ヨガのアーサナ(ポーズ)と聞くと、多くの人は手足を複雑に絡めたり、驚くような柔軟性を要する形を思い浮かべるかもしれません。しかし、すべてのアーサナの設計図であり、出発点であり、そして最終的な帰結点でもある、最も重要で奥深いポーズが、この「ただ立つだけ」に見える、タダーサナ(山のポーズ)です。
「ターダ(Tada)」とは、サンスクリット語で「山」を意味します。タダーサナとは、山のように、大地にどっしりと根を張り、揺るぎない安定性を保ちながら、同時に、天に向かって気高く伸びやかに立つ姿を、自らの身体で体現する実践です。その静止した外見の内に、下方への力と上方への力が拮抗する、極めてダイナミックなエネルギーの状態が秘められています。
タダーサナを正しく行うことは、単に気をつけの姿勢で立つこととは全く異なります。それは、全身の骨格(アライメント)を、重力に対して最も効率的で、調和のとれた状態に意識的に配置していく、緻密な建築作業のようなものです。
まず、土台である足裏。四つの角で大地を均等に押し、地球との接続(グラウンディング)を確立します。次に、脚の筋肉を適度に引き締め、膝のお皿をわずかに引き上げます。骨盤は、前にも後ろにも傾かない中立な位置(ニュートラル)に保ち、尾骨は優しく大地の方へと向けます。お腹は軽く引き込み、その力を使って、一本一本の背骨の間に微細な空間を作り出すように、背筋を長く伸ばします。胸は誇らしく開き、鎖骨は左右に伸びやかに。肩の力は抜き、腕は自然に体側へ。そして、顎を軽く引き、頭頂はまるで天から一本の糸で優しく吊るされているかのように、すっと引き上げます。
この「型」に自らの身体を丁寧にはめ込んでいくプロセスは、私たちに多くの気づきを与えてくれます。普段の立ち方の癖、身体の左右差、無意識の緊張。タダーサナという完璧な「型」が鏡となり、私たちの身体の歪みを映し出し、あるべき姿へと導いてくれるのです。これは、自己流から脱し、先人たちの知恵が凝縮された「守破離」の「守」を学ぶ、身体を通した稽古に他なりません。
このポーズの内側で、意識をさらに深めてみましょう。足裏から吸い上げた大地のエネルギーが、背骨という階梯(はしご)を駆け上がり、頭頂から天へと抜けていく流れ。そして、天からの宇宙のエネルギーが、頭頂から身体を降りてきて、大地へと還っていく流れ。あなたの身体は、この天と地のエネルギーが交流する、聖なる交差点となるのです。
タダーサナは、決して退屈なポーズではありません。それは、私という小宇宙(ミクロコスモス)が、大宇宙(マクロコスモス)の秩序と完全に調和しようとする、静かで壮大な試みです。「ただ立つ」という、人間の最も基本的な営みの中に深く没入するとき、あなたの身体は聖なる神殿となり、思考を超えたレベルでの、宇宙との静かな対話が始まるのです。


