ジャイナ教の宇宙観 – 時間、空間、そして魂 –

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古代インドの精神的土壌から芽生え、今なお多くの人々の生き方に深い影響を与え続けるジャイナ教。その教えの核心には、徹底した非暴力(アヒンサー)やカルマの法則、そして魂の解放(モークシャ)への希求があります。これらの実践と信仰を支える揺るぎない基盤となるのが、ジャイナ教が提示する壮大かつ緻密な宇宙観です。

本章では、この深遠なるジャイナ教の宇宙観について、その根底にある思想から、時間、空間、そして宇宙を構成する実体、さらには我々の本質である魂のあり方まで、多角的に考察を深めてまいります。この宇宙観を理解することは、単に異文化の知識を得るにとどまらず、私たち自身の存在や生き方、そして世界との関わり方を見つめ直すための貴重な示唆を与えてくれるでしょう。

 

宇宙は創造されず、永遠に存在する

ジャイナ教の宇宙観における最も根源的な特徴は、宇宙が特定の神によって創造されたものではなく、始まりも終わりもなく永遠に存在し続けると捉える点にあります。これは、ヴェーダの伝統に見られるような創造神話とは一線を画す、非神話的かつ論理的な世界観の提示と言えるでしょう。

この非創造の思想は、ジャイナ教の他の教義とも深く結びついています。創造主が存在しないということは、世界のあり方やそこに生きる生命の苦楽は、何らかの外的な力によって決定されるのではなく、もっぱら個々の魂が自ら積み重ねた行為(カルマ)の結果であるという論理を導き出します。このカルマの法則の絶対性こそが、ジャイナ教徒にとって自己の行為に責任を持ち、倫理的な生き方を追求する強い動機となるのです。

宇宙が永遠であるという認識はまた、私たちに刹那的な視点ではなく、より長大な時間軸の中で自己の存在を捉えることを促します。一回限りの人生ではなく、無限とも思える輪廻転生のサイクルの中に今この瞬間が存在するという視点は、日々の些末な出来事に一喜一憂することなく、魂の浄化という究極の目標に向かって着実に歩みを進めるための精神的支柱となります。

 

ローカ・プルシャ:人体に模される宇宙の姿

ジャイナ教は、この永遠の宇宙を「ローカ・プルシャ」(Loka-puruṣa)、すなわち「宇宙人間」という独特のイメージで捉えます。これは、宇宙の構造を人間の身体の各部位になぞらえて説明するもので、非常に具体的かつ視覚的な理解を助けます。

ローカ・プルシャは、大きく分けて三つの領域から構成されると考えられています。

  1. ウールドゥワ・ローカ(Ūrdhva Loka):天界

    ローカ・プルシャの上半身にあたり、神々(デーヴァ)が住まう領域です。ここには多くの階層があり、過去の善行の報いとして、計り知れないほどの長寿と快楽を享受する存在たちがいます。しかし、天界の喜びも永遠ではなく、善業のカルマが尽きれば再び他の生へと輪廻します。あくまで束縛された魂の一つの状態であり、解脱の境地ではありません。

  2. マディヤ・ローカ(Madhya Loka):人間界

    ローカ・プルシャの腰の部分に位置し、私たち人間や動物、植物などが住まう領域です。この人間界は、苦楽が混在し、魂が解脱のための努力をなし得る唯一の場所として、極めて重要な意味を持ちます。天界や地獄界では、過去のカルマの果報を享受したり、苦しみを償ったりすることに専念するため、新たなカルマを積むことや解脱への道を探求することが困難なのです。

  3. アドー・ローカ(Adho Loka):地獄界

    ローカ・プルシャの下半身にあたり、過去の悪行の報いとして激しい苦痛を受ける存在たちが住まう領域です。ここにも多くの階層があり、下にいくほど苦しみは増大するとされます。地獄の苦しみもまた、悪業のカルマが尽きれば終わりを迎え、魂は別の生へと転生します。

このローカ・プルシャのイメージは、宇宙の構造を具体的に示すと同時に、魂がカルマに応じてこれら三界を絶えず輪廻転生するというジャイナ教の基本的な世界観を視覚的に表現しています。それは、私たちの現在の行いが未来の境遇を決定するという、厳粛な因果律の宇宙的現れなのです。

 

カーラ:循環する宇宙の時間

ジャイナ教における時間(カーラ、Kāla)の概念もまた、宇宙と同様に始まりも終わりもなく、永遠に循環するものとして捉えられます。この時間は、直線的に進むのではなく、巨大な車輪が回転するように、一定のサイクルを繰り返します。

この時間のサイクルは、大きく二つの半期に分けられます。

  1. ウトサルピニー(Utsarpiṇī):上昇期

    世界のあらゆるものが次第に良くなっていく「上り坂」の期間です。人々の身長、寿命、体力、知恵、道徳心などが徐々に向上し、幸福度が増していきます。この期間はさらに六つの段階に細分化されます。

  2. アヴァサルピニー(Avasarpiṇī):下降期

    世界のあらゆるものが次第に悪くなっていく「下り坂」の期間です。人々の身長、寿命、体力、知恵、道徳心などが徐々に低下し、苦しみが増していきます。この期間も同様に六つの段階に細分化されます。

現在、私たちはアヴァサルピニーの第五期にあるとジャイナ教では考えられています。これは、道徳がかなり衰退し、苦しみが多い時代とされます。しかし、絶望的な時代というわけではなく、このような困難な時期だからこそ、教えを求め、実践することの価値が一層高まるとも言えるでしょう。

この循環する時間観は、私たちにいくつかの重要な視点を提供します。第一に、現在の世界の状況は絶対的なものではなく、巨大なサイクルのほんの一断面に過ぎないということです。第二に、たとえ困難な時代であっても、それは永遠に続くわけではなく、やがては上昇期へと転換するという希望を与えてくれます。そして第三に、個人の行いはこの宇宙的な時間の流れの中で評価され、その結果が現れるという、長期的な倫理観を育むのです。

 

アーカーシャ:魂と物質が運動する空間

ジャイナ教において、空間(アーカーシャ、Ākāśa)は、全ての存在物がその中に存在し、運動するための「場所」を提供する実体として理解されます。このアーカーシャは、二つの部分に区別されます。

  1. ローカーカーシャ(Lokākāśa):宇宙空間

    魂(ジーヴァ)や物質(プドガラ)など、宇宙を構成する他の実体が存在し、活動することができる有限の空間です。前述のローカ・プルシャは、このローカーカーシャの中に存在します。ここには、運動の媒体であるダルマや静止の媒体であるアダルマも存在します。

  2. アローカーカーシャ(Alokākāśa):非宇宙空間

    ローカーカーシャを取り囲む無限の空間であり、そこには魂も物質も、ダルマもアダルマも存在しません。純粋な空間のみが無限に広がっているとされます。

この空間概念は、宇宙が有限でありながらも、それを超えた無限の広がりがあることを示唆しています。魂の解放(モークシャ)を達成した魂は、ローカーカーシャの最頂部であるシッダシラー(Siddhaśilā)に到達し、永遠の至福のうちに存在するとされますが、それはアローカーカーシャの純粋な空間とは異なる、完成された魂の住まう領域です。

空間の理解は、私たちがどこに存在し、どこへ向かうのかという問いに対する、ジャイナ教なりの宇宙的な座標軸を与えてくれます。

 

ドラヴィヤ:宇宙を構成する実体群

ジャイナ教の哲学は、世界を多元的な実在論に基づいて理解しようとします。宇宙は、いくつかの根本的な実体(ドラヴィヤ、Dravya)から構成されており、これらはそれぞれ固有の性質を持ち、互いに影響し合いながら存在していると考えます。

主な実体は以下の通りです。

  • ジーヴァ(Jīva):魂、生命体

    意識を持ち、知覚し、苦楽を感じる能力を持つ実体です。本質的には無限の知、無限の楽、無限の力を有していますが、カルマによって覆われています。人間、動物、植物、さらには目に見えない微生物に至るまで、あらゆる生命体に宿るとされます。これが、アヒンサー(非暴力)の徹底が説かれる根拠となります。

  • アジーヴァ(Ajīva):非魂、非生命体

    魂とは異なり、意識を持たない実体群です。以下のものが含まれます。

    • プドガラ(Pudgala):物質

      色、味、香り、触感などを持ち、感覚によって捉えられる実体です。原子(パラマーヌ、Paramāṇu)から構成され、結合したり分離したりして様々な形をとります。カルマもまた、微細な物質的粒子(カルマ・プドガラ)であると考えられています。

    • ダルマースティカーヤ(Dharmāstikāya):運動の条件(媒体)

      魂や物質が運動するのを助ける、目に見えない媒体です。水が魚の動きを助けるように、ダルマは運動そのものを引き起こすのではなく、運動を可能にする条件となります。

    • アダルマースティカーヤ(Adharmāstikāya):静止の条件(媒体)

      魂や物質が静止するのを助ける、目に見えない媒体です。地面が旅人の休息を助けるように、アダルマは静止そのものを引き起こすのではなく、静止を可能にする条件となります。

    • アーカーシャースティカーヤ(Ākāśāstikāya):空間

      全ての他の実体に場所を提供する実体です。前述のローカーカーシャとアローカーカーシャに分けられます。

    • カーラ(Kāla):時間

      変化や持続、新旧の区別などを可能にする実体です。他の実体とは異なり、空間的な広がり(アスティカーヤ)を持たないとされます。

これらの実体は、互いに独立しつつも、相互に関連し合いながら宇宙の現象を生み出しています。特に、魂(ジーヴァ)と物質(プドガラ)としてのカルマとの相互作用が、輪廻転生と苦しみの原因であるとジャイナ教は説きます。

 

ジーヴァ:解放を求める宇宙の中心

ジャイナ教の宇宙観において、最も中心的な位置を占めるのが魂(ジーヴァ)です。全ての生命あるものは、このジーヴァを内包しています。その本質は、無限の知識(アナンタ・ジュニャーナ)、無限の直覚(アナンタ・ダルシャナ)、無限の幸福(アナンタ・スカ)、無限の力(アナンタ・ヴィールヤ)であるとされます。

しかし、無始の過去から、魂は微細な物質的粒子であるカルマに覆われ、その本来の輝きを失っています。このカルマの流入と蓄積が、魂を肉体に縛り付け、輪廻転生のサイクルに閉じ込め、苦しみを生み出す原因となるのです。

ジャイナ教は、この魂の多様性を、感覚器官の数によって分類します。

  • 一感覚生物(エーケンドリヤ):触覚のみを持つ(例:植物、土、水、火、風の元素生物)

  • 二感覚生物(ドヴィーンドリヤ):触覚と味覚を持つ(例:貝、ミミズ)

  • 三感覚生物(トリーンドリヤ):触覚、味覚、嗅覚を持つ(例:アリ、シラミ)

  • 四感覚生物(チャトゥリンドリヤ):触覚、味覚、嗅覚、視覚を持つ(例:ハチ、ハエ)

  • 五感覚生物(パンチェーンドリヤ):触覚、味覚、嗅覚、視覚、聴覚を持つ(例:人間、高等動物、鳥類、魚類、一部の地獄の住人や神々)

この分類は、アヒンサーの実践において極めて重要です。感覚器官が多いほど、その生命体が感じる苦痛も大きいと考えられ、より高度な注意と配慮が求められます。しかし、たとえ一感覚生物であっても魂を宿しているという認識は、ジャイナ教徒に可能な限りあらゆる生命に対する不殺生を徹底させるのです。

魂の究極の目標は、このカルマの束縛から完全に解放され、本来の無限の性質を取り戻すこと、すなわちモークシャ(解脱)です。このモークシャに至った魂は、ローカーカーシャの最頂部であるシッダシラーに到達し、永遠の至福のうちに存在すると考えられています。

 

宇宙観と実践の不可分な結びつき

ジャイナ教の宇宙観は、単なる思弁的な理論に留まらず、その教えの実践と深く結びついています。宇宙が永遠であり、カルマの法則が厳密に作用し、魂が輪廻転生を繰り返すという世界観は、ジャイナ教徒にとって倫理的な生き方、特にアヒンサー(非暴力)、サティヤ(真実語)、アステーヤ(不盗)、ブラフマチャリヤ(不淫)、アパリグラハ(不所有)という五大誓戒を遵守する強い動機となります。

宇宙のあらゆる場所に魂が遍在するという認識は、自らの行動が他者に与える影響に対する深い自覚を促します。また、時間の壮大なサイクルを理解することは、目先の利益や快楽に囚われず、魂の浄化という長期的な目標を見据えた生き方を可能にします。

このように、ジャイナ教の宇宙観は、その信仰と実践のあらゆる側面に浸透し、ジャイナ教徒の生きる指針そのものとなっているのです。

 

現代におけるジャイナ教宇宙観の意義

現代社会は、科学技術の発展により、かつてないほどの物質的な豊かさを享受する一方で、精神的な空虚さや環境問題、倫理観の希薄化といった多くの課題を抱えています。このような時代において、ジャイナ教の宇宙観は私たちにいくつかの重要な示唆を与えてくれます。

第一に、万物に魂が宿り、宇宙全体が相互に関連し合っているという思想は、人間中心主義的なものの見方を相対化し、自然環境や他の生命に対する深い敬意と共生の精神を育む上で重要な視点を提供します。

第二に、カルマの法則と輪廻転生の思想は、短期的な成果や効率のみを追求する現代の風潮に対し、長期的な視点と自己の行為に対する責任感を持つことの重要性を教えてくれます。

第三に、魂の内なる無限の可能性を説く教えは、物質的な豊かさだけでは得られない真の幸福や心の平安を求める現代人にとって、内面への深い洞察と精神的な成長を促す道しるべとなり得るでしょう。

 

おわりに:宇宙の深淵を覗き、自己のあり方を見つめる

ジャイナ教の宇宙観は、現代の科学的宇宙論とは異なるアプローチで世界を捉えますが、その緻密な論理体系と深遠な洞察は、私たち自身の存在とは何か、いかに生きるべきかという根源的な問いに対する豊かな思索の材料を提供してくれます。

それは、単に宇宙の成り立ちを知るという知的探求に留まらず、私たちの魂がこの広大な宇宙の中でどのような位置を占め、どのような可能性を秘めているのかを照らし出し、より意識的で、より倫理的な生き方へと私たちを導いてくれるのかもしれません。この古代の叡智に触れることは、現代を生きる私たちにとって、自己と世界を新たな視点で見つめ直す貴重な機会となるでしょう。

 

 

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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。