ゴールではなく出発点を見る【ヨガとミニマル】

自己啓発

私たちは、目標を設定することの重要性を、幼い頃から繰り返し教えられてきました。明確なゴールを描き、それに向かって計画を立て、邁進すること。それが成功への王道であり、充実した人生を送るための秘訣だと。しかし、このゴール至上主義とも言える考え方が、時として私たちを苦しめ、行動を麻痺させる強力な足枷となっていることに、私たちはどれほど自覚的でしょうか。

遥か彼方にそびえ立つ、壮大で完璧なゴール。その輝かしいイメージは、私たちを鼓舞すると同時に、そのあまりの遠大さで私たちを圧倒します。そして、そこに至るまでの長く険しい道のりを思うとき、私たちは「自分には到底無理だ」と、最初の一歩を踏み出すことさえためらってしまうのです。

ここで、視点を180度転換させてみることはできないでしょうか。「ゴールではなく出発点を見る」。このシンプルな発想の転換は、目標達成という呪縛から私たちを解放し、行動への扉を開く、極めて実践的な鍵となります。未来の輝かしい「点」に囚われるのではなく、今ここにある、ささやかで、しかし確実な「点」に意識を集中させること。その中に、物事を動かすための、静かで力強いエネルギーが秘められているのです。

 

結果への執着を手放す – アビヤーサの教え

ヨガの経典『バガヴァッド・ギーター』には、「汝のなすべきことは行為そのものにあり、決してその結果にはない」という、有名な一節があります。これは、行為の結果、すなわちゴール(成功、報酬、他者からの評価など)に対する執着を手放し、ただ、今なすべき行為そのものに心を集中させなさい、という教えです。

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また、『ヨーガ・スートラ』では、心の働きを止滅するための二つの柱として、「アビヤーサ(Abhyāsa)」と「ヴァイラーギャ(Vairāgya)」が挙げられます。「ヴァイラーギャ」が結果への執着を手放す「離欲」を意味するのに対し、「アビヤーサ」は目標に向かって揺るぎなく実践を「修習」し続けることを意味します。この二つは、車の両輪のように一体となって機能します。つまり、ヨガの実践とは、結果をコントロールしようとする心を完全に手放した上で、ただ淡々と、今この瞬間の一つの実践(例えば、一つの呼吸、一つのアーサナ)を積み重ねていくことに他ならないのです。

ゴールを見つめる心は、常に「今、ここ」にはありません。それは未来をさまよい、「まだ達成できていない」という欠乏感や、「失敗したらどうしよう」という不安を生み出します。一方で、出発点、すなわち「今、ここでの一歩」に意識を集中させるとき、私たちの心は現在に深く根を下ろし、穏やかで安定した状態を保つことができるのです。

 

千里の行も足下より始まる

古代中国の賢人、老子もまた、同様の智慧を簡潔な言葉で残しています。「千里の行も足下より始まる」。どれほど壮大な旅も、その始まりは、地面に足を下ろす、ただその一歩に尽きる。この自明でありながら、私たちが忘れがちな真理は、ゴールという抽象的な概念と、出発点という具体的な身体感覚との対比を鮮やかに示しています。

ゴールは、頭の中にある観念です。それは私たちを興奮させもしますが、現実感に乏しく、しばしば私たちを無力感に陥らせます。一方、出発点、すなわち「最初の一歩」は、身体的な現実です。それは、キーボードに指を置く、靴紐を結ぶ、玄関のドアを開けるといった、具体的で、誰にでも実行可能な、小さな小さなアクションです。

私たちが圧倒的な無力感に襲われたとき、やるべきことは、遠い山頂を見上げて嘆くことではありません。視線を足元に戻し、ただ次の一歩をどこに置くか、それだけを考えることです。たった一歩。その具体性とささやかさが、私たちの心を不安から救い出し、再び前へと進む力を与えてくれます。そして、その一歩一歩の感触を味わいながら淡々と歩み続けるうち、気づけば私たちは、かつて見上げていた山頂の、思いがけない高みまで到達していることに驚くでしょう。

 

プロセスという旅を楽しむ

ゴールばかりを見つめる生き方のもう一つの弊害は、そこに至るまでの「プロセス」を楽しむことができなくなる点です。人生を、ゴール達成という目的のための単なる「手段」と見なしてしまうと、その道中のすべてが、我慢すべき苦役のように感じられてしまいます。

しかし、人生の豊かさとは、ゴールを達成した瞬間の、束の間の高揚感の中にだけあるのでしょうか。むしろ、その目的地に至るまでの旅の過程、すなわち、試行錯誤し、迷い、時に道草を食い、予期せぬ出会いを経験し、少しずつ成長していく、そのプロセスそのものにこそ、人生の本当の醍醐味があるのではないでしょうか。

出発点に立つということは、このプロセスという旅を、今ここから始めるという宣言です。目的地がどこであれ、まずはこの旅の一歩目を心から楽しんでみよう、と決意することです。完璧なスタートなどありえません。不格好で、頼りない第一歩で構わないのです。重要なのは、未来の結果を案じるのではなく、現在の行動の中に喜びを見出すことです。

壮大な目標を掲げることを、やめる必要はありません。しかし、その目標は、北極星のように、進むべき大まかな方角を示す遠い光として心に留めておくだけでいい。私たちの意識とエネルギーのほとんどは、今ここにいる自分の「出発点」と、そこから踏み出す「次の一歩」に注がれるべきなのです。その地に足のついた実践の繰り返しこそが、私たちを最も確実

に、そして最も豊かに、目的地へと運んでくれるのですから。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。