DAY 20 | 大きな家具を手放す決断:空間の哲学を、自らデザインする

自己啓発

「部屋の王様、そして見えない支配者」

ミニマリストゲームの旅も、いよいよ、最も大きく、最も手ごわい相手との対峙を迎えます。それは、私たちの部屋の風景を決定づけ、私たちの生活の動線を規定し、そして、私たちの思考の枠組みさえも、静かに支配している存在―「大きな家具」です。

ソファ、ベッド、ダイニングテーブル、本棚、テレビボード。これらの家具は、私たちの生活に、快適さや機能性を提供してくれる、頼もしいパートナーであると、私たちは信じています。しかし、それと同時に、それらは、私たちの空間における、最も動かしがたい、重い錨(いかり)でもあります。一度、場所に据え付けられた大きな家具は、引越しや模様替えの大きな障害となり、私たちの生活の自由度を、見えない形で、縛り付けてはいないでしょうか。

今日のゲームは、これまでとは、少しルールが異なります。20個の小さなモノを手放す代わりに、私たちは、一つの「大きな家具」を手放すという、極めて象徴的で、人生を変える可能性を秘めた決断について、深く、深く、思索します。それは、単なるモノの処分ではありません。それは、社会やインテリア雑誌が提示する「当たり前の暮らし」という名の設計図を、自らの手で破り捨て、自分自身の「空間の哲学」を、ゼロから創造するための、革命的な第一歩なのです。

 

家具が規定する、私たちの身体と人生

フランスの思想家ミシェル・フーコーは、建築や空間の配置が、いかにして、人々の身体を訓練し、権力関係を形成していくかを、巧みに分析しました。彼の視点を借りるならば、私たちの家庭にある家具の配置もまた、決して中立的なものではありません。それは、私たちの行動を、特定のパターンへと、無意識のうちに、誘導しているのです。

リビングルームの中央に、大きなソファとテレビが鎮座している家を、想像してみてください。その空間は、私たちに、どのような行動を促すでしょうか。おそらく、家族は、ソファに座り、テレビを見る、という受動的な娯’楽’へと、自然に導かれるでしょう。そこでは、身体を動かしたり、創造的な活動をしたり、あるいは、家族が、互いに顔を見合わせて、深く対話したりする機会は、構造的に、生まれにくくなっています。

「ベッドがなければ、寝室ではない」「ダイニングテーブルがなければ、家族団欒はできない」。これらの、私たちが自明のものとして受け入れている前提は、果たして、本当なのでしょうか。それらは、家具メーカーや住宅産業が、長年にわたって、私たちの心に植え付けてきた、巧みな物語ではないでしょうか。

東洋、特に日本の伝統的な住空間は、この西洋的な家具中心の思想とは、全く異なる哲学の上に、成り立っていました。障子や襖(ふすま)で、緩やかに仕切られた「一室空間」。そこでは、昼間は、座卓を置いて居間として使い、夜には、布団を敷いて寝室とする、というように、一つの空間が、時間と共に、その役割を、柔軟に変化させました。家具を、固定されたものとしてではなく、必要に応じて出し入れする、流動的なものとして捉える。この思想は、「何もない」こと、すなわち「余白(ま)」の価値を、深く理解していました。何もないからこそ、その空間は、あらゆる可能性に対して、開かれているのです。

 

「なくても、なんとかなる」という、驚くべき自由

大きな家具を手放す、という決断は、私たちに、ある種の「恐怖」を感じさせるかもしれません。「ソファがなかったら、どこでくつろげばいいのか」「ベッドがなかったら、快適に眠れないのではないか」。

しかし、その恐怖の先に、多くのミニマリストが発見するのは、「なくても、なんとかなる。いや、むしろ、ない方が、遥かに自由で、豊かだ」という、驚くべき解放感です。

1. 空間の解放
大きな家具が一つなくなるだけで、部屋は、物理的に、劇的に広くなります。その広々とした床の空間は、ストレッチやヨガをするためのスタジオにも、子供が自由に走り回るための遊び場にも、友人を招いて車座になって語り合うための広場にもなります。空間の用途が、家具によって固定されることから解放され、私たちの自発的な活動の可能性が、無限に広がるのです。

2. 身体の解放
床に直接座ったり、寝転んだりする生活(床座生活)は、椅子に座り続ける生活よりも、私たちの身体が本来持つ、柔軟性や筋力を、自然に維持してくれる、という側面があります。立ち上がったり、座ったりする、ごく自然な日常の動作が、それ自体、適度なエクササイズとなるのです。私たちは、家具の快適さに身体を預けることで、知らず知らずのうちに、身体能力を、退化させていたのかもしれません。

3. 移動の解放
家具が少なければ少ないほど、引越しは、驚くほど、身軽で、安価になります。それは、特定の土地や「持ち家」という概念に、人生を縛り付けられることなく、自分のキャリアやライフステージの変化に合わせて、住む場所を、軽やかに変えていく、「移動の自由」を、私たちに与えてくれます。

 

20の小石か、一つの巨岩か:あなたの決断

今日のゲームの課題は、20個のモノを手放すことです。あなたは、これまで通り、20個の小さなモノ(小石)を探し出して、手放すこともできます。それは、それで、素晴らしい実践です。

しかし、もし、あなたが、より大きな変容を望むのであれば、今日、一つの「巨岩」、すなわち、あなたの部屋の風景を支配する、大きな家具を、一つだけ、手放すことを、真剣に検討してみてはいかがでしょうか。その一つの決断が、20個、いや、200個の小物を手放すこと以上に、あなたの人生を、根底から変える力を持っているかもしれません。

1. 候補者をリストアップする
– ソファ、ベッドフレーム、大きな本棚、ダイニングテーブルセット、テレビボード、立派なドレッサー。あなたの家にある「なくても、生活できるかもしれない」大きな家具を、リストアップします。

2. 「もし、これがなかったら?」と、シミュレーションする
– その家具がなくなった空間を、具体的に、想像してみてください。あなたはその空間で、何をしますか?どんな新しい活動が、可能になりますか?そのシミュレーションが、あなたに、恐怖よりも、ワクワクするような、ポジティブな感覚をもたらすのであれば、それは、手放す準備ができた、というサインかもしれません。

3. お試し期間を設ける
– いきなり処分するのが怖い場合は、「お試し期間」を設けるのも、賢明な方法です。例えば、一週間、ソファを部屋の隅に寄せて、使わずに生活してみる。ベッドをやめて、床に直接、マットレスや布団を敷いて寝てみる。その実験を通して、あなたの身体と心が、どう感じるかを、注意深く、観察するのです。

大きな家具を手放すことは、あなたの生活の「OS(オペレーティング・システム)」を、入れ替えるようなものです。それは、これまでの常識や快適さを、一度、リセットし、自分にとって、本当に心地よい生活とは何かを、自らの身体感覚を通して、再発見していく、壮大な実験です。

今日、あなたは、自分自身の生活空間の、真のデザイナーとなる。その決断の先に広がるのは、モノに支配される人生ではなく、あなたが、空間を、そして人生を、自由に創造していく、新しい地平なのです。


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。