問題だらけの状態を楽しむ【ヨガとミニマル】

自己啓発

私たちの人生は、一つの問題を解決したかと思えば、また次の問題が顔を出す、その終わりのない連鎖のように見えることがあります。仕事のトラブル、人間関係の軋轢、健康への不安、将来への漠然とした恐れ。私たちは、これらの「問題」を忌むべきもの、一刻も早く取り除かねばならない障害物として捉え、その解決のために日々奮闘しています。そして、いつかすべての問題が片付いた、完璧で穏やかな状態が訪れることを夢見ている。

しかし、もし、その「すべての問題が解決された状態」など、永遠に訪れないとしたらどうでしょうか。もし、人生とは本質的に「問題だらけ」であり、思い通りにならないこと(苦)こそがデフォルトの状態であるとしたら。この根源的な事実を受け入れたとき、私たちは問題との向き合い方を180度転換させることができるかもしれません。「問題だらけの状態を、楽しむ」。この逆説的な態度は、苦しみから逃れるための新たな道筋を、私たちの目の前に照らし出してくれるのです。

 

「問題解決」という病

現代社会は、「問題解決」を至上の能力として称揚します。あらゆる課題を分析し、最適な解決策を導き出し、効率的に実行する。この思考様式は、ビジネスや科学技術の世界で目覚ましい成果を上げてきました。しかし、この「問題解決モード」を人生そのものに適用しようとするとき、私たちはある種の罠にはまってしまいます。

それは、常に「あるべき姿(理想)」と「現状」とのギャップを探し出し、それを埋めることばかりに意識が向かってしまうという罠です。この思考の癖は、私たちから「今、ここに在る」という感覚を奪い去ります。常に未来の「問題が解決された状態」に心を飛ばし、現在の不完全な状況を否定し続ける。これでは、どれだけ問題を解決しても、次なる「問題」を見つけ出すだけで、永遠に心の安らぎは訪れません。

さらに、SNSなどで垣間見える他人の「完璧に見える」人生は、この傾向に拍車をかけます。キラキラとした投稿の断片は、まるで問題など一つもない理想的な世界が存在するかのような幻想を抱かせ、自分の人生がなんと問題だらけで、欠陥に満ちているのか、という劣等感を煽るのです。私たちは、存在しないはずの「問題のない人生」という幻を追いかけて、現実の不完全な生を呪うという、不幸なゲームに自ら参加してしまっているのかもしれません。

 

「一切皆苦」から始まる道

このような人生の捉え方に対し、二千五百年前に仏教が提示した出発点は、驚くほどラディカルで、同時に解放的なものでした。それは、「一切皆苦(いっさいかいく)」という教えです。これは、人生のすべては苦しみである、というペシミスティックな宣言ではありません。サンスクリット語の原語である「ドゥッカ(duḥkha)」は、「思い通りにならないこと」と訳すのがより適切です。つまり、この教えが言わんとしているのは、「人生とは、本質的に思い通りにならないものである」という、冷静な現実認識なのです。

この「デフォルト設定」を受け入れることは、諦めとは異なります。それは、無駄な抵抗をやめる、ということです。雨が降っているときに、「なぜ晴れないのだ!」と空に向かって怒り続けるのではなく、「なるほど、今日は雨か」と静かに受け入れ、傘をさす。問題が起きたときに、「なぜこんなことが起きるんだ!」とパニックに陥るのではなく、「なるほど、こういうことが起きたか」と、まずはその事実を冷静に観察する。この受容の態度こそが、あらゆる苦しみから自由になるための第一歩なのです。

禅の言葉に「日々是好日(にちにちこれこうじつ)」というものがあります。晴れた日はもちろん、雨の日も、雪の日も、その日そのものが、かけがえのない素晴らしい一日である、という境地です。これは、人生に起こる出来事を「良い」「悪い」と二元論で判断する心から自由になり、ただ、ありのままの現実を味わい尽くすという、成熟した精神のあり方を示しています。

 

人生という名のクエスト

では、具体的にどうすれば「問題だらけの状態を楽しむ」ことができるのでしょうか。一つは、人生を壮大な「ゲーム」や「クエスト」として捉え直してみることです。ゲームの主人公は、次から次へと現れる障害や敵を乗り越えることで成長し、物語を進めていきます。もし、何の障害もない平坦な道が続くだけのゲームがあったとしたら、それはすぐにつまらないものになってしまうでしょう。

人生における「問題」もまた、私たちを成長させ、物語を面白くするための「クエスト」や「仕掛け」なのかもしれません。そう捉えたとき、問題はもはや忌むべき敵ではなく、攻略しがいのある、知的な挑戦の対象へと姿を変えます。

この視点は、ヨガのプラクティスとも深く繋がっています。バランスを取るのが難しいアーサナ(ポーズ)に挑戦するとき、私たちはその不安定さや、身体の震えといった「問題」に直面します。そのとき、「なぜできないんだ!」と自分を責めるのではなく、呼吸に意識を戻し、身体の微細な感覚を探りながら、その揺らぎそのものを観察し、味わおうとします。そのプロセスの中にこそ、学びと気づきがあることを、私たちは知っているからです。

問題だらけの人生とは、不完全で、欠陥のある人生なのではありません。それは、学びと成長の機会に満ちた、豊かでダイナミックな人生の証です。完璧な静寂の海を目指すのではなく、荒れ狂う波を乗りこなすサーファーのように、次々と訪れる人生の「問題」という波を、しなやかに、そして遊び心を持って楽しむ。そのとき私たちは、結果に一喜一憂する生き方から解放され、プロセスそのものの中に在る、尽きることのない喜びを見出すことができるでしょう。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。