第1講:はじめに – なぜ今、ヨガと消費社会なのか?

ヨガを学ぶ

私たちの日常は、静かな渇きで満ちているのかもしれません。

スマートフォンの画面をスワイプすれば、友人の楽しそうな旅行の写真が流れてきます。次は自分もあそこへ行かなくては、と思う。

雑誌を開けば、洗練されたインテリアに囲まれた「丁寧な暮らし」が紹介されている。自分の部屋がなんだか色褪せて見えてくる。

新しい服を買ったときの高揚感は、なぜ数週間もすれば消えてしまうのでしょうか。手に入れたはずの満足は、蜃気楼のように指の間をすり抜け、私たちはまた次の「欲しいもの」を探し始めます。

この終わりのない追いかけっこは、一体どこへ向かっているのでしょう。この胸の奥にぽっかりと空いた穴は、何を手に入れれば埋まるというのでしょうか。

 

私たちの抱える問題は、問題なのか

私たちは、この漠然とした満たされなさを、つい個人的な問題として捉えがちです。「もっと努力が足りないからだ」「もっと稼げば幸せになれるはずだ」「自分にはセンスがないからだ」と。しかし、もしその渇きの原因が、あなた個人の内側だけにあるのではなく、私たちが呼吸するように生きているこの「社会」そのものの構造に深く根差しているとしたら、どうでしょう。

この連続講座は、その可能性を探るための、ささやかな冒険です。私たちは、二つの、一見すると全く異なる世界観を羅針盤として、現代という広大な海を航海してみたいと思います。

一つは、フランスの思想家ジャン・ボードリヤールが遺した、「消費社会」という名の、極めて精密な海図です。彼は、私たちが生きるこの社会が、どのように私たちの欲望を形作り、私たちを静かに駆動させているのかを、鋭い言葉で解き明かしました。彼の言葉は、時に冷たく、私たちの足元を揺るがすかもしれません。しかし、自分が泳いでいる海の性質を知ることなしに、賢く泳ぐことはできないのです。

そしてもう一つは、古代インドから受け継がれてきた「ヨガ」という、身体と心のための、古びることのないコンパスです。ヨガは、外へ外へと向かいがちな私たちの意識を、静かに内側へ、自らの呼吸と身体の感覚へと引き戻してくれます。それは、社会という大きな波に揺さぶられながらも、自分自身の中心を見失わないための、実践的な智慧の体系に他なりません。

なぜ、消費社会を語るのに、ヨガが必要なのか。それは、ボードリヤールが示した「現代の病理」を、頭で理解するだけでは不十分だからです。情報や知識は、私たちを賢くしますが、それだけでは心の渇きを癒すことはできません。むしろ、情報過多は新たな渇きを生むことさえある。本当に必要なのは、知的な理解を、生身の身体感覚へと「着地」させるプロセスなのです。ヨガは、そのための最も信頼できる方法の一つだと、私は考えています。

 

私たちはどのようなゲームに放り投げられているのか

この講座を通して、私たちはまず、自分たちがどのような「ゲーム」のルールの中で生きているのかを学びます。なぜ私たちはモノを買うのか。なぜSNSの「いいね!」が気になるのか。なぜ「自分らしさ」を求めて疲弊してしまうのか。ボードリヤールの海図は、その巧妙なゲームの構造を鮮やかに照らし出してくれるでしょう。

そして次に、そのゲームに振り回されるのではなく、自分自身の中心に錨を下ろすための実践として、ヨガの智慧を探求します。

それは、ゲームから完全に降りることではないかもしれません。(本来のヨガは完全に降りることを推奨しますが)私たちはこの社会の中で生きていくしかないのですから。しかし、ゲームのルールを知り、自分のコンパスを持つことで、波に翻弄されるだけの存在から、波を乗りこなし、時には静かに漂うこともできる、しなやかな航海者へと変わることができるはずです。

 

ゲームのルールは本当か?

この旅は、何か新しいものを「足し算」していく学びではありません。むしろ、これまで無自覚に背負い込んできた過剰なものを、一つひとつ吟味し、そっと手放していく「引き算」のプロセスになるでしょう。それは、モノや情報だけでなく、思い込みや価値観といった、目に見えない重荷をも含みます。

これから始まる思索の旅が、あなたの日常を、そして世界を見るまなざしを、少しだけ違った、より澄んだ色合いで照らし出すきっかけとなることを、心から願っています。ボードリヤールという地図と、ヨガというコンパスを手に、現代という記号の海へ、静かに漕ぎ出しましょう。

 

ヨガの基本情報まとめの目次は以下よりご覧いただけます。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。