沈黙のその先にある「本当の声」を聴く【続・モウナとヨガの話】

自己啓発

前回、言葉を手放す「モウナ(沈黙)」という実践についてお話ししました。
口を閉ざすことで、漏れ出していたエネルギーを内側に留めることができる、というお話でしたね。
しかし、実践された勘の良い方なら、すぐに一つの壁にぶつかったはずです。

「口は閉じたけれど、頭の中がうるさくてたまらない」と。

そう、物理的に口を閉じることは、実は入り口に過ぎません。
本当のヨガの実践は、その先にある「内なるおしゃべり」といかに向き合うかという、より微細で深遠な領域へと入っていきます。
今日は、沈黙のその先にある世界と、そこで初めて聞こえてくる「本当の声」について、少し深く潜ってみましょう。

 

口は閉じても、心は叫んでいる

ヨガの定義として最も有名な言葉に「ヨガとは心の作用を止滅することである(チッタ・ヴリッティ・ニローダ)」というものがあります。
私たちは普段、口で喋っていない時でも、頭の中で絶え間なく喋り続けています。
「あの人の言い方は気に食わない」「明日の会議はどうしよう」「お腹が空いた」「昔は良かった」
これを「内言(ないげん)」と言いますが、エネルギーの消耗という意味では、実際に声に出すことと同じくらい、あるいはそれ以上に私たちを疲れさせています。

現代社会はこの内言を加速させる装置で溢れています。
次々と流れてくるショート動画、刺激的なニュース見出し。それらに反応して、私たちの脳内トークは24時間ノンストップのライブ配信状態です。
口を閉じる「モウナ」は、この暴走するライブ配信のスイッチを切るための準備段階なのです。

 

ヨガ哲学が教える「言葉の4つの段階」

少し専門的なお話をしましょう。
古代インドの言語哲学やタントラヨガでは、言葉(ヴァック)には4つのレベルがあるとされています。

ヴァイカリー(Vaikhari): 実際に口から発せられた言葉。私たちが普段コミュニケーションで使っているレベルです。

マディヤマー(Madhyama): 中間の言葉。口には出していないけれど、頭の中で言語化されている思考や独り言です。

パシャンティー(Pasyanti): 見る言葉。言語化される前の、イメージや直感、「あ、わかった!」という瞬間のひらめきの状態です。

パラ(Para): 超越的な言葉。純粋な意識そのもの。静寂。

私たちが目指す「深い沈黙」とは、一番表面的な「ヴァイカリー」を止め、騒がしい「マディヤマー」を鎮め、創造の源泉である「パシャンティー」や「パラ」の領域へと降りていくことです。
現代人の多くは、表面の2層(口に出す言葉と、頭の中の言葉)だけで生きてしまっています。
だからこそ、根源的な安心感や、突き抜けるような直感から切り離されてしまっているのです。

 

「退屈」という名の門番を超える

内なるおしゃべりを止めようとすると、私たちは必ず「退屈」という巨大な門番に出会います。
スマホを置き、何もせず、ただ座っていると、強烈な退屈さが襲ってきます。
脳は刺激に飢え、「何か生産的なことをしろ!」「時間を無駄にするな!」と叫び始めます。

しかし、ここで逃げないでください。
この退屈さこそが、表層の意識から深層の意識へと切り替わるための通過儀礼なのです。
泥水が入ったコップを想像してみてください。
かき混ぜている間(思考している間)は、泥が舞っていて水は濁っています。
しかし、かき混ぜるのをやめて放置すれば(退屈を受け入れれば)、泥は沈殿し、上澄みには驚くほど透明な水が現れます。

退屈の向こう側にこそ、透明な静寂が待っています。
スピリチュアルな成長において、退屈と仲良くなることは必須科目のひとつと言えるでしょう。

 

エゴの声と、魂の声を聞き分ける

内なる静寂が深まってくると、不思議なことが起こります。
自分の中に、「二種類の声」があることに気づき始めるのです。

一つは、大きくて、騒がしくて、常に何かを恐れている声。
「もっと頑張れ」「失敗するぞ」「お前はまだ不十分だ」
これはエゴの声です。社会的な刷り込みや、過去の記憶から作られた自動音声です。

もう一つは、とても小さくて、穏やかで、しかし確信に満ちた声。
「こっちへ行こう」「それでいいんだ」「今は休もう」
これは魂(あるいは直感、ハイアーセルフ)の声です。

普段、エゴの声があまりにも大きいため、私たちは魂のささやきを聞き逃しています。
モウナ(沈黙)の実践によってノイズが減ると、この微細な周波数の声をキャッチできるようになります。
人生の重要な決断において、迷いがなくなるのはこのためです。
論理で考えた答えではなく、腹の底から湧き上がってくる「納得感」に従えるようになるからです。

 

静寂を持ち運ぶ生き方

山に籠る必要はありません。
大切なのは、賑やかな日常の中にいても、内側の深い場所には「誰も入れない静かな部屋」を持っておくことです。
仕事をしていても、会話をしていても、心の奥底にある「パラ(超越的な静寂)」の領域と繋がっていること。

例えば、誰かの話を聞くとき。
次に何を言い返そうかと考えながら聞く(マディヤマーのレベル)のではなく、ただ静かな鏡のように相手の言葉を映し出すように聞く。
すると、相手の言葉の裏にある感情や、本当に言いたいことが、手に取るように分かるようになります。
沈黙は、コミュニケーションを断絶するものではなく、むしろ最も深いレベルでのコミュニケーションを可能にするツールなのです。

言葉を減らし、思考を減らし、エゴのボリュームを下げていく。
そうして生まれた空白のスペースに、宇宙の叡智が流れ込んできます。
私たちは、何かを考え出す必要はありません。
ただ、ノイズを止めて、すでにそこにある答えを「聴く」だけでいいのです。

今日も、あなたの内側にある静寂を大切にしてください。
その静けさの中で、またお会いしましょう。

ではまた。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。