き込まれているだけではないでしょうか。
それは思考しているのではなく、思考に「使われている」状態です。
ジニャーナヨガは、この暴走する思考の主導権を、本来の自分(真我)の手に取り戻すためのトレーニングなのです。

 

「私は誰か(Who am I?)」という究極の問い

ジニャーナヨガの核心的な実践、それは自己への問いかけ(アートマ・ヴィチャーラ)です。
インドの聖者ラマナ・マハルシが提唱した「私は誰か?(Who am I?)」という問いは、あまりにも有名です。

試しに、ご自身に問うてみてください。
「私は誰か?」
「私は山田太郎です」と答えるかもしれません。でも、それは名前であって、あなたそのものではありません。名前が変わっても、あなたはあなたですよね。
「私は会社員です」。それは職業という役割です。
「私はこの身体です」。では、手足を失ったら「私」は減るのでしょうか? 身体の細胞は数年ですべて入れ替わりますが、「私」という感覚は続いています。
「私はこの感情です」。感情は天気のように変わりますが、それを観ているあなたは変わりません。

こうして玉ねぎの皮を剥くように、自分だと思い込んでいたものを一つひとつ否定していきます。
名前でもない、肩書きでもない、身体でもない、感情でもない、記憶でもない。
そうやってすべてを剥ぎ取った後に、どうしても消すことのできない「何か」が残ります。
ただ存在している感覚。
すべてを認識している意識のスクリーン。
それこそが、本当のあなた(アートマン)です。
この真実にたどり着くことが、ジニャーナヨガのゴールです。

 

実践の4つの柱(サーダナ・チャトゥシュタヤ)

とはいえ、いきなり「私は誰か」と問い続けても、思考の迷路に迷い込むだけかもしれません。
伝統的なジニャーナヨガでは、実践に入るための準備として、4つの資質(サーダナ・チャトゥシュタヤ)を養うことが求められます。

1. ヴィヴェーカ(識別・弁別)

これは「真実」と「偽物」、「永遠のもの」と「一時的なもの」を見分ける能力です。
私たちはよく、お金や名声、若さが永遠に続くと錯覚し、それに執着します。しかし、それらは必ず消え去るものです。
「これは移ろいゆくものだ」「これは変わらないものだ」と、冷静に見分ける理性の剣を磨くこと。これが識別の実践です。

 

2. ヴァイラーギャ(離欲・無執着)

識別ができるようになると、自然と執着が薄れていきます。
「あの一時的な快楽を追い求めても、結局は虚しいだけだ」と気づくからです。
世俗的な楽しみや成功に対する過度な渇望を手放すこと。嫌悪するのではなく、ただ「必要以上に求めない」というクールな態度です。

 

3. シャト・サンパッティ(6つの徳)

心を安定させるための6つの精神的な財産です。

  • シャマ(静寂): 心の平安を保つこと。
  • ダマ(自制): 五感のコントロール。
  • ウパラティ(停止): 自分の義務(ダルマ)以外の無駄な行為をやめること。
  • ティティクシャ(忍耐): 苦楽に動じない強さ。
  • シュラッダー(信頼): 師や教え、自分自身への信頼。
  • サマダーナ(集中): 心を一点に定めること。

 

4. ムムクシュトヴァ(解脱への渇望)

「自由になりたい」という強烈な願いです。
水の中で溺れている人が空気を求めるように、真理を知りたいと願うこと。この情熱がなければ、哲学的な探求はただの知的遊戯に終わってしまいます。

「ネティ・ネティ」の実践で迷いを削ぎ落とす

ジニャーナヨガの具体的な瞑想法の一つに、「ネティ・ネティ(Neti Neti)」があります。
これはサンスクリット語で「これではない、これではない」という意味です。

座って瞑想し、何か思考が浮かんだとします。「今日の夕飯は何にしよう」
すかさず、内なる知性が答えます。「この思考は私ではない(ネティ・ネティ)」
足が痺れてきたとします。「この痛みは私ではない(ネティ・ネティ)」
不安が湧いてきたとします。「この感情は私ではない(ネティ・ネティ)」

彫刻家が石の塊から仏像を掘り出すとき、仏像を「作る」のではありません。余分な石を「取り除く」ことで、中に埋もれていた仏像を現出させます。
それと同じように、私たちも「幸せ」や「自分」を新しく作る必要はありません。
ただ、「自分ではないもの」を徹底的に否定し、削ぎ落としていけばいいのです。
最後に残ったもの、それが「それ(Tat)」であり、あなた自身です。

 

結論:知識は荷物ではなく、道を照らす光

ジニャーナヨガは、頭でっかちになることではありません。
むしろ、頭の中に詰め込んだ「概念」や「思い込み」という荷物を下ろしていく作業です。

「私はダメな人間だ」という思い込み。
「成功しなければならない」という思い込み。
「死んだら終わりだ」という思い込み。
それらはすべて、無知(アヴィディヤー)が生み出した幻影です。
正しい知識(ジニャーナ)の光を当てれば、暗闇の中にあったロープが、蛇ではなかったと気づくように、恐怖は瞬時に消え去ります。

現代社会は複雑で、迷いやすい場所です。
だからこそ、感情や状況に流されない「内なる羅針盤」としての知性が必要です。
マットの上でポーズをとる時も、「この身体は私ではない、私はそれを観ているものだ」という視点を持ってみてください。
それは立派なジニャーナヨガの実践になります。

思考の迷宮から抜け出し、ただ「在る」という広大な空へ。
その知的な冒険を、この縁側から始めてみませんか。

ではまた。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。